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異世界でショッピングモール行ってみよう

 嫌な記憶を掘り起こしたせいだろうか。夢を見た。

 場所は実家で、どうやら正月に集まった時のらしい。姉が優越感出しまくって夫と子供の自慢話をとうとうと続けてる。

 うらやましいでしょう?と要所要所で嘲笑してくるのも忘れない。

 いくらスルーに慣れた私でも、延々やられたらさすがに疲れてくる。

 限界。潮時だね。

 だいぶ独演会やらせてあげたし、満足しただろう。

「悪いけど、明日仕事あるから帰るわ」

 一切の感情を交えず言い、立ち上がった。

 ここで怒ったり、逆に傷ついたといった反応を見せたら思うツボ。暴れるか、大満足で笑いだすだけ。事態が悪化する。

 姉はムッとして、突然ニヤニヤ笑いを浮かべた。

「仕事? 定職についてないじゃない、あるの? あ、バイトかぁ。気の毒よねぇ、才能ない子は。まーた採用試験落ちたんでしょ。もうあきらめなさいよ、無能なんだから。その点うちの子はすごいのよ。あのね……」

 無視して玄関へ向かい、靴を履いた。

 両親は止めようともせず、姉の話をニコニコして聞いている。

 義兄だけが慌てて追いかけてきた。

「美鳥さん、その、すまない。妻は初めての育児で疲れがたまってるようで、心にもないことを……」

「お義兄さん。いい加減、私たちの仲直りなど考えるのはやめてください。これまでお義兄さんに頼まれて仕方なく来てましたが、一度でも状況が改善したことありましたか? 私は二度とこの家に来ません。あなたたちも今後一切会いません」

 正面から見据え、ぴしゃりと言い放った。

 190センチ台あるはずの義兄が小さく見えた。

 彼は青ざめ、自分の落ち度を後悔してるようだ。

「私はとっくにこの家に存在しないことになってたんです。それで結構。もう関わりたくない、静かに暮らしたい、望みはただそれだけです。二度と連絡しないでください。私もたとえ何かあったとしてもあなた方に連絡は取りません」

「美鳥ちゃん……」

 義兄はいい人だ。姉にはもったいないくらい、真面目で実直、誠実な人。

 知らないうちに妻の妹をないがしろにしてたと分かると、純粋に悪いと思って、善意からの行動だ。

「はっきり言って、ありがた迷惑です。そもそもお義兄さんがこうやって私と話すだけで姉がどうなると思いますか? ちゃんと考えて行動してください」

 案の定、発作を起こした姉が奇声を発して飛び出してきた。そのまま私につかみかかろうとする。

 義兄がとっさに姉を羽交い絞めにして止めた。

「やめろ! どうしたんだ!」

「こいつっ、このあばずれがぁ! あたしの夫まで奪うつもりかぁ!」

 義兄もここまでの発作は見たことなかったらしく、蒼白になってる。

 経験したことなくてよかったね。私なんか慣れてるわ。

 慣れて、もはや何とも思わないくらい。

 冷やかに眺めた。

「姉さん。聞こえなかったの。私は二度とあなたたちに会いたくもないって」

「黙れぇ! 嘘だ、あたしからまた奪う気なんだっ。いつもいつもそう! だれもあたしを愛してくれない、置いて行く! あんたはあたしの邪魔をするっ。あんたさえいなければ!」

 何言っても無駄だね、こりゃ。

 ため息ついてスマホ出した。

「警察呼ぶよ」

 義兄と駆けつけた両親は仰天した。

「ま、待ってくれ!」

「なら、誓約書書いてください。今後一切私に近づかない、姉も近づけないと。これでよく分かったでしょう。姉は私に危害を加える可能性があるんです。前に忠告しましたよね? 何かされたら即刻訴えます」

