異世界でガールズトークしてみよう
さて、お立合いお立合い。
本日一番の大仕事はーっと。
私はトンカチを両手で握りしめ、大きく振りかぶっていた。
目的は壁にかかった額ごと中身をぶっ壊すこと。
「止めるんじゃないわよルーク、サイコキネシス消しなさい! これはがす、いや壊す!」
「えー、せっかくきれいに撮れてるのに。ミドリのこの照れ具合とかたまらないよね」
王弟殿下が満足げに眺めてるのは、先日撮らされたレイングッズ販促キャンペーンポスターだ。
普通に傘さしてる状態撮影するだけだと思ってOKした自分のうかつさを呪う。
行ってみたらルークとの相合傘強要されるなんて聞いてない!
いつの間にやら壁際まで追い込まれてて叫んだわよ。
「謀ったわね! フツーにスズネちゃんと友達同士楽しく歩いてるの図じゃなかったの!?」
これがアレか、壁ドンてやつか。へー、自分がされることなんて一生ないと思ってたわー。←現実逃避
そしたらルークのやつ、小声で言った。
「それももちろん撮るけど、スズネのためなんだって。俺とミドリが撮れば、ダンもあっさりスズネと撮るじゃん?」
「…………」
そっか、スズネちゃんのためか。
それなら協力しようかな、と思った私はバカだ。
「スズネ自身はマオ族の血が強くて能力使えないけどダンはできるから、やっぱ傘なんて使ったことないんだよ。スズネが外出する時はいつも護衛のためダンが一緒でさ」
「なるほど、それはやらせてあげなきゃね」
「うんうん。てわけでー」
「ちょっ、近い近い!」
「近づかないと傘に入れないよ」
「そ、そうだけど……」
ううう、顔だけはいいのよ。
中身はろくでもないと分かってて、その思考すら吹っ飛びそうになる。
カメラマンが大きく丸を作った。
「いいですね~、お妃様! 恥ずかしくて嫌だけど嫌じゃない初々しさがよく出てますよ!」
やかましいわ!
マジで傘突き刺してカメラのデータ粉砕してやろうかと思った。
スズネちゃんがダンさんとうれしそうに撮ってたから、恥かいたのも報われたけど。
―――それを印刷された挙句に永久保存&公開されるとか聞いてない!
「ポスターにするのは私とスズネちゃんの仲良し女友達帰り道バージョンのはずじゃない!」
ルークの屋敷の壁にデカデカと貼り出されたこれ見つけて絶叫したのがさっきだ。で、冒頭のセリフなわけ。
「なんでこんなもん見せられなきゃいけな……っ、つか、壁に貼るな、額装するなー!」
「いーい表情だと思わない? ミドリのこの、必死で耐えてる感。かわいいなぁ。今度から雨の日は必ず傘さそう。うん」
「私だけさすっ。あんたはこれまで通りバリア張ってなさい!」
「やだ。またミドリのこういう表情堪能したい。それに、こんな顔引き出せるのも俺だけだって優越感が何とも言えないよね」
その優越感もトンカチでたたき割ってやろうか。
なお、このトンカチはルークの仕事場から持ってきたやつだ。そうやって持ち主にお返ししよう。
「あ、もちろんミドリとスズネのバージョンもあるよ。2パターン展開してる」
「コレ国中に貼られてんの?! いやああああ!」
本気で悲鳴をあげた。今なら羞恥で死ねる。
「どう見ても俺がミドリにベタ惚れって分かるよね。あの変人すぎて行き遅れてた王子に好きな人ができたって驚愕と、もらってくれてありがとうって感謝が大方の反応だってさ」
「私はあんたのお妃じゃない!」
後半自分で言ってて悲しくならないのかこいつは。
「もう一度世界中シラミ潰しに結婚相手探しなさいよ。一回結婚できたんなら誰かと共同生活送れたんだって思ってもらえて立候補者でるかもよ」
「ミドリじゃなきゃやだ」
「黙れ変態」
理由が膝枕=太ももの脂肪って最悪なポイントじゃないか。
デブで悪かったな!
喧々囂々とやってたら、スズネちゃんとダンさんがやってきた。
今日はお菓子作り教えてもらうことになってたんだ。プロに教えてもらえるなんて貴重な機会。
「こんにちは~」
「あっ、スズネちゃんダンさんいらっしゃい。ね、コイツに何とか言ってやって! これ貼るなって!」
スズネちゃんは小首をかしげた。
「どうしてですか? これ評判いいですよねー」
「あー、それか。嫁ちゃんあきらめな」
「あきらめられると思います?!」
「屋敷中に貼りまくるのと、額縁もっと豪華なやつにするのは止めたぜ」
「それはどうもありがとう」
私は口の端をひきつらせた。
なことされたら脳の血管ブチギレるわ。
「ま、とりあえずルークは借りるぜ。ほら、女王陛下から色々と」
ダンさんはファイルをひらひらさせながらルークを連れ出してくれた。
よかった。作ってる間もうろちょろされたら邪魔だ。
しかも初心者のくせに絶対めちゃくちゃ上手いの作りそうだし。
「じゃあスズネちゃん、今日はよろしくね」
教わるメニューはシュークリーム。屋敷の厨房借りて、メイドたちも一緒にお料理教室開始だ。
「シュークリームって自力で作れるのね。上手く膨らますの難しいんでしょ?」
「まぁそうですね。焼けてすぐオーブン開けちゃ駄目なんですよー」
きゃいきゃいしながら完成。
ただのシュークリームじゃなく、スワンにしてみました。
「わーい、かわいいっ」
「お姉さまのアイデアのおかげです。こんなふうに形かわいくする発想なかったですもん」
「私の国じゃよくあるのよ。味はもちろんのこと、形もかわいくこだわるのって多かったわね」
これは『ダンさん、スズネちゃんに振り向いてよ』計画の一環だ。普通に料理出すんじゃ慣れてるんで、ならば変わった見た目のならどうだという作戦である。
「ダン、喜んでくれるかなぁ」
「きっと喜んでくれるわよ」
トレイに乗せて運ぶ際、スズネちゃんは衛生上の理由ではめてた手袋を外し、レースのついた手袋に替えた。
その時に見えてしまった。
スズネちゃんの手の甲にはくっきりと大きな傷跡があった。
「スズネちゃん、それ……!」
彼女は目をまたたかせ、
「ああ……お姉さまは知らなかったんでしたっけ。国内じゃ有名で知らない人はいないくらいだから忘れてました」
「昔大怪我したの? 火傷?」
「これは人身売買組織に捕まってた時につけられたナンバーの跡です」
な!?
