閑話
『 2番目に行った街は、マグノタッテという。ここは〝魔法〟が高度に発達した街だ。街にある唯一の大門を始め、周りに張り巡らされた壁にまで市長の結界が張ってあるらしい。
話に聞くとこの街の人々には、〝刻紋〟と呼ばれる魔法を使える証が刻まれているらしい。ある人のものを見せてもらった。その人には、青い刻紋が刻まれていた。青い刻紋は、水系統の魔法が使えるそうだ。そのほかにも、緑赤黒黄色・・・など沢山の種類があり、それぞれ異なった魔法が宿る。しかし、人それぞれ魔法の力の強度は違うようで、同じ青でも色が薄いものと濃いものがあるそうだ。その色の違いで強度が分かる、らしい。
俺が見せてもらった人の刻紋の青はとても濃く、綺麗だった。
マグノタッテ滞在は3日になった。少しやらなければならないことが見つかったからだ。
泊めてくれていた家の子供が行方不明になる事件が起こった。その子が帰っていないことに気がついたのは、日が暮れ月が空に昇ってからだった。普段から帰りが遅い子だったらしく、帰ってこないことに疑問を持つ家族がいなかったことが原因で気づくのが遅くなった。
さらに家族全員、その子が普段どうして遅くなるのかどこで何をしているのかについて全く知らなかった。探す当ては街全体と、途方もなかった。とりあえず探しに行こうと、俺を含めたその場にいたものが捜索にあたった。広い街で幼い子1人を見つけるのは苦労した。出来ればもうしたくない・・・。
その後、明け方近くになって大門近くの壁のそばですやすや寝ているのが発見された。
とりあえず家へと連れて帰り、起きたところで母親の説教を受けてもらおうという話になり、起こさないように抱き上げ帰路についた。捜索にあたった俺たちは一睡も出来なかったので、母親に子供を預けたあと、リビングで雑魚寝した。
目が覚めたのは、母親が子供を叱る声だった。
「何をしていたの!いくら私たちが魔法を使えるからといっても、あなたはまだ子供なのよ!しかも大門の外は夜は行ってはいけないと教えたはずです。・・・あなたに────の自覚はあるんですか?」
「どうせかわりだもん。いいじゃんべつに」
「あなた・・・っ!」
母親がその子供を、平手打ちしようとしているのが見えたとき体が動いていた。
パンッッ
平手打ちを食らったのは、子供ではなく俺だった。庇った子供は困惑顔をしていた。
「どうして?魔法があるからたたかれても大丈夫なのに・・・」
「大丈夫、じゃないよ。いくらきみに魔法があっても、叩かれちゃいけない。教育において、暴力はいけないことなんだ。・・・・・・でもね?きみのお母さんはきみの帰りが遅いことをとても心配していた。それはもう、すごくね。いつ倒れてもおかしいくらい顔は真っ青だったよ。きみのことが大切だからじゃない?───のかわりだなんてきっと思ってない」
俺の言葉に子供はただ困惑するだけだった。母親はその様子をじっと見ていた。
「おかあさん、ほんと?」
「あなたを────のかわりだなんて1度も思ってないわ。そんな気持ちであなたを育ててきたわけじゃありません。叩こうとして、ごめんなさい。怖かったでしょう?」
母親は子供を優しく抱きしめた。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい!うわぁぁぁん・・・っ」
母親の温もりを感じた子供は堰を切ったように大声で泣き始めた。ふとリビングの方をみると、捜索メンバーはこちらを安心したように見ていた。後で聞いた話によると、子供は母親が自分をずっと────のかわりとして育てているように感じていたらしい。その事が家に帰りたくない理由になってしまい、遅くまで大門の近くで遊んでいたのだと。それは、子供の勘違いだったということが今日わかった。あの子はきっといい子に育つ。成長が楽しみだ。
この捜索により、本来出立だった日に街を出ることが出来なかった。でもそれはそれで良かったのだ。この街をゆっくり回れる口実が出来た。それに、急ぐ旅でもない。・・・待たせている弟はいるがこれもすべて弟のためになると思うと、楽しくて仕方がない。
街には本当に魔法が溢れていた。街灯や部屋の電球は光の魔法が使われていた。街の中心にある噴水も水魔法によって巻き上げられているらしい。炎を使った魔法で大道芸をする人もいた。風魔法を使えば、なんでもものを浮かせることができるそうだ。風魔法と火魔法を活用し、気球のような乗り物を交通手段にしている人も見られた。この街は生活の全てに魔法が関わっているようだ。
3日目の朝、街を出る日だ。停めてくれた家人に礼を言い大門へと向かった。さて次の街はと考えながら歩いていると、ドンッと背中に衝撃が走った。振り向くと、あの子供がいるではないか。どうした?と聞くと、気をつけてねと言ってくれた。どうやらあの一件から、懐かれてしまったようだ。弟と同じくらいの年の子に懐かれるのは悪くないが、故郷に残してきた弟のことを思い出してしまい、なんだか寂しくなる。またねっ!という子供に、またねと返し大門を出た。』
閑話にて、キールの小説を挟んでいきます