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異世界で忍者と会ってみよう

 これで帰るのかと思いきや、寄ったのはダンさんち。

「忍者紹介するって言ったじゃん?」

「ああ、うん。え、ダンさんとこいるの?」

 あ、情報部だもんね? 諜報員にいてもおかしくないよね。

「いるっていうか、ダンがそうだし」

 は。

 ぽかんと口開けた。

 ええええええええ?!

 思わず言葉足らずな王子殿下の襟首ひっつかんだ。

「何でもっと早く言わなかったの?!」

「いや、機密情報だもん。往来じゃ言えないよ」

 そりゃそうだ。

 確認するようにダンさんに視線向ければ、肩すくめられた。

「うちの母方が代々忍者の家系でさー。要するに王家直属の隠密」

 ワァオ。←なぜか英語

 すごい追加設定キタ。軍人、遊び人、猫耳幼な妻、忍者にスパイってどんだけてんこもりよ。設定もりもりじゃないか。

 ルークみたくマイナス方向の設定もりもりにされてもドン引きどころの騒ぎじゃないが、プラス方向もりもりにしまくられても、正直もういいかな。お腹いっぱい。

「つっても、細々とやってただけな。情報収集専門で、裏工作は別に担当がいた。で、そういう王家の使ってる部隊や民間組織をまとめて組織化したのがコイツ」

 ルークを指す。

「この変人のおかげで、オレこき使われてんの。かわいそー」

「なるほど、それでスズネちゃんの保護をダンさんがしたんですね。セキュリティもばっちりそう」

 落とし穴とかトラップあんのかな。

 ごく普通のちょっと大きめな洋館とスタンダードな英国風庭園を眺める。

「たいしたことねーよ。侵入者対策だろ? 石像の目からビーム出たり、そこらへんに毒草や食人植物植わってたり、電気攻撃できる蛇飼ってる程度」

「いやいやいやツッコミどころ満載ですから!」

 たいしたことだよ!

「石像作ったのはルークだよ。コイツが悪ふざけで作ったの、親父が気に入って置いたんだ。マジ趣味理解できねぇ」

 まったくだ。

 そういやこのアホ、奇怪な音発するメリーゴーランドの馬作ったことあったな。あのテか。

 ダンさんは気の毒そうに、

「つーか、うちなんかかわいいもんだぜ。嫁ちゃんのほうがよっぽどヤバい屋敷住んでんぞ?」

 ……え?

「……はい?」

 口の端がひきつった。

 嫌な予感がひしひしと。

「コイツ言わないだろうから教えるけど、あそこ仕掛けに罠にカラクリだらけだぜ? オレが知ってんのは一部だけで、全部知ってるのは作った張本人ルークだけだろうな。防御システムも迎撃システムって言っていいレベルだし」

 迎撃ってなに?!

 ギギギギギと機械音しそうな感じで振り向いた。

 王子殿下はどこ吹く風。

「だって、これでも情報局のトップだもーん。本部も兼ねてる施設を相応の作りにするのは当然じゃん」

「だもーん、じゃないっ! 私そんなとこ住んでたの!? 出る、もっと安全な物件紹介して!」

 異世界転移は近年よくある話でも、行ったらスパイ総本山・情報局本部に変人の極みと住んでましたテヘッ☆なーんてあるか!

「俺の屋敷ほど安全地帯ないよ」

「どこが安全?!」

 危険な匂いしかしない!

 言うまでもなく最も危険なのはこの男である。

「ミドリもあの男に狙われてるじゃん。うちは使用人に至るまでプロ、っていうか情報局の人間だし。防御システムも最先端で、まず侵入不可能」

「うぐっ」

 正論である。

「たとえミサイル打ち込まれたって平気だよ」

「キラキラして親指立てて言う内容?! 個人の屋敷になんでミサイル迎撃システムあんのよ!」

「本部でもあるからだよ」

 どこの基地だよ。

「ふ、普通の屋敷だと思ってた……」

 いや、主人がコレな時点で普通じゃないんだけど。

 私は異世界人だ。屋敷の構造とか働いてる人とか、ちょっとおかしいなと思っても文化の違いだとばかり。

「じゃあ、廊下に置いてある謎の彫刻とか変な絵もインテリアじゃなくて、何か仕込んであるのね?」

「全部じゃないよ。大半は俺の悪ふざけ。適当に置きっぱなだけ」

「悪ふざけかい!」

 こらぁ!