「そ、そんな、家族じゃないか」

 両親の言葉に失笑した。

「家族? あなたたちは本当に私を家族だと思ってる? これまでの言動顧みてよ」

 自覚のある両親は反論できなかった。

「そもそも、姉が私に不利益与えたのはこれが初めてじゃない。例えば大学四年の時……」

 当時私は就活中だった。実家とはほぼ連絡を取ってなかったが、卒業後どうするのかいくらなんでも気になったらしく、両親が電話してきた。

 もちろん教師になるべく、試験を受けるつもり……と言おうとしてやめた。

 嫌な予感がしたんだよ。

 そこで第二希望の一般企業名を伝えておいた。

 そしたら何が起きたか。

 なんと姉は私を装い、勝手に出願取り消ししようとした。

 姉のヘマはわざわざその会社まで出向き、受付で言ったことだろう。確認のために担当者がエントリーシートを見ると、当然ながら写真と違う人物なのに気づく。不審に思い話を聞くと支離滅裂で、これは変だと警察に電話した。

 で、私に知らせがあったわけ。

 姉いわく、「電話で出願取り消ししても、本当にやってくれるか分からないじゃない。エントリーシート手に入れて、確実に破棄するためよ。ああ、写真は何かに使えるかもしれないからとっとこうかしら」だそうだ。

 両親が企業に平身低頭して謝り、身内だったことと精神科への通院歴があることから逮捕はされなかった。

 企業側は私を気の毒がってくれたものの、こんな危険な身内がいる人間は雇えないと不採用にされた。

「お父さん、お母さん。あの時言ったはずだよね。もう二度と事件を起こさないようにしてほしい、次やったら訴えるって」

「そ……それはそうだけど……」

「きちんと治療受けさせるって念書も書いてもらったはずだよ。よくならないなら、病院や担当医を変えることも考えて。いい加減に一つのことしか見ないのやめなよ。いいですね、お義兄さん。法的措置とらせてもらいます」

 一歩も引かぬ私の態度に、義兄も折れた。

 お互い弁護士はさんで書面にし、義兄は姉を私に近付けないと約束した。

 私はケータイの番号を変え、アパートも引っ越した。新しい住所は実家にも教えない。

 音信不通になってようやく平穏な暮らしが戻ってきた。

 ……でも、どんなにがんばっても常勤にはなれなかった。

 姉のせいじゃないだろうか?

 本命の教員採用試験、どこの自治体受けるか言わなかった。けど姉はあたりをつけて妨害したんじゃないか。

 それとも、精神科に通院歴があり何度も問題起こしてる身内がいる人間はダメだとどこかからか漏れ、その理由で落とされてるのか。

 教職は狭き門。―――そう、()()()()()()

 団塊の世代大量退職に伴い、今の倍率はそうでもない。特に地方は定員割れ起こしてるとこもある。むしろ人手不足である。

 私は別に地方へ行っても全然構わないわけで、倍率の低いとこも受けまくった。だけど全部だめだった。なんとか非常勤でとってくれただけだ。

「……なんで?」

 どうして姉さんはそこまでするの?

 姉さんが私の人生邪魔してるんじゃないの。

 私はずっと我慢してるんだよ。両親をとられても、家から追い出されていなかったことにされても。暴言吐かれ、暴力ふるわれそうになっても。

 ……それでも満足できないっていうの?

 姉さん。あなたは理想の家族を手に入れたんでしょ? でも満足できない。我がままにもほどがある。

 愛情がほしいという姉さん。私こそ持ってない。

 誰からも必要とされず、独りぼっちだ。

 これ以上私から奪わないでよ!

 暗闇に向かってそう叫んだ。


  ☆


 目が覚めると天使が心配そうにのぞきこんでた。

 一瞬素直にカッコイイと思ってしまい、次の瞬間これまでの奇行思い出してスッと冷めた。

「……何であんたがここにいるのよ」

 顔はいいよねほんと。外見だけなら好みだよチクショウ。

「うなされてたから心配で」

「ドアに鍵かかってたはずだけど。……あんたなら開けられるか」

 ヘアピン一本で余裕そう。

「嫌な夢でも見たの?」

「まぁね」

 適当に流し、起き上がった。

 ルークは不審がりつつも、

「ふぅん? ね、気晴らしに今日出かけない?」

 意外な提案。

「郊外に大型ショッピングモールがあってさ。空港近くで立地よし、観光客向けにできたんだけど予想より客入らなくて。国有地貸してるもんで、視察に行こうと思ってたんだよ」