私は息をのんだ。
スズネちゃんは淡々と話す。
「特殊な機械で刻み込むんですよ、絶対に消えないように。たとえ何度上から火で焼いても、切り取っても、上に皮膚移植をしたとしても浮かび上がってくるって最悪な刻印です」
「ひどい……!」
『商品』が逃げ出しても見つけやすくするための措置だという。
そうしてそんなひどいことができるのよ。
「あれ、でもナンバーなんて見えなかったわよ」
「ルーク様のおかげです。刻印を除去する機械を発明して下さって。だけど一度刻まれた以上、完全には元に戻らず……跡は残ってしまったんです」
スズネちゃんはたいしたことないというふうに肩をすくめた。
「これでもだいぶ薄くなったんですよ。ルーク様やダンのツテで世界最高の整形外科医に手術もしてもらいました。同じく捕まってた子たちも、みんな刻印は消すことができたんです」
「…………」
それでいつも傷跡を隠すために手袋をつけてたのね。
知らなかったとはいえ、申し訳ない。
「……ごめんなさい。知らなくて」
「いいえー。昔のことですもん、大丈夫です」
スズネちゃんは笑ってトレイを運んだ。
……えらい子ねぇ。
黙って一緒に運んで行くと、ふいにスズネちゃんはつぶやいた。
「……ほんとは分かってるんですよ」
「え?」
「ダンがあたしと離婚したがってる理由です」
え? ―――あっ。
ダンさんはミロのヴィーナスみたいな芸術品のような手を持つ女性が好きだと聞いた。
スズネちゃんの手には傷跡があり、決して女神のような一点の汚れも跡もない姿にはなれない。
これは彼女のせいではなく、どうしようもないものなのに。
怒りがこみ上げてきた。
―――ダンさんひっぱたいとこうかな。
「ダンは優しいから、あたしの前じゃ綺麗な手が好きだってこと口にしてないんですけど。ああ、ダンの嗜好は誰もが知ってます」
「うわぁ、周知の事実だったんだ。引……なんでもない」
「あたしには傷跡があって、いくらがんばってもダン好みの女性にはなれません。分かってるんです。それでも、好きだから。初めて会った時から大好きだから、あきらめられないんです」
悲しそうに声を絞り出す彼女を慌てて慰めた。
「何言ってるの、芸術的美しさだけが全てじゃないでしょ。それに手フェチっての本当かしら? どうもわざと言ってた気がしないでもないのよね」
「え?」
「だって、もし本当にそこまでこだわってて他はどうでもいいとしたらよ。例えば手のパーツモデルで外見も中身もアレな女性とでもとっくに結婚してたんじゃない?」
モデルと一口に言っても色んな種類がある。顔や体全体を使う一般的な『モデル』の他に、体の一部分だけをピンポイントで使うモデルも存在するんだ。
例を挙げると指輪の広告写真。写ってるのは指輪をはめた手だけよね。全身像は写ってないでしょ? ああいうのよ。
写らない他のパーツはどうでも、該当パーツさえ美しければOKらしい。勤めてた時、保護者にそんな人がいて、曰く「手のパーツモデルなんかアカギレでもできたら死活問題で、食器洗いとか水仕事は必ず手袋着用なんですよ」。
そういう仕事もあるんだなぁと興味深かった。
スズネちゃんはぽかんと口を開け、
「……あ」
「ね? ダンさんは超性格悪くて外見もアレでも手さえ形が良ければいいとは思ってない。ちゃんと人間性見てるじゃない」
そもそもそこまで馬鹿なら諜報員なんてやってないでしょ。
「仕事しやすくするため、軽薄な変人装おうとしてたんじゃない?」
スズネちゃんに猫耳としっぽが出現した。
「そっか、そうですよね!」
「うんうん。だから大丈夫よ、がんばろう!」
それから今、その尻尾なでさせてもらえませんかね。
「はい! あたしも早く『お神酒』が飲みたいです。あたしはマオ族の性質が強くて、アンジェ族ほど長命じゃないんですよ。このままじゃあたしだけ年とっちゃう。おばあちゃんになる前に……」
「お神酒? 何それ」
神社に奉納されたお酒?
へえ、アンジェ族って宗教は神道っぽいのか。見た目は天使なのにね。
スズネちゃんはきょとんとして、
「あれ? 知りません? 他種族がアンジェ族と結婚して仲間入りする儀式の時に飲む特別な飲み物のことです。同程度の寿命が得られ、末永く二人幸せに暮らせるようにって」
「聞いてない」
……嫌な予感がする。
予知能力とかなくても分かるこの感じ。
おいおいおいおい。
「聞いた話ではジュースみたいに飲みやすいそうですよ。お姉さまはもう飲まれたんですよね?」
ジュースと聞いて思い当たるのが一つ。
「あんの……悪賢い天才野郎……っ」
ギリッと奥歯をかんで駆け出した。
「ルーク! あんたまたしてもやってくれたわね――!」
★
「―――ほらよ、これ各所の反応。おおむね高評価だな」
「予想通りか」
俺は報告書を受け取った。
テレビに続いて広告と、あえてミドリを出したことに対する反応を調べさせたものだ。
彼女を秘密にして守ることも不可能ではなかったが、俺はそれより「公にすることで衆人環視状態にし守る」ほうをとった。スズネの時と同じだ。
「世界的に報道させてあるし、これでもし奴が生きてるなら何かしら動きを見せるはずだ」
「今んとこ目撃情報はねーよ。年とってる可能性も考えて、その予想図も回したぜ」
「そう簡単に見つからないのは分かってる。死んだふりして長年行方をくらませてたんだからな。たぶん協力者もいるだろう」
すでにかつての奴の熱烈な信者の周辺にはスパイを潜り込ませてある。今のところ情報はない。
「でなきゃこれもできねーよな」
ダンが二枚目を指す。ネット上に展開されてるミドリの誹謗中傷をまとめたものだ。あきらかに複数人がやっている。
「ああ。多少好意的でない反応があるのは当然だ、どんな人間だって批判するやつはいる。でもこれは明確な悪意を持って扇動しようとしてるな」
わざとどぎつい言葉を選び、炎上も平気でやってる。