「うん。巨大イカとハムスターが火口でフラメンコ踊ってる絵とか、逆立ちしながら足でコーヒー淹れつつ片手でパソコン操作して尺八吹いてる陽気なオッサンの像とかそう」

 もう駄目だ。ツッコミが追いつかない。

 スズネちゃんが物理的に一歩引き、ダンさんが後ろにかばった。

 気持ちはよく分かる。

 こんなんある家なんか住みたくないって、みんな分かってくれるよね?!

「悪ふざけにしても趣味悪すぎる! 帰ったら全部撤去しなさい! 夜恐いのよ色んな意味で!」

 学校の怪談の人体模型みたく動いたらどうしよう、って本気で恐いんだからね! むしろそんなものたちすらも裸足で逃げ出すくらい恐い。人体模型は初めから裸足だ。

「百年くらい前に連続徹夜した時、ノリに任せて作ったんだよね」

「犯人はお前か!」

 でも納得!

「別にミドリが気に入らないなら処分するよ。好事家が買いたいって言ってたし」

「あんなの買うって、趣味どうかしてるんじゃない?!」

 それともこっちの世界の美意識はあれが『芸術』なの?!

「俺の作品、芸術的価値あるってコレクターが高値で買いたがるんだよ。俺は芸術家じゃないからたまにしか作らないし、余計値段上がるんだって」

「あのテのイカレた作品量産してたら、確実にそいつは狂人だと思う」

 ダンさんとスズネちゃんがものすごく同意した。

 馬鹿と天才は紙一重どころか、狂人とも紙一重だ。

 奇人はポンっと手を打って、

「そうだ! 空いたスペースはミドリのポスターとか写真貼るね。絵とか彫刻もいいかもなぁ。ようし、さっそく作ろ!」

 ナイスアイデアとばかりに瞳輝かせてる。

 うぎゃあああああ!

 絶叫してガクガクとルークを揺さぶった。

「いやあああああ! それだけはやめて! 普通にマトモな美術品置いてー! それか何も飾らないで!」

「どんな美術品よりミドリのほうが綺麗だよ」

「不気味なセリフ吐くな!」

 鳥肌立ったわ!

「ええ? 不気味? ダン、ほんとのことなのになんでだと思う?」

「スズネ、行くぞ。変な人には近づいちゃダメだ」

「うん」

 逃げるように去ろうとする二人。

 ああっ、置いてかないでー!

 斜め上方向にかっとぶ天使様をどうにかあきらめさせ、後を追った。


   ☆


 屋敷の中は落ち着いたテイストだった。とてもカラクリ忍者屋敷とは思えない、ヨーロッパ風の建築。

 出迎える使用人たちも普通。平凡な人たちに見える。といっても顔面偏差値は高いけど。

 アンジェ族全体が顔面偏差値高すぎるもんで、日本だと美男美女が普通レベルになってきてる私。帰るまでに価値観修正しといたほうがいいな。

 漫画みたいな初老のダンディ執事にダンさんがきく。名前はやっぱセバスチャンですかね。

「妹たちがそろってるって?」

「はい。ルーク様のお妃様がいらっしゃると聞き、全員駆けつけられました」

「私はこいつのお妃じゃないんですけど」

 言ってる最中にドドドドドドドドドと足音がした。

 すごい音量。え、何人?

 どわっと六人の女性たちが視界全体埋める勢いで飛びこんできた。

「お帰りなさいっ、スズネちゃん今日も可愛いわねぇ!」

 真っ先にスズネちゃんにとびつき、かわるがわる抱きしめる。兄であるダンさんは無視して。

 いつものことなのか、スズネちゃんは慣れた様子で抵抗しない。

「ちょっと背伸びたかしら?」

「流行りのブランドの新作買ってきたのよー。後で着てみせてねっ」

「お店の新メニュー、この前食べに行ったのよ。おいしかったー」

「やっぱスズネちゃんの料理が一番よねー。嫁いで何が一番不満って、毎日あなたの料理食べられないことよ」

「ねぇねぇ、しっぽに似合いそうなかわいいアクセ買ったの~。つけてみて?」

 マシンガンみたく一斉にしゃべる六人。誰が何言ってるのか全然聞き取れない。

 すごい迫力。

 ダンさんこれ日常だったのか。

 聖徳太子並みの、同時に聞いて理解できる能力なきゃ無理じゃない?

 ダンさんがパンパンと手を打った。

「ほら、そこまでー。ルークの嫁ちゃん来てんだぞ。まず挨拶しろ」

「はーい」×6

 六人はサッと横一列に並んだ。

 慣れてる整列ぶり。

 ……んん?