「ああ、例によって『困りごと』。それならダンさんとスズネちゃんにも声かけようよ。デートさせたげるの。どう?」

「いいね。電話してみる」

 現地で待ち合わせることにした。

 移動手段はもちろん、ルークに抱えて連れてってもらう。まことに不本意である。

「あれが空港だよ」

 上空から教えてもらったそれは、意外にも地球のとほとんど同じだった。違いは飛行機が小型なのばっかなのと、規模が小さいこと。

 自力で飛べるアンジェ族は飛行機乗らないものね。他種族しか使わないってことか。

 隣接した目的地のショッピングモールはけっこう大きかった。飛行場より大きいんじゃない?日本でも郊外にあるやつだ。

 現在十時過ぎ、開店すぐにしてはそこそこ客が入っていってる。

 でもほとんどがアンジェ族だ。

 理由は私にはすぐ分かった。

「なんで駐車場も駐輪場もないの?」

「え、必要?」

 ものすごく不思議がられた。

 うわぁ、常識が違う。

「あのね、自力飛行にサイコキネシス持ちのアンジェ族はよくても、それ以外の人は交通手段どうするのよ」

「地図によれば、多少あるよ」

 建物脇に表示されたスペースへ行ってみれば、小さい。車三台、自転車五台も置けばいっぱいだ。

「これじゃーダメよ。気軽に来れないし、荷物持って帰るのも困る。私の国じゃ、これくらい大きなショッピングモールなら駐車場数百台はあるのが常識よ?」

「そんなに?」

「一日の来客数どれだけだと思ってんの。多くの人が交通手段は車か自転車やバス。あ、ここバスの便は?」

 電車は国内にほぼないと聞いてるんで除外。

「バスなんて使わないよ。来てないんじゃないかな」

「余計ダメじゃん! 交通手段のこと考えてよ。まずバスルート作って、駐車場・駐輪場増やす。なんならここに車販売店入れなさい。レンタカーでもいい」

 ルークは手帳出して言われるままに書き留めた。

「それと、バリアフリー化すること。アンジェ族にとっちゃ階段すらあんま必要ないんでしょうけど、私達にとってはほんのちょっとの段差でも大変なの。特に子供や高齢者にとっては。エスカレーターやエレベーター整備して」

「ああ、下界にあるやつかぁ。見たことあるよ。うん、分かった。取り付けさせる。……おっと、おーい、ダン」

「よっすー」

 ダンさんが空から下りてきた。

 オフでも制服なのは、わざと目立つようにだそうだ。スズネちゃんの警護のため。

 その背からスズネちゃんが軽やかに飛び降りる。猫の特性を持つため身軽。

 スズネちゃんはぴょこんっとお辞儀した。

「おはようございますっ。ルーク様、お姉さま」

「おはよう。急に誘っちゃってごめんね。お店大丈夫?」

「ええ。ここのレストランの調査って名目で来ちゃいました」

「ナイス。じゃ、今日はグルメも楽しんじゃおっ」

 自動ドアをくぐると、四回まで吹き抜けのエントランスが現れた。

 建物の構造はドーナツ状になっており、中央部分のどこからでも簡単に階の移動ができる仕組み。……アンジェ族にとっては。

 私は出だしから頭抱えた。

「階段どこ」

「待って。パンフ、パンフ……えーと、十軒先の店を左に折れて、次のブロックをすぐ右、さらに……」

「もういい。迷路か。もっと分かりやすいとこ工事して。入ってすぐのとこに」

 スズネちゃんもおっとり言った。

「うーん、これは確かに困りますねぇ。あたしやお姉さまはダンとルーク様いるんでいいですけど」

 中でもルークに抱えられて移動しろと?

「見て見てミドリ、ここにも貼ってあるよ~」

 想像しただけで脳の血管ブチ切れそうなとこへ、妙にうきうきしたルークの声がした。

 ん?