「ネットカフェのパソコン使ってたのをとりあえず数人捕まえて取り調べたところ、SNSで勧誘されたってさ。楽に稼げるバイトっつって」
「バイトねぇ。ほんとに報酬もらえるのかどうかも分からないのに飛びつくとはな」
「前金が仮想通貨で振り込まれ、『仕事』すると残金が支払われるってことだったらしいが、全額ゲットできたやつはいないそーだ」
そんなオチだろ。
「仮想通貨か。送金元は……」
デスクの上のパソコンをすごい勢いで操作し始める。
ん? スマホ発明した俺がパソコン扱えないわけないじゃん。
「勧誘に使ったIDも支払いに使われた口座も乗っ取られたものだな。本来の持ち主が気づかぬうちに、勝手に操作されてる。ウイルスだろ。今ワクチンは作った」
USBメモリにコピーして渡す。
「この短時間でよくできるなー」
「これくらい簡単だ。それはそれとして、これでこの件の裏に奴がいると断定できる。奴はコンピュータウイルスの作成が得意だった。ばらまくのもな」
俺は背を後ろにもたせかけた。
「絵に画家のクセが出るように、ウイルスにも作りてのクセが出る。これはまさしく奴のだよ」
「マジか。あー、そういや昔、奴のウイルス攻略したのもお前だったっけ」
あの男は当時一般人に普及して間もなく防護対策の浸透してないパソコンに入り込み、情報を盗み操作し、自分が予言者のように見せかけていた。
多くの人が騙され、操られていた。
…………。俺の妹も―――。
バキンッ。派手な音がして、ダンの座ってる隣のソファが壊れた。
二つに割れたとかいうレベルじゃなく、押しつぶされてぺしゃんこになっている。
ダンはそーっと立ち上がり、壁際に移動した。
「……おいおい」
「ん、悪い。ちょっとサイコキネシスが暴発した」
「どうやったら家具が厚さ1センチまで縮むんだよ。マジ恐ぇ……」
ちょっと思い出してイラっとしただけだよ。
「お前本気出すととんでもねーんだから気をつけろや。特に嫁ちゃんにはバレないようにしろよ? バレたら恐がって逃げるぞ」
「俺の奇行知ってて逃げないんだから平気じゃん?」
「奇行って自覚あるならどうにかしろよ。ドン引きして逃げたがってるのを逃げ道塞いで塞いで塞ぎまくって離さないようにしてるんじゃねーか」
「まぁな。さて、問題はこれ踏み台にされたパソコンやスマホがどうやって感染したかだな。全部押収して調べろ」
報告書のリストをひらひらさせる。ダンがげんなりした。
「またサラッとえらいことを。いくつあると思ってんだ」
「押収するのは部下、調べるのもサイバーセキュリティチームじゃんか」
「そりゃそうだけど、指示出すのも報告書まとめるのもオレだっつーの。やるけどさぁ」
ああ、働け。
「早急に取りかかれよ。ミドリに害をなす者は許さない。ましてあの男が生きてるなら、今度こそ徹底的に―――」
俺は言葉を切った。
足音がものすごい速さで近づいてくる。
「あれ、ミドリだ。どしたんだろ」
「足音だけで分かるのかよ。すげーな」
「そりゃもちろん」
察知した通り、愛する妃が飛び込んできた。
怒髪天ついて。
「ルーク! あんたよくもやってくれたわね!」
胸倉つかまれる。
「何が?」
怒ってる妃もかわいいなぁ。
ほのぼのして見惚れる。
「私に黙って『お神酒』とかいうの飲ませたでしょ! それ飲むと普通の人間じゃなくなるんだって?!」
あ、バレたか。
テヘペロ。
「うん。ミドリが来てすぐの頃、ごまかして飲ませてるよ」
素直に認めた。
「認めたわね! 訴えてやる、警察に突き出してやるわよ!」
「だって言ったらミドリ絶対飲んでくれないじゃんー。俺置いて早く逝っちゃうなんてやだよ。五百年くらい新婚生活満喫したい」
般若の表情向けられた。
「さらに儀式が必要だって聞いたけど、いつやったの!」
「ああ、それはミドリが寝てる間に」
こっそりとね。
寝顔も堪能できて、すっごく満足な夜だったよ。
ミドリはめまいに襲われたようだ。
「ミドリって夜寝ると翌朝まで起きないでぐっすりじゃん。抱きかかえて連れてってちょっとさ」
「この馬鹿あああああ!」
平手打ちされた。
さすがに痛い。
「ご、ごめんなさい!」
スズネが涙目で叫ぶ。
「あたし、知らなくて……っ」
俺はのんびりと、
「ん? いいよ別に。いずれバレると思ってたし。それか、折を見て自分で言おうと思ってた」
「うんうん、スズネのせいじゃねーよ。気にすんな。全部コイツが悪い」
ダンが頭なでてなぐさめる。
「アンジェ族と同程度の長命って……地球に帰ったらそんなの化け物扱いじゃない。他に作用は? 絶対他にも効果あるでしょ」
「カンがいいなぁ。個人差があるから何とも言えない。人によって超能力が出たり、まったく出ない人もいるよ。ミドリの場合は別世界の別種の人間だし、余計に分からない」
「私は実験動物か!」
「とんでもない。ミドリは俺にとって大事なミューズだよ」
真面目に答えたのに、凍るような目を向けられた。
何でだろ。
☆
ほっぺたにモミジ柄ついてても平気で会話してる天使の思考回路はどうなってるんだろうか。
私は思いっきり侮蔑をこめて睥睨した。
当の本人はけろりとして、
「あ、そのシュークリーム今日作ったやつ?」
「は、はい。えと、お姉さまのアイデアで白鳥モチーフにしてみました。あのね、ダン、どう?」
ダンさんはうなずいて、
「ああ、面白いな。こうやって形を凝るってのもあるんだな」
面白いだけかい。作戦は今一つだったようだ。
「食べてみて」
スズネちゃんが「あーん」して食べさせる。ダンさんも慣れてるのか、ちっとも気にしてない。
「うん、いつもながら美味い。スズネは料理上手だな」
「ふふー」
……かなり待て。逆にダンさんこれでどうしてスズネちゃんに恋愛感情抱いてないの。
どこからつっこんだらいいか分からない。
え、これいつものことなの? 普段からこの二人こんな感じなの?