 妹さんたちはマトリョーシカかな?ってくらいそっくりだった。

 髪型がストレートか結んでるかとかの違いはあれど、ほぼ同じな顔がゾロリ。

「……分身の術?」

 おおー。これが有名なあれかぁ。

 この目で見ることができるとはねぇ。

「いんや、全部本物。そっくりだろ、うちの妹」

「え?! 六つ子?」

「違う。年子なだけ。とりあえず紹介するな? オレの隣からエブリン、フェイス、グレース、ホリー、イザベラ、ジェーン」

 ダンさんのDの次でEFGHIJってことか。

 見分けられる自信も覚えられる自信も皆無。

「見分けようとかがんばんなくていーぜ。無理無理。家族以外で分かる奴はまずいねーもんよ。『妹さん』って言っときゃ誰かは返事すっから」

「初めまして、お妃様!」×6

「いや、私はこいつの妃じゃないんで」

 すかさず否定。

 マトリョーシカはころころ笑って、

「まぁ、照れてらっしゃって」

「よく奇天烈なルーク殿下がこんないいお嫁さんゲットできたものね。天変地異の前触れかしら」

「わたし、ついに人間そっくりなアンドロイド作って嫁にしたのかって背筋寒くなったわよ」

「分かる分かる。そのデマ、私も信じてたわ」

「お妃様の作られたアクセ、わたし買ったんですよ! 愛用してます!」

「原案やってらっしゃる漫画、大ファンです! サインください!」

「あ……はぁ、どうも……」

 一気に押し寄せる声と迫力に負け、請われるままに差し出された本にサインする。

 つーか、アンドロイドを自分で作って嫁にしたって何そのデマ。マジでありえそうで嫌だ。

 ルークが肩をすくめて、

「順番にしゃべれ。エブリン、フェイス。俺はそこまで変人じゃない」

「いや、あんたならありそう。って、見分けつくのね」

「分かるよ? 体のパーツの大きさはそれぞれ違うからさ」

 ミリ単位で判別してんの?

「着眼点がおかしい。それができるのも普通じゃない」

「そう? 指名手配犯が変装してても分かるんで、便利だよ」

「一般人がそんなスキル使う機会ないわ」

 警察官ならすごく役立つだろうけど。

 ……ってそういやこいつ、情報部のトップだった。本業じゃん。

「でさ、この六人がみんなくノ一」

「あ、そっか。……うわ、すごい構図」

「全員嫁いでんだよ、役立つとこに。こいつらは戦闘員っつーか情報収集部隊な」

 はー。確かにこんな美女たちにならポロポロ機密もしゃべるだろうね。

「あ、さっき話にあった相続税で屋敷手放した忍者ってのは……」

「それは別の家系。色々流派があんだよ」

 伊賀とか甲賀みたいな?