 見れば、入ってすぐのインフォメーション横に、デカデカと例のレイングッズ促進ポスターが……。

「ぎゃあああああああ!」

 街中に貼ってあるって現物これかーい!

 悲鳴あげて、はがそうととびかかろうとしてルークに捕まった。後ろからガッチリ捕獲。

 くそう、この無駄に力持ちな男めぇぇ!

「ダメだよ。貼ってあるポスターはがしたら、器物損壊」

「私の心が損壊されてるっつーの! 瀕死レベルだわ! はがす! 絶対はがす!」

 じたばた。

「だからやめとけっつったのに……」

 ダンさんがため息つく。

 騒ぎで周囲の人々が私達に気付いた。生暖かい目向けてくる。

「あれ? 殿下夫妻だ」

「ご夫婦で買い物? 仲睦まじいこと」

「まぁまぁ、照れちゃって。初々しいお妃様ねぇ」

 私はこいつの妃じゃないっ!

「はなしなさいーっ!」

「やだ。ミドリって細いよねぇ。もっと食べなよ」

「今よりデブれと?! ! あんたまさかデブ専?!」

 がばっと振り向いた。

 思い当たることはあるぞ。

 ルークはむっとして、

「違うよ。俺はミドリがいいの。ミドリじゃなきゃやだ」

「おーい、ルーク。こんなとこで騒いでっと営業妨害だぞ、やめてやれ。嫁ちゃん、とりまポスターはずしてもらったから安心しな」

「ありがとうダンさん!」

 救いの天使はこっちにいた。

 不満げなルークはダンさんが耳打ちしたら大人しくなった。「一旦外してもらっただけで、後で張り直してもらえばいいだろ」て内容だったと聞いたのは後のことだった。

 再び憤死しそうになったのは言うまでもない。

「お、お姉さま、とりあえず行きましょ。まず何見ます?」

「うん、気を取り直そう。えーっとそうね、とりあえず上から順に見てみる?」

 羞恥と戦いながら上階に連れてってもらった。

 ううう、『お神酒』の副作用って私には出ないの? 飛行能力だけでいいんでお願いします!←切実

 二階~四階はファッション・雑貨・趣味のフロア。映画館まで入ってた。

「映画かぁ。あんま見に行かないわね。高いんだもん。レンタルDVDになったら借りる程度かな」

「帰りに寄ってく?」

「こっちにもあるんだ。宅配レンタルやネット使った有料会員制システムもあるの?」

「何それ」

「宅配レンタルはネットで注文、自宅までDVDが届くやつ。返却もポスト投函でOK。ただし送料がかかるのがネックね。店舗で借りるより、一本の料金もちょっとお高めだし。送料かかるのも返却の手間も面倒って人は、ネット経由で一定時間有効なデータをダウンロードできるレンタル方法もあるわよ。それが後者ね」

「ふーん、面白いね。確かに技術的には可能だな。映画好きなんだけど重い障害があって、店も遠いし借りに行けないって障碍者支援団体からの相談が来てた。それができれば喜ぶな」

 あら。

「とってもいいことじゃない。すぐ作ってあげて」

「これくらいならできる技術者そろってる会社あるよ。版権の問題もあるし。頼んどく」

 ルークはどこかに電話かけ、しばらく何やら指示出してた。

 ほんと顔広いのね。

「これでよし。ありがとミドリ、やっぱ俺のミューズだよ!」

 どさくさまぎれに抱きついてきた王子殿下とまたも攻防戦が始まった。

 具体的には顎にアッパーカットかますという力技でどうにかこうにか脱出し、スズネちゃんと楽しくウインドーショッピング。

「お店の種類や品ぞろえは問題ないと思う。ただ、そうねぇ……ところどころに休憩所作ったら? ベンチ置いといて、小休止できるスペースを」

 買い物して重くなった荷物運ぶの大変。

「コインロッカーや荷物の配送サービスあるともっといいかも。休憩所付近にはドリンクや軽食売ってるお店を配置。一階レストランエリアもざっと見たけど、フードコート含め席はもっと多めにしたら? あれじゃ座って食べられないじゃない。私達はそういうことできないのよ」