「ミドリ―」
ルークが期待に満ちた目を向けてくる。
「誰がやるか」
「えー、奥さんにやってもらうって男の夢だよ? 反対でもいいけど。ミドリ、はい、あーん」
完全に無視した。
「……ちぇ。ま、いっか。お嫁さんの初・手料理~。うれしいな」
「私一人で作ったんじゃなく、皆で作ってるから私の手料理とは言えないわよ。それ以前に私はあんたのお妃じゃない」
「ミドリはツンデレだなぁ」
ルークはほんとにうれしそうにぺろりとたいらげ、いきなり話題を変えた。
「そういえばさ、この前の小学校の出張授業。終わった後に給食の食べ残し問題の話題が出たじゃん?」
「出たわね」
「生ごみ処理機を公費で全小学校に設置させたんだ。それとは別に、ミドリがご飯をおにぎりにしてみたらどうかって言ったじゃないか。校長が実践したらしいんだ。強制ととられないよう、発案者がミドリなことは黙って。そしたらある保護者がこう言って来たらしい」
ぺらっと一枚の紙を出した。要約すると……
「おかわり用おにぎりを食べるかどうかは自由? うちの子はいい子だからと真面目に残しちゃいけない食べなきゃって食べてる。自由じゃなくて強制じゃないか。うちの子に無理やり食べさせるなんて拷問するとは許せない。うちのかわいい優しい子が給食の時間嫌がったり体壊したらどうしてくれる。責任取れ。担任辞めさせろ、校長もそろって謝りに来い」
「…………」
……うーん、クレーマー?
私は眉をひそめた。
「何だろ……何かおかしいな」
論理がおかしいのは一目瞭然として、何ていうか……どこか違和感を感じる。
しかもその違和感には既視感がある。
「さすがミドリも小学校の先生だね。これ言ってきた保護者はモンスターペアレントとして有名なんだってさ」
ルークは肩をすくめた。
「これまでも些細なことでクレームつけ、要注意人物認定されてる。言いがかりなこともよくあるそうだよ。大体主張に筋道は通ってなくて、論理が破綻してることも多いらしい」
「こっちの世界にもいるのね。モンペ」
「校長はおかわり強制じゃないと明確に返答。文書にして児童にも見えるように各教室に掲示」
「うん、分かりましたこの方式やめますって言うのは簡単よ。でもこの手の人って一度要求のむとさらにエスカレートしてくるのよね」
悪く言うと味をしめる。
「その通り。過去にたいしたことない要求だったからのんだほうが落ち着いてくれると思ってのんだら、嬉々として次はああしろこうしろって強要してきたんだって。それでこれはもう下手にきかないほうがいいと判断、今回もすぐにおにぎりやめることはしなかった。クラスごとに児童に話し合いをさせ、それぞれ今後どうするか決める方式にしたんだそうだ」
「そうね。子供たち自身に話し合いで解決策を模索させるのも大事なことよ」
「該当児童のクラスでは継続することに決まった。ただしこの保護者の子は無理しないようにって、今後一切おかわりはナシになったんだ。これは本人が自分からそうするって言い出したんだよ。元々小食・偏食であまり食べず、よそう時も初めから少なめにしてるの皆知ってたから納得した。ちなみにこの時点で子どもは自分の親がクレームつけたことを知らない」
え、知らなかったの。
「そしたら『一切おかわりナシってどういうことだ! 好きなものくらいおかわりさせろ!』って学校に怒鳴りこんできて、現在進行形で大騒ぎ」
「えええ?」
私はうろたえた。
「私、余計なこと言っちゃったかな」
「いや、発端は別件。最近クラスメートと上手くいってなくて、それが理由で『あいつがいる限り学校行きたくない』って子どもがこぼしたんだって。おかわりしたのも、よりたくさん食べられたほうが偉いみたいな競争が原因みたいだよ」
そんなので人間の偉さ決まらないのになぁ。
私は腰に手を当てた。
「よし、行こう」
「え、行くってこの小学校へ? 今、保護者来て騒ぎ起こしてるんだよ。危ないよ?」
「でもあたしの不用意な発言が火に油注いだんでしょ? 責任の一端はあるわ」
ルークは私を見つめ、分かったとうなずいた。
「ん。もちろん俺もついてくよ」
「すぐ行きましょ。っと、危ない。なにこれ?」
床に落ちてるガラクタにつまずきそうになった。
「ごめん、片付ける。ただのゴミだよ」
ルークはぺらぺらの物体を部屋の隅に押しやった。
なぜかダンさんが青ざめてた。
☆
「私の余計な言葉が原因ですみませんでした」
迎えに出てきた事務員に頭を下げる。
現在校長以下主要な先生は総出で保護者を別室にてなだめにかかってるらしく、手が空いてないそうだ。
「いえっ、とんでもない! 元々あの家庭はちょっとしたことでカーッとなるので有名でして、こうなったことも一度や二度ではないんですよ」
一事務員まで知れ渡ってるレベルなのか。
なお、今日は平日。しかも授業中だ。前触れなく両親揃ってやって来て、受付に声もかけず、いきなり職員室まで駆け上がって突入、怒鳴り始めたらしい。
まずセキュリティはどうした。
そこまで誰にも咎められず入れたって、これが不審者だったらどうするの。事件が起こる前に対策したほうがいいなとルークもつぶやいてた。
何しろ授業中だったんで、廊下とかは静かだった。すぐに児童たちの知るところとなり、恐怖のあまり泣き出す子もいたという。過去何回もやってるという事務員の言葉通り、皆何が起きたか分かっちゃったのね。
これ、この保護者の子供がかわいそうだわ……。
慌てて職員室にいた職員が全員でなだめようとするも、火に油で余計悪化。近くにあるものを手当たり次第に投げ散らかし、壊し始めた。
これはやばいと、とりあえず話を聞くという名目で校長室に隔離したんだそうだ。
「うわ、これはひどいですね……」
見せてもらった職員室の惨状は大変なものだった。ぐちゃぐちゃで、数人の事務員が必死に片付けてる。これは今日中じゃ終わらなさそうだ。