「私達はみんな恋愛結婚ですけどね」

「そうそう。いくら家業でも嫌いな男んとこには嫁ぎたくないわー」

「で、兄さんとこはいつ跡取りできるの?」

「兄さんもういい年なんだから考えなさいよ」

「いくら幼な妻っていってもねぇ」

「言い訳はやめてね」

 実の妹さん方は遠慮もへったくれもなくぶちこんできた。

 ゴフッとダンさんが変な音出し、スズネちゃんが真っ赤になって縮こまる。

「あのなぁ! 知ってるだろ、オレはスズネの保護のために形だけ籍入れただけなんだよ!」

「まーた言ってる」

「あのね、かわいい子猫ちゃんをよそにやる気はないの」

「そーよそーよ、スズネちゃんはうちの子なのよっ!」

「よその男が寄ってきても潰してやるわ!」

 ダンさんは額に青筋浮かべて仁王立ちした。

「いいか、オレは保護者。最適な相手を見つけて嫁がせてやる義務がある。お前たちと同じに」

「同じじゃないでしょ」

「任務だって他の女の人に近付きまくってジェラシー作戦やってるくせによく言うわ」

「はああ?」

「スズネちゃんがかわいそうでしょーが。そうやって相手の気持ち試す真似ばっかしてると愛想つかされるわよ!」

「なことしなくてスズネちゃんが兄さん好きなのは丸わかりだってのにねー」

「あ、愛想つかすなんてないもんっ! お仕事だってちゃんと分かってるし、あたしは本気でダンが好きなんだもんっ!」

 両手拳にぎりつつ、真っ赤なまま宣言する子猫……じゃなかったスズネちゃん。

 猫耳と尻尾が出てます。非常にかわいらしいです。

 モフりたくて、つい手がわきわきしそうになった。

 マトリョーシカたちが「かわいい~っ!」って一斉にスズネちゃんを抱きしめた。あー、いいなー。

「もー、こんなかわいい奥さん手放そうとか、この罰当たり兄」

「そうよねー、スズネちゃんはわたしたちのかわいい妹だもんねー。よその男にはやらないわ」

「うん。兄さんだからしょーがなく許してあげてんのよ。超絶鈍感アホ男でもね」

「どーせスズネちゃんは自分から離れてかないからって、安心しきってんでしょ。うーわー、自信過剰」

「違うっつってんだろーがー!」

 妹六人に責められ、お兄さん悲鳴。

 うーむ。

 私はルークをつついた。

「ねえ。これだけ強力な応援いたら、私が出しゃばることなくない?」

「それがさ、妹たちや俺だといくら言ってもダンのやつ真剣に聞かないんだよ。第三者の言うことなら聞くかと思って」

「ああ~」

 マトリョーシカはスズネちゃん取り囲み、何やら作戦会議を始める。

「いっそ強硬手段に出たらどうかと思うのよ。はいこれ」

「ななな何が入ってるんですか、この小瓶っ?!」

「だーいじょうぶ。ちょーっと強めに改良してある媚……なんでもないわ~」

「でも効く? 兄さんも小さい頃から毒に耐性つけてるじゃない」

「じゃ、夜中こっそり部屋に忍び込むとか。手伝うわよ」

「防犯トラップあるものね。わたしたちがそれ破壊してスズネちゃん中に放り込めば」

「ろくでもない相談すんなお前ら――!」

 ダンさんが本気で怒ってスズネちゃん救出した。

「おいで、教育上よろしくない!」

「……いつもこうやってエスカレートするんだよ、ダンの妹たち」

「うん、これはセーブ役必要だね」

「そうなんだよ~。いやはや、まいったよねぇ」

 ん?

 今の声誰?

 いきなり出てきたおじさんの声に辺りを見回せば、マトリョーシカの隣にさらにダンさんに似た、それより年上の男性がいた。

 さらに分身増えた?!

 年齢不詳の男性はヒラヒラ手を振って、

「どうも~、父のコンラッドでーす」

「お父さん陽気だね?!」

「うん、この能天気なのがうちの父……つくづく外見そっくりでやになるぜ」

「そんなことないもんっ。ダンも何年かすればこうなるって分かっていいじゃない。あ、あたしはその姿もかっこいいと思うっ」

 両手組んだお願いポーズみたいなの取って言い張るスズネちゃん。

 くっ……猫耳美少女がこんなかわいいポーズで好意全開ってかわいすぎるわ。こんなお嫁さん手放しちゃだめだって。

「コンラッド伯父さんは俺の母親の兄なんだよ」

 アンジェ族の王は女王のみ。男性はお婿に行くのが通例。

「職業は漫画家」

「え、ほんと?」

「ほんとでーす。ちなみに君が原案やってくれてるうちの一本は僕が描いてるよん」

 は?!

 すごい勢いで振り仰ぐ。

「聞いてない!」

「ペンネームだからねぇ。僕、ペンネーム3つあるんだよ。公表してるのはこっち」

 どっから出したのか、少年漫画のコミックスを取り出す。

 ルークが持ってたな。売れてるタイトルの一つだって聞いて、私も読んだ。王道のバトル系少年漫画。

「あ、読みました。面白かったです」

「そ? よかった。で、秘密のペンネームその1がこっち。これも少年漫画だけど、あんま売れてないんだ。好きなの描きたい時はこっち使うんだよ~」

 絵柄全然違う。一個目が王道で綺麗系の絵柄なら、こっちはちょっと粗目なタッチ。

「前女王の兄となると、描けるもの限られるからねぇ。期待されてるようなのじゃないやつ描きたいとき用になんだ~」

「大変ですね。……あれ? でも、この二つともペンネーム、私が原案渡してる漫画家さんのリストにはありませんよ?」

「うん。それはこれね」

 しれっと出してきたのは少女漫画。

 しかも超綺麗系な少女漫画の絵の。

「うわっ、ちょ、これ!」

 このペンネームは確かに見覚えあるわ!

「あっはっは。実は僕、一番好きなジャンルは少女漫画なんだよね~」

 忍者の父は乙男でした。

 さらに設定盛ってきたよ!