 買ったジュース持たずに浮かせてるダンさんを指す。

 アンジェ族は最悪自力で座った状態で浮遊+食べ物も空中停止できるから、席がなくても問題ないらしい。そのため席が少なめなんだそうだ。

 そういえば前に連れてってもらったカフェも席少なかったな。スズネちゃんとこの店が充実してたのは、仕事も兼ねて個室とかけっこうあるから。

 仕事ってのは、調査相手が密談に使って、それを盗み聞くって意味ね。

「あ、そっか」

「他に追加するのは、子連れ客増狙って優良遊び場、高齢者向けにはそんなキツくないスポーツジムとかかな」

「ジムか」

 ルークが顎に手やって、

「アンジェ族の社会問題でさ、筋力低下が言われて久しいんだよね。高齢者に限らず、若者でも。ほら、なにせ体動かさなくても能力でできちゃうじゃん」

「そういやルークってラボこもりきりで超絶不摂生だった割に、筋力あるよね」

 純粋に筋力でデブい私持ち上げられるもんね。

「細かい作業はサイコキネシスじゃないほうがよくてさ。重いパーツ持ち上げて溶接とかよくやってたよ。そのおかげかな。これでも腹筋割れてるんだよ。見る?」

「見たくない」

 即答。

 誰が見たいか。

「えー。せっかくミドリが来て以来、意図的に鍛えてるのに。見てよ。俺、褒めると伸びるタイプ」

「変態方向に伸びるな! ものすごく常識的なこと言わせてもらう、公共の場で腹出すんじゃない!」

 しごくまっとうに教育的指導。

 ダンさんは残念なものを見る目、スズネちゃんは死んだ魚の目を向けた。

 通りすがりの人々も似たようなものだ。

 こんなんが王子じゃ世も末だわ。ほんっとこいつが王様じゃなくてよかったね。

「アホはほっといて、真面目な話に戻そうぜ。アンジェ族の身体能力低下は軍でも問題になってんだ。近年の新入りはなよっちいのばっか。最初の訓練で音ぇあげんの。このぶんじゃ近い未来、職務の遂行にも関わるぜ」

 うーん、警官が犯人にあっさりやられちゃまずかろう。

「気軽にトレーニングできる環境が必要ですね。こっちの国だと、公園に高齢者向けですけど軽いストレッチやトレーニングできる遊具があったりします」

「遊具?」

「ジムでとなると、ハードル高い・お金かかるって思う人もいるでしょ? 鍛えろって言われても、運動苦手な人だっているわけで。そこで楽しみながら筋力アップできるようにしてみたら? 子供でもありますよね、遊びを通じて体の使い方を学べる玩具や遊具」

 楽しいことなら人間は継続できるものだ。

「医学的にも監修した遊具か。うん、研究機関に打診してみる」

「ああルーク、腹しまったのね。よかった。他に体操やダンスってテもあるわよ。無理なく毎日できて、人の興味を引く方法、あんたなら考えつくんじゃ……」

 そこでひらめいた。

「そうだ、今作ってる遊園地! 機械で動くアトラクションの他に、そういうエリアも作ってみたら? 例えば、よくある『~からの脱出』ってコンセプトにして、階段昇降、ハシゴやネットや壁登り、吊り橋渡ったりしないとクリアできないようにするの。もちろん飛ぶ・浮く禁止で」

「わあっ、楽しそうです!」

 スズネちゃんがぴょんと飛び跳ねた。かわいらしい。

「へー、面白そうじゃん。軍の訓練施設参考に、一般人でもできる程度のにして作ればいんじゃね?」

「私のいた国だったら、さらにテーマ『忍者』追加するかな。外国人にもウケいいの。あ、忍者って分かる?」

「分かる。今もいるよ」

 分からないだろうと思ってきいたら、あっさりうなずかれたよ。

 は?

 思わず二度見した。

「え。マジで?」

「マジマジ。後で紹介するよ」

 ……えええ?

 こいつのコネクションどうなってんの?