「ええ。けっこう大事な書類とかもあるんですが、全部作り直しです。それだけならまだしも、児童のテストや提出物までやられてしまいました。修復しようもありません。もう、どうしたらいいか……っ」
事務員たちは悔しそうに唇をかんだ。
作り直しがきくものならまだいいが、子供の作品は二度と同じものは作れない。がんばって作っただろうに、一瞬にして壊された子の悲しみは計り知れない。
「何の罪もない子供たちのものまで被害が。警察呼んでしまっていいのでは?」
「それはその……なるべく警察沙汰にはしたくないんです。なにしろ通ってる児童の保護者ですから……」
「それに、警察呼んだらさらに恨んで何されるか分からないか」
「ええ……それにその……あの保護者はちょっと訳アリでして……」
口ごもる職員。
私は床に落ちてた誰かのテスト用紙を拾い、
「校長室にいるんですよね? 行ってみましょう」
「ええ?! 危ないですよ!」
「現在どういう状況か把握しておくことは大事です」
でも行ってみて少し後悔した。
ドアを閉めてても廊下の端まで聞こえてくる怒声にさすがに立ち止まる。
「うちの大事な子の繊細な心を傷つけたな! 土下座して詫びろ。靴舐めろや。誠意みせろっつってんだよ!」
「そーよそーよ。もちろんお詫びとして今月の給食費はタダにしてくれるんでしょうね? はァ? 何その態度。ふざけんな! これから卒業するまでの給食費も他の色々かかるお金も全部タダにしろ! あ? あんたらが払えばいいでしょーが! これくらいで済ませてやるアタシらの寛大さに感謝しな!」
「慰謝料もよこせ! いいか、私はなぁ、国の偉いやつがたくさん知り合いにいるんだ。おまえらなんか簡単にクビにできるんだぞ。分かったら言うことをきけ!」
私はうめいた。
……こりゃまた典型的なモンペですこと。
事務員もげんなりして、
「……大体こういうのがいつものパターンです。要求は主に金がらみが多いですね。それか、子供同士のトラブルなら相手の子の親まで今すぐ来て謝罪させろってパターンです。菓子折りは必携、慰謝料も包んで来いだそうで。その金額がまた法外なんですよ」
「どれも無茶じゃないですか」
「ええ。過去のケースも具体的に教えてほしいとのことでしたので、取り急ぎリストを作成しました。これです。手書きですみません、時間がなく」
「十分だ。ありがとう」
ルークがリストを受け取って見る。私も横から覗き込んだ。
一番最初はなんと入学式。終わって退場が始まるという時、母親がマイクを奪って壇上に登り、急に言い始めた。
「自分は障がい者だから役員仕事は一切しない。外見からは分からないだろうから言っておく。配慮しろ。まず、エレベーターをつけろ。もちろん工事費用はそっちで。それだけじゃなく、うちの子の教室は卒業までずっと一階にしろ。二階以上は私は登るの大変なんだ、授業参観の時に困るじゃないか。うちの子だけエレベーター使わせろ、他の子どもは禁止。待つのはごめんだ。それからうちの子の作品は誰よりも目立つところに飾ること。運動会の徒競走でもうちの子がビリなんて許さない。皆並んでゴールも駄目。うちの子より後にゴールしろ」と。
「……いやいやいや、入学式で言うことじゃないでしょ。そういうのは別の機会に個人的に学校側に相談するべきじゃない?」
小学校にエレベーターがないのは障がい者に優しくないんじゃなく、アンジェ族に飛行能力やサイコキネシスがあるからだ。自力か周りが助けてくれるんで必要がない。
って、二階以上に上る気がないならエレベーター不要じゃん。言ってることに矛盾が。
「確認したところ、事前に相談はなかったんです。言ってくれればこちらも対応したんですが。現に過去障害をお持ちの保護者がいて相談され、役員免除など特別対応をとった例があります。でも結局その方は翌年自ら撤回して役員に立候補、PTA会長をやられましたよ。とても有能で温和、公正な方で、すこぶる評判がよかったです」
「うーん、それに対してこっちは最初から強烈。一応入学式終わるまで待っただけまだよかったと言うべきかしら」
「自分の子を溺愛してるみたいだから、子供の晴れ姿は邪魔したくなかったんじゃないか? 撮影に忙しかったとかさ」
「ええ、勝手に児童席の周りにいて、ずっと写真撮ってました。いくら注意しても聞いてもらえなくて」
職員の皆さんの苦労が忍ばれる。
「障がい者っていうのは本当のことなんですか」
「はい。このお宅は有名かつ配慮が必要とのことで、役所の担当者が定期的に訪問してます。母親は気分の上下が激しく、臥せっていることも多いそうです。父親のほうは普段働いてますが、どうやら職場でもよくトラブルを起こしているとか」
「公的な福祉サービスや精神科医など専門家の診察は受けてないのか?」
「本人たちが断固拒否してまして。自分たちは正常だと。実は、父親の職業が某官公庁のエリート職員なんですよ……実家もそうそうたるメンバーです。金はあるのでお手伝いさんを雇ってるわけですね、でもあの通りなので大体一か月ももたず辞めてくそうです。彼らに危害を加えても、金と権力でもみ消してるともっぱらの噂で……あ、わたしがしゃべったことは内緒にしてくださいね」
ボソボソと事務員は教えてくれた。
それで警察呼ばないのか。
「母親の実家は代々地方の議員やってます。選挙の際の支持基盤の点から、お互い納得の上での政略結婚らしいですよ。母親の父親、つまり祖父が障がい者の人権を守る、とある団体の代表やってます。ただし、ここはかなり強引なやり口をすると噂されてる団体でして。実際、以前に要求が十分に通らなかったことで憤慨した母親が連絡し、乗り出してきたことがあります。すごかったですよ。『障がい者を差別するのか、差別反対』って繰り返して」
ううむ、何かをはき違えてる気がする。学校側にそんな意図はないわけだし。
「ていうか、そもそも今って日中よね。父親、仕事しないで来てるってわけ?」