「少女漫画を男性が描いてるってなると、いまだに嫌悪する人もいるから隠してるんだ。でも君はいいよね、チーム組んでるわけだし」

「はぁ、そうですね。別に、個人的には人の趣味は個人の自由だと思います」

 そういうのは気にしないな。

「ありがと~。ね、サインちょーだい。代わりにこれ僕のサイン入りコミックス。交換ね」

 原作者と漫画家のサイン入りコミックス交換しました。なんだこれ。

「いや~、それにしてもさすがルークのお嫁さんだねぇ。全然気にしないとは。コレを受け入れられるだけはある」

「受け入れてません。むしろ全力で拒否してます」

「そんなこと言わないでよミドリ。そういうクールなとこも好きだけど」

「あっはっは。じゃ、僕、仕事途中だから~。締め切り明日なんだよねぇ」

 言いたいことだけ言って少女漫画家な忍者の父は消えた。

「……マイペースなのは血筋なの?」

 ルークにたずねる。

 何か似てるわ。

「そうかな? まぁ、コンラッド伯父さんも変り者ではあるよね」

「あんたには言われたくない」

「本当に。超絶変人なのはどっちだか」

「よくお嫁さん見つかったわよねぇ」

「女神のごとく崇拝してるって聞いたけど、納得だわ」

「で、兄さん。跡継ぎまだ? そのうちルーク様のとこもできるでしょうから、同い年になればちょうどいいわよ」

 ガハァッと盛大に血を吐くような音出したのは私だ。

「やめてくれます?! 絶対嫌! そもそも私はこいつの嫁じゃないんで! ルーク、あんたも何か言ってやって! セクハラとか……って聞け!」

 天使様はそれはそれはウットリして、

「ミドリによく似た娘……いいなぁ……」

「やめんか今すぐ妄想止めろ――!」

 ブンブン揺さぶるも、ニヤケてどっか見てる。

 キモっ。

「よし、ダン。お前んとこ一人目男で、俺の娘と同い年にして虫よけに貸せ」

「どこまで妄想突っ走ってんだ?! しねぇっつってんだろーがー!」

 誰かこの変人止めてマジで。

「ンなことよりルーク、お前いい加減城行けよ。呼ばれてんだろ」

 ダンさんが注意そらすためか言うと、途端にルークは渋面になった。

「……うええ」

 ?

 なに情けない声出してんの。

「早く来いって伝えろって、オレのほうに連絡来たぞ」

「……めんどくさい」

「?? 城ってことは、お姉さん女王に呼ばれてるんじゃないの? 行ってあげなさいよ」

 ルークはしょげてる子供みたいな表情で、

「……姉さんじゃなくて父さん母さんに呼ばれてるんだよ。ミドリ連れてこいって」

 お父さんとお母さん。

 つまりは前女王と王配。

 あんぐり口を開けた。

 あ、もしかしてとっくに故人だと思ってる人いたりする? それは私の説明不足だ。ごめん。

 長命のアンジェ族女王は生前に譲位するのが通例らしい。でないとあまりに在位が長すぎ、あまりよくないと考えられてるからだ。新しい風を入れるためにも、ある程度のところで代替わりすると老先生が教えてくれた。

 てわけで、ルークのご両親は存命である。

 前女王夫妻は引退後、世界各地を旅行してるとか。それで今まで国内におらず、会う機会がなかった。

 というか、私はすぐ帰るつもりだったんで、会うこともないだろうと思ってた。

 これは「悩みの種の息子がようやく結婚したって? よっしゃ、会いに行こう!」って帰ってきたんだな。

 ……マズイ。

 たら~っと冷や汗が流れる。

 これはまずい。親に紹介なんて冗談じゃない。

 いや、待てよ。いくらルークに結婚相手が見つからなくて誰でもいい状況だったとはいえ、異世界から来たなんて得体のしれない女は普通親として難色示すだろう。

 それは願ったりかなったりだ。

 ルークが渋ってるのも、親御さんが反対してるからかもしれない。

 これは急に希望の光が見えてきた!

「長いこと旅行に行ってた親が帰ってきたんでしょ? 顔見せに行きなさいよ」

「あれ? ミドリ乗り気だね。いいの?」

「乗り気ってわけじゃないけど、あんたがちゃんとご飯食べてるか睡眠取ってるか心配してるんじゃない? 元気だって見せに行きなさい」

「……ミドリがいいなら。行こっか」

 大いなる希望を持って、私はルークにつかまった。



 

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