 ああでも、さすがに黒ずくめの昔風忍者やチャクラ使うアレとは違うでしょうね。本物はもっと一般人に紛れ込んで仕事してたっていう。

「『忍者』『脱出』に、『宝探し』加えてみよっか。ちょうど忍者の子孫が相続税払えなくて物納したカラクリ屋敷があるんだよねー」

「ちょ、待って。どこからツッコめばいい? まず相続税払えなくて物納って、現実的で悲しすぎる! ねえ、売る前に博物館にして入場料取ればよかったんじゃない? それに屋敷なんてどう持ってくるのよ」

「彼ら、今も一応仕事はしてるんだよ。下手に屋敷公開すると、企業秘密バレちゃうじゃん。多少リフォームしてごまかそうにも、金かかる」

「うーん、シビアな話」

 現代の忍者は金欠だそうです。しかも理由が相続税。

 悲しっ。

「俺ならリフォーム代出せるし。移転方法はサイコキネシスで運んでくりゃいいんだよ。ほら、研究室に屋敷の小島ドッキングしたみたいにさ」

 そうだった。こいつ、島をも動かせるんだった。

「屋外・屋内両方作ろ」

「雨でも遊べる施設っていうなら、プロジェクションマッピングは? あんた立体映像投影装置持ってたじゃない」

 メリーゴーランドの時に使ったあれ。

「プロジェクションマッピング使って庭園や宇宙、水族館を模したテーマパークがあってね。人の動きに応じて変化したり、描いた絵を投影できるようにしたり」

「庭園ですか、きれいでしょうねー」

 お、スズネちゃんくいついた。

 ルーク、作りなさい。そしてダンさんとロマンチックデート作戦よ。

 察したルークは首を縦にした。

 そんなこんなで一周し、ランチしてからの帰り道。

 例によって私は恥を忍んで忍びまくってルークに抱えられております。

 がんばれ自分。でなきゃ移動できないし。きっと精神的な何かがレベルアップできると思う。何かって何。そうだ、修行と思おう。うん、精神の修行。

 ツッコミは受け付けない。

「結局ミドリ、見ただけでほとんど買い物してないじゃないか」

 ルークが不満げにきいてきた。

「あんたがおかしいのよ。店の商品全部買いしようとするとか、どこの漫画のセレブだ」

 うっかりジュエリーショップでデザインの勉強にと見てたら、勘違いして丸ごとお買い上げしようとしかけたのはそこの男だ。

「あれはデザインをハンドメイドの参考にしようと思って見てただけだって言ったでしょ。デザイン集買ったんだから、それで十分」

 本屋で買ったデザイン・モチーフ集や装飾品について詳しく載ってる歴史本を示す。

「本物あったほうがいいと思うけどなぁ」

「いいの。どうせいずれ帰るのに、物増やしてもしょうがないでしょ」

「……ミドリは今でもほんとに帰るつもりなんだ?」

「…………」

 私は沈黙した。

 待ってる人がいるわけでもないのになぜって?

 そうね。現実問題、私がいなくなったほうが姉さんは喜ぶんだろう。

 あたる相手、罪悪感の原因が完全にいなくなれば、病状が改善するかもしれない。

 私が原因不明の行方不明になれば、両親はさすがに後悔するかもしれないが、彼らの関心が向いてるのは姉だけ。すぐどうでもよくなるだろう。なにしろ一人にしか目を向けられず、その相手に全エネルギーをつぎ込む人たちだ。たとえどんなに他をなおざりにしても。

 早々に私のことなんか忘れるのかな。もうとっくにいないもの扱いされてるんだし。

 ……ほんと、なんで帰ろうと思ってるのかな。

 怒りもなく冷静に考える。

 誰も私のことなんか必要としてない。待ってない。反対に、こっちには私にいてほしいと言ってくれる人がいるのに。

 あれだけ傷つけられても、まだ私は期待してるのかな……。

 自嘲の笑みが漏れた。

「……そうだね。私が帰らないほうが、みんな幸せなのかもしれないね……」

 怒りも苦しみすら感じない私よりも辛そうなルークの表情が、妙に印象に残った。

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