さがし者
ここが兄さんの本に書かれたマグノタッテ。魔法が発達した街で刻紋を持つ人々暮らす場所。あたりには、キールの言うとおり浮遊するものや蝋が無い街灯があった。
(すごいな・・・。そういえば、シーファとハクアにも刻紋があるんだよな・・・。見せてもらうことは出来ないだろうか)
うんうんとミレンが唸っている横で、ハクアが思いついた!というように切り出した。
「あっそうだ!シィ、あなたの家に案内なさいよ」
「「なっ!?」」
ハクアの爆弾発言に思わずシーファとミレンの声が被った。
「なんでよ!ハクの家は・・・無理だけど、私の家だって!」
「シーファ、忘れたなんて言わせないわよ」
「・・・!忘れてなんてないわよっ。忘れられるわけ・・・ない」
「だったらいいわ。ミレンさん、シィの家でお世話になってください。私の家には負けますが結構立派な家なんですよ?」
「あ、あぁ。そうさせてもらう。シーファ、いいか?」
「何勝手に呼び捨てにしてんのよあんた!ハクに言われたから仕方なく、よ。分かったなら早く着いてきなさい!」
シーファは肩を怒らせながらずんずん歩いていく。ミレンとハクアを置き去りにして・・・。ミレンも追いかけようとしたが、ハクアに手を捕まれ止められた。
「追いかけなくていいの?」
「うふふ、追いかけますよ?でも、あと少しで面白いものが見れます」
ハクアはそう言ってシーファの方を見た。つられてミレンもそちらに視線をやるとシーファがこちらを振り向いて、すごいスピードでやってくるではないか。
(なんだ!?)
「どうして着いてきてないのよ!1人で喋っちゃって恥ずかしい思いしたじゃない!あんたのせいよ!ばかばかばかっ」
(全て確認しなかったシーファが悪いではないか)
「確認せずに喋ってたシィが悪いわ。ね?ミレンさん?」
ハクアはさらっとミレンを巻き込もうとする。しかも全く悪気がない顔で。しかしミレンには、巻き込まれてやる気はない。
「追いかけようとした俺をハクアが止めた。俺はお前を追いかけようとしていた。怒るならハクアだけを怒れ」
「やっぱりハクのせいね?そうだと思ったわよ!あ、逃げるなぁ!」
待ちなさーい!とシーファは逃げるハクアを追いかけて行ってしまった。2人はミレンを残しどこかへ消えた。
「・・・どうしろと?」
始めてきた街で、1人取り残された。ここが大門近くだったなら良かっただろう。だがしかし、ここは大門からだいぶ進んだところだ。それに、マグノタッテは思っていたよりも小路が入り組んでおり、どこを曲がってきたのかがはっきりとは思い出せない。
「とりあえず、大通りに出ればなんとかなる。───────右か?まぁ、右でいいか・・・」
右に曲がったところで、通りからぬっと出てきた男とすれ違う。ミレンは気にすることなく歩き続けたが、男の方はそうではなかった。立ち止まり、ミレンのこと勢いよく振り返ったのだ。
「おい!」
「うぉっ!?」
急に呼び止められたミレンは予想していなかったため、変な声が出た。
「なんですか・・・?」
ミレンは謎の男に訝しげに問いかけた。
「君は・・・キールという名前か?」
「兄さんを知っているんですか!?もしかして・・・行方不明になった子供の・・・?」
「兄・・・君は彼の弟くんなんだな。そうだ、娘を助けてくれたことに、感謝する」
そう言って男はミレンに対して、深々と頭を下げた。
「顔を上げてください。俺は何もしてませんし・・・」
「そうか・・・。それにしても、彼の弟くんがどうしてここに?」
「兄が行ったところを回ってるんです。ここに来たのも兄の影を探──」
「お父さん!?」
ミレンの言葉は突如響いたシーファの声で途切れた。シーファはミレンの横を駆け抜け、お父さんと呼んだ男の前まで行く。ミレンのそばには捕まったのか、ハクアが来た。
「あの人はシィのお父さんなんですよ。何があったんです?」
「何も無いけど・・・?」
「そうですか」
ハクアはそれだけ言うと、シーファのもとに小走りで向かった。ミレンもゆっくりとその後ろをついて行く。
「だから、大丈夫だって言ってるだろう」
「だってお父さん・・・私・・・」
「シィ!そういうのは家に帰ってからになさいよ。ミレンさん困ってるし・・・お父様もいいですよね?」
「もちろんだ。家に帰ってからゆっくり話そう。お前のこと、〝これからのこと〟」
(これからのこと?この街に来てから理解できないことが多々あるな。主にシーファの言動が)
「ミレンくん」
「っはい!」
「家へ来なさい。元々そのつもりだったんだろ?」
「はい。短い間ですが、お世話になります」
「はは!キールくんも全く同じことを言っていたなぁ」
行く街行く街で、キールの影を見つけられる。
(やっぱり旅に出て正解だったな・・・)
シーファの家までの道を、シーファのお父さんを先頭にして、ミレンたちは歩く。何故かさっきと同じ並び方で歩くことになった。
(なんでこうなってる・・・ほんとこいつに信頼されてないんだな、俺は)
数分も歩くと少し周りより大きな家が見えてきた。
(もしかしてあれのことだろうか・・・?)