素朴な疑問。
「たぶん。問題だなー。早急に調査させて対処しよう。かばった一族にも相応の処罰与えとこっと」
しれっと言う王弟殿下。
こわ。
時々思うんだけど、ルークって結構腹黒いよね。
「何ていうかな……障害が理由で心の病気になっちゃったのかもしれないけど、だとしても障害を理由に同情心や罪悪感をあおって自分の要求を何でも通そうとするのは駄目だと思う」
「ミドリ、実感こもってるね」
「んー……まぁね。私も身内にいてさ」
私は思い出して頬をかいた。
「けっこう重めの障害を持ってる人なんだけど。何かって言うと自分を示して『わたしはほら……ね?』が口癖で、そうやって自分の主張を常に押し通すの。そう言われると大抵の人は罪悪感から言うこときいちゃうでしょ。それで何でも人にやってもらうのが当たり前って考えちゃってて、ついには自分でできることもやろうとしなくなってね。運動機能回復のためリハビリを医者が勧めても、『本当に良くなるの? 良くならなかったら責任取れる?』。しかもそれが『5分で効果出なければやらない』とか、どうあがいても無理な条件で」
「……そりゃ大変だ」
「そんなんだから、周囲の厚意も善意も限界にきてね。親戚中から総スカンくらい、ついに無関係な人に損害与えて警察沙汰。以前から家族は精神病院に入院させてきちんと治療したがってたんだけど、主治医は本人が拒否してることを理由に、人間の尊厳だの何だのって受け付けなかったの。もっと早く実行してれば事件も起きなかったのにって、当時問題になったっけ」
遠い目になる。
司法の介入でようやく入院して治療が実行された時、親戚一同「ようやく……」と胸をなでおろしたそうだ。
「世論も立場を悪用して許せないって意見と、障がい者なんだから減刑すべきだって意見と割れてね。前者は障碍者団体からもそういう意見が出たのが何ていうか」
そこで話がそれまくってたのに気付いた。
「……ああ、話題がそれた。ごめん。で、他にはどんなトラブル起こしてるの?」
②保護者会で急に子供に食物アレルギーがあることを話し、「図工等で材料としてプリンカップ・ヨーグルト容器・牛乳パックを使う際は事前に集めたの全部チェックさせろ。少しでも洗い残しやにおいがあれば提出者に突っ返す。もう一度洗って持ってこい。再度チェックして合格すれば許してやる」
③「うちの子がしゃべってる時にクラスメートが遮って話し出したらしい。保護者ともども謝罪に来い」と要求。家まで指定した時間に手土産と慰謝料を持参せよとのこと。
④「うちの子が登校途中に雨で濡れた。なぜすぐ着替えを買いに行かなかった」と電話。
etc……。
疲れてきて読むのそこまででやめた。
「こりゃすごい」
「プリンカップとか、そもそも使わなきゃいいだけじゃない? 食物アレルギーは命に関わることもあるんだから、担任に言えばそういうの使わない題材に代えてくれるでしょうに」
「はい。実際別のクラスで食物アレルギーの児童がいまして、そこではそういったものは使用していません。過去もそういった対応をしています」
「ですよね。なんていうかなぁ……自分の主張を通したいなら、頭ごなしに高圧的な言動は駄目よね。相手が身の危険を感じるレベルなんてもってのほか。それもはや脅迫や恫喝だって」
「それに加えて器物損壊やってるしなぁ」
ルークがつぶやいた時、ガシャーンと何か壊れたような音がまたした。
わぁ、タイミングがいい。
「おまえら全員ぶっ殺してやる!」
怒声が響いた。
―――うわ、さすがにヤバいんじゃない?
事務員が恐怖にかられながらも加勢に入ろうとしたのをルークが止めた。
「やめたほうがいい。余計相手を刺激する。専門家を呼んであるから、彼女に任せるんだ」
「専門家?」
「ええ、来ましたよ」
場にそぐわぬおっとりした声がした。
振り向けば、品のいい老婦人がたたずんでいる。
田舎にいそうなのんびりした、見るからに善人の典型みたいなおばあさん。
誰かに似てるような……?
気のせいか。
「久しぶりねぇ、ルーク」
「久しぶり、オリビア。元気そうだな」
ルークは気さくに話しかけてる。向こうも呼び捨てだ。
「ええ。まだまだ若い者には負けませんよ。ふふふ」
「頼もしい限りだ。さっそくよろしく」
???
訳の分からない私たちを尻目に、老婦人は校長室へ入った。
中にいた全員もぽかんとしてる。ちょ、母親のほうが刃物持ってるよ。老婦人はそれをものともせず、ドアを閉めた。
「……ちょ、大丈夫?! あんな非力なおばあさんじゃ止められないよ!」
ルークはひらひらと手を振った。
「平気平気。待ってなって」
おろおろしながら待つことしばし。
急にドアが開くと、満面の笑みな保護者が出てきた。
「あっはっは、ばあさんよく分かってるじゃないか! いやー、いい気分だ! 帰るぞ」
「そうね。あ、ご老体に免じてさっき言ったことはナシでいいわ。さすがに老人の顔をつぶすほどわたしたちも残酷じゃないの。許してあげるわ。わたしたちの寛大さに感謝おし」
陽気に笑いながら行ってしまった。
ぽか――ん。
「……え、一体何が」
何をどうしたらあれだけ激昂してた人間を上機嫌にできるの。
ルークが落ち着いて解説した。
「彼女は俺の乳母だった人なんだ。こうやって人をなだめるのとか交渉が上手くてさ。俺の乳母できたってことでそれは証明されてるよね」
「そうね。あんたの世話しなきゃならないの、よっぽど優秀な人じゃないと無理だわ」
そっか、王族だもん、乳母がいたのね。
しかしこいつの乳母か……。さぞかし大変だっただろうな。
場にいる全員が同じ気持ちだったようで、苦労を偲ぶような雰囲気だった。
「ひどいなー。まぁそんな特技を生かして、引退後はクレーマー対応のプロを育成する教育係をやってるんだ。最近教え子を集めて派遣会社作ってて」
クレーマー対応のプロ派遣!
それはありがたいわ。上手い人がやらないと火に油注ぐもんね。
「本当は暇でしょうがなくて潰れるくらいがいいんですけどねぇ」
「残念ながらそうもいかないさ。最近各自治体や教育機関でもクレーマーの対応を迫られるケースが多くなってて、国で委託することにしたんだ」
「保護者だけでなく近隣住民とかからでも対応しますよ。こちらの番号に電話してくださいな」
校長に名刺を渡す老婦人。
外見は元乳母さんのほうがはるかに上でも、アンジェ族はたいてい年齢不詳。どっちが年上か判断できない。
「国が業務委託契約結んだんで、費用はかからない。安心して頼むといい。弁護士など専門家もいて、代わりに対応してくれる」
「そ、それはとてもありがたいです……!」
先生たちはホッとして肩の力を抜いた。
老婦人は私のほうを向き、
「自己紹介が遅くなってすみませんねぇ。この子の乳母をしていたオリビアと申します」
私も急いで挨拶した。
「あ、はい、初めまして。天木美鳥です」
「この子は昔から変り者でしてねぇ……やっとお嫁さん見つかって、ほんと安心しましたわ。なんでこんな子になっちゃったのやら、私の子育て間違ってたかとよく思ったものですよ」
「こいつは誰が育ててもこうなったと思います。本人の素養なんで」
姉女王が文字通り殴っても張り飛ばしても無駄だったんだから、どうあがいても無理だ。
「あと、私はこいつの嫁じゃありません」
「あらあら、新婚さんらしく照れて。兄から伺ってた通り奥ゆかしい方ねぇ」
「兄?」
首をかしげる。誰だ。
ルークが教えてくれた。
「オリビアはヒューゴー先生の妹だよ」
そういや老先生の名前は、今さら紹介だがヒューゴーである。
「え?!」
元ルークの家庭教師と乳母が兄妹。
なるほど、どっちが先か分からないが、身内で連携の取れるメンツにしたのね。でなきゃこの超問題児は大変だということか。正確な読みだ。
誰かに似てると思ったら、老先生だったのね。
「兄も活力取り戻したそうで、ミドリ様には感謝してるんです」
「こちらこそ、先生には色々教えていただいて」
今も毎日授業受けてます。
「オリビアはこの通り、見かけ無害で無力な人のいい田舎のおばあちゃんだろ? 話し方もゆっくりで落ち着いてる。人を鎮静化させるのが上手いんだよ」
「よく分かる」
私もそんな気分になるわ。
こういう特性を持ってるからルークの乳母やれたんだろうな。
「どんなにヒートアップした相手でも毒気を抜かれるんだよ。どこからどう見ても弱そうな老婦人を制圧したところで征服欲も欲求も満たされないじゃん? むしろ圧倒的弱者をいじめただけに思え、他者の目も気になってくる。自分のプライドが許せなくなってきて、罪悪感すら生まれて落ち着くんだ。相手が自然とそうなるよう仕向けられる特技の持ち主なんだよ」
すごい特技。
上品な田舎の老婦人といえば、ミス・マープルが思いうかぶ。『無害でおしゃべりでちょっとマヌケなおばあちゃん』を装って相手の懐に入るのが上手いのね。そういうおばあちゃんって不思議と何でもしゃべっちゃいたくなるもの。
ルークは校長たちに向かって、
「そんなわけで、今後一切の対応はプロに任せたほうがいい。それからこの室内の状況も一旦そのままにしておくように。すでに警察には通報済みだ」
先生たちは仰天した。
「え! 待ってください、それは駄目です!」
「何が? 圧力がかかるからか? 権力に物を言わせてもみ消そうとするだろうな、でもそういうのってより強力な力の前では無力なんだよ」
王弟殿下は腕組みして言ってのけた。
確かに高官とはいえ一役人の力じゃ女王の弟には勝てないな。ルークも権力の使いどころが分かってる。
まったく威厳はないし、普段は権力なんて使おうともしない奴だけど、いざという時はやるのね。
ふぅん……。
ルークは珍しく厳しい口調で続けた。
「今回の件、発案者が俺の妃だと言えば、相手もすぐ去っただろうな。けどそれじゃ権力を振りかざすことになるとやらなかったのは正しい。そこは評価しよう。だが無関係な児童の器物損壊までしてるのは完全に警察案件の域だ。今まで黙って耐えていたからここまでエスカレートしたんじゃないか? 言い方は悪いが、何をやっても大丈夫だと舐められてるぞ」
「……それは……分かっておりますが……」
「壊された子供たちへも同じように黙って我慢しろというのか? その保護者が訴える可能性も十分あるぞ」
その可能性に初めて気づいたのか、校長が青くなった。
そりゃね。黙ってる被害者ばっかりじゃないだろう。これが初めてじゃないだろうし、堪忍袋の緒が切れてもおかしくない。
「ああいう輩を野放しにしておくのは国にとってもよくない。それに、自分の親がこういったことを続けていたら子供はどうなる。教育者としては子供のことも考えるべきじゃないのか」
先生たちはハッとしたように顔を上げた。
うーん、効く言葉がよく分かってるな。
さすが仮にも王子としてしゃべりは慣れてるだけある。講演の時も思ったように、言葉で人を動かすの上手いよね。
「恥ずかしくて悲しいと思うぞ。これが原因でいじめが起きている可能性もある。反対に親を見習って同様のことをやっているのだとしたら、早急に対応すべきだ。どちらにしても子供の成長にとって好ましくない。法的拘束力を持つ警察や裁判所など第三者をまじえたほうがいいだろう」
私はうなずいた。
……分かる。私達も親戚がやらかすたびに嫌だった。
思い出してついため息つきそうになりながら、挙手した。
「ねえ、ちょっといい?」
「ん、どしたのミドリ」
「先生たちに言いたいことがあるの。先ほどちらっと言ったんですが、実は私の親戚にも障がい者がいまして。身内にいた立場の人間からの一意見として聞いてもらえますか?」
私はゆっくり話し始めた。
「……その人は何でももらえて当然、全部人がやってくれるって思ってた人でした。小さい頃から家族が『かわいそう』だと、何でも要求をのんでたせいです。周囲にも『うちの子はその……ね?』と我が子をチラッと見て『お願い』していた。そう言われると厚意や善意で断れませんよね。それを見て育ったため、それが『当たり前』になった。無制限・無条件にみんな自分の望みを叶えてくれると思って大人になってしまったんです。成長と共に要求はどんどんエスカレートしていきました」
だけど誰も止められず、駄目だと言わなかった。
「“親戚”は大人になると、ある人と結婚しました。善良で真面目な人でした。ただしそれは相手が好きだったからじゃなく、言うことを聞いてくれる人を常に傍に置きたいという理由によってでした」
まるで家政婦や使用人のように。
「誰もが何でも言うこときいてくれてたとはいえ、要求が年々大変なものになってきてて、実現が難しくなってた。家族は断ることも増えてきて、それが不満だったのね。そこへたまたま優しく接してくれた人が現れたから固執した。何としてでも傍に置いて、望みを叶えてもらいたかった。でも当然ながら相手は仕事も家もあるし、不可能。周囲だって『無関係な人相手に無茶だ。家族でなければ常に傍にいることは難しいんだから』と諭したの」
でも、とため息ついた。
「これがまずかったのよ。それなら家族になればいいと考えたんです。法律のことも理解してなくて、ただ単に『家族になればいつも傍にいて何でもきいてくれるんならケッコンしよう』って。結婚て言葉の意味すら分かってなかったみたいです」
長年親が甘やかしてきたせいか、一般常識や基本的なルール・マナーなどを一切身に着けていなかった。知的障害はないが、年よりはるかに精神年齢が幼く、会話していても言葉の意味を理解していないことが多々あったという。しゃべり方も大人になっても子供のようだった。
家族が何でも「いいよいいよ」とやってあげて、言う前に色々与えることもよくあったから、難しいことを考える必要がなかったんだ。
「配偶者となった人は周りから懇願されて結婚したものの、ある日とうとう耐えかねて家を出ました。その人は元々部外者でしたからね、家族はやらなかったこともできました。何があったか全てを記録にとり、訴えたんです。記録によると……“親戚”は無職で、それまでは家族の援助で暮らしていました。就職したこともあったんですが、人間関係で速攻トラブルを起こしてクビになってます。そこで配偶者の稼ぎに頼ってたわけですが……家族が結婚を懇願したのも、援助をやめたかったのがあるんでしょうね」
結婚すれば、自分たちの稼ぎで暮らしなさいと言える。エスカレートする要求に、金銭的にも限界だったんだろう。
「ところが、配偶者が勤務中だろうがお構いなく呼び出して色々『お願い』を繰り返した。あれが今すぐ食べたいとか、療養のため今から温泉に行きたいとか。勤務先まで行って、望みが叶うまで断固帰らないと主張することもあったそうですよ」
「普通にそれ、勤務先の業務妨害じゃない?」
ルークがすごく当たり前のことを言った。
「うん、困り果てた会社側が警察呼んで間に入ってもらったこともあったみたい。さすがに配偶者の訴えが認められて、離婚が成立。ここまではまぁ、仕方ないわよね。この先が問題だったのよ。“親戚”本人に悪いって自覚がなくて、相手のせいだって言いふらしたの。経緯を知ってる人たちは信じなかったんだけど、遠くに住んでたり事情を知らない人たちはすっかり信じちゃってね。うちの親も後者だった。信じた人たちみんなで支援しようって決めたのが運の尽き」
それが失敗だったね。
肩をすくめた。
「連絡先教えたせいで、昼夜問わず呼び出しよ。配偶者に逃げられてイライラしてたのかな。さらにやることが悪化してた。あまりに理不尽な要求ばっかで言ってることも非論理的だから、皆すぐおかしいと気付いたんだけど、一度支援すると言ってしまった以上、人情からやめることができなかったの。やめたら『差別だ』って言いだすし。ああ、そもそも“親戚”の家族が長年、『お願い』を拒否する人がいるとそう言って責めてたのよ。だから本人としては素直に親を見習っただけだったの。『わたしはその……ね?』ってセリフと同じにね。困ったらそう言えば解決する『魔法の言葉』だと思ってたように、親の教えに忠実だった。……―――そうやって我慢してた支援者たちだけど、いつかは限界がくるものよ」
息継ぎして、
「きっかけは3件。一つ目は『支援者』が呼び出されて行くと、不動産業者がいて契約書を見せられた。購入代金を支払う名義人に自分の名前がある。だけど覚えなんかない」
「へえ、偽造か」
ルークが眉を上げた。
「その通り。例の親戚は新居が欲しくなって、理想の場所に土地を購入し、そこに自分の思い通りの家を建てることにしたのね。金は親族が払ってくれると勝手に判断、署名と印鑑が必要と言われて記入した。これも無断で人の署名捺印をしちゃいけないって知らなかったのよ。ただ必要なら書けばいいって思ったんだって」
ハンコも自分で親族の名字のを注文して押したそうだ。
「子供みたいだな。責任能力欠如でそんな契約無効だろう。そもそも偽造だし」
「不動産会社のほうもおかしいと思って確認取りにきたわけよ。これが発端で、他にやってないかと問い詰めたら案の定。あちこち借金しようと、連帯保証人欄に『支援者』たちの名前を自分で書いてた。これが第二」
指を二本折る。
「これも偽造って認識すらなかったの。借金も、お金を借りたんじゃなくて『くれた』んだと思ってた。何しろ昔から周りに言えばたいてい何でもくれたから、お金なんて『ほしい』って言えば無限に人からもらえるものだって認識だったわけ」
皆ぽかんと口を開けていた。
そりゃそうだよね。自分のしたことが犯罪だという自覚すらなく、『借金』の意味も知らなかったなんてね。
「幸いこれも未遂に終わったのよ。不審な点に気付いた消費者金融会社が貸さなかった」
三本目の指を折る。
「第三。ある日近所の人がインターホン鳴らされて出ると弁護士と警察がいて、書類を見せられた。内容を要約すると、今後“親戚”と同居して無償で面倒をみること、かかる費用はすべて負担すること」
「は?」
「でしょ? 弁護士も言われた通りに書類作ったもののおかしいと思ってて、警察に相談して一緒に調べに来たらしいの。“親戚”が言うには、隣人はもっと広い家に住みたいと言ってた、だったら一緒に引っ越せばいい、その代わりにってことらしいの。実際は隣人とは挨拶程度で、そんなこと話したこともなかったそうよ。諸々あわせてとうとう逮捕。裁判になって、責任能力の欠如と治療のため精神病院に入院が決まり、もう一生出てくることはない。……それが結末」
私は先生たちに向き直り、
「―――分かりましたか? これは極端なケースだと思いますが、自分の行いが犯罪だという自覚がないことがどれほど危険なことか。“親戚”にしても、もっと早くに誰かがきちんと教えていればああはならずに済んだかもしれません。あんな結末になってしまった責任は周囲にもあると思います。私は遠縁にもう一人障碍者がいるんですが、その家庭ではちゃんと善悪を教えてました。大人になった時、一人でも生きていけるように育てるのが目標だと。順当にいけば親のほうが先に死ぬ、そうなっても前を向いて生きられるような子にしたいと言ってました。その甲斐あって彼女は明るく前向きな人で、『わたしは障害を理由にしたくない』と努力して、ついにパラリンピックの選手になりましたよ。彼女が言ってました。『どんな人であれ、罪を犯したら法律に則った罰を受けるべきでしょ』と」
どうですか?と問うように先生たちを見た。
彼らは何も言わなかった。
ルークが咳払いして、
「ま、とにかくだ。あの様子ではそのうち児童や他の保護者、職員への無差別殺傷もやりかねないぞ。そういった事件が起きてからでは遅いんじゃないか? 警察の介入もやむを得ないだろう」
「……はい」
「あの保護者の言う権力者とやらについてはこちらで対処しておく。どうせ収賄容疑かかってるんだ、そっちで逮捕する予定だったしな。母方が絡んでる障碍者団体もいくつかの容疑で起