「あれが家です。ハクアの家に比べると小さいですが、ゆっくりして行ってくださいね」
(ハクアの家より小さいだと!?この街の市長ってのはどうなってるんだ・・・)
中に通され、見えたものは沢山の植物と水。
「どうしてこんなに植物が?」
疑問に思ったミレンがシーファの父親に尋ねるた。普通、外にあるもので中にこんなに沢山あるものではない。
「あぁ。それは私たちが使う系統の魔法によるもの。植物と水、これが私たち家族が得意とする魔法なんですよ」
壁にかけられた額縁のような鉢からは淡い黄色の花。その壁にはガラスがはめられており、奥には水が流れているのが見える。遠くに見えるバルコニーには、濃い紫がその花を惜しげも無く垂らしている。
「綺麗でしょう?」
「え?」
「あの花、私が咲かせたの」
まるで褒めなさいと言っているような顔で自慢してくる。シーファは初めて、ミレンに怒っている以外の顔を見せた。ミレンがシーファを伺い見ると、顔はどこか柔らかく、口元も少し緩んで微笑んでいるように見える。よほど、あの紫の花が好きなんだろう。エメラルドの瞳を輝かせて視線を外すことなく見続けている。
「綺麗だと思うよ」
(何か大切な思い出でもあるのだろうか)
ミレンがそう思うには十分の時間だった。
「おかえりなさい」
「ただいま、お母さん。お客さんが来たの・・・お茶の準備をしてほしいんだけど・・・」
2階から降りてきた女性をシーファは母と呼んだ。シーファと同じエメラルドの瞳とふわりとした長いブロンズの髪だった。彼女は快く受け入れ、キッチンへと向かった。
「さぁ、中へどうぞ。特別なことは何も出来ないが・・・」
「泊めてくださるだけで十分です。お邪魔します」
───────
シーファの母親が入れてくれたお茶はとても美味しかった。ついでといって出してくれた焼き菓子も、お店で出せるようなレベルの味だった。この国ではオーブンや家電も魔法の力で動いているそうだ。
「すごいですね。俺の街はここまで魔法が発達してなかったので、全て新鮮です」
「そうかそうか!そう言って貰えると嬉しいな」
シーファのお父さんと、ハクアのお父さんは幼なじみらしく、彼が治めているこの街を褒められたことがよほど嬉しいらしい。
───────
「さて、前座はこれくらいにして・・・これからのことを話してもいいかな?」
「あの・・・さっきからずっと気になってたんですけど、これからのことってなんですか?」
シーファのお父さんは少し黙り込んだあと、おもむろに立ち上がり食器棚へと向かった。
「ミレンくん、見えるかい?うちの食器は常に4つ用意されているんだ」
ガラス戸の奥に見える食器は全て4つ組だということが分かる。
「お客用、ですか?」
ハクアが度々泊まるから、1つ多めに用意されているとミレンは思った。
「違うよ・・・。私たちは、4人家族だったんだ」
「え、でも。ここには・・・」
「そう、ここにいない。これからのことっていうのは、それについてだ」
シーファのお父さんは少し息を吸って吐いた。
「ミレンくん、うちのシーファとともに、娘を探してくれないか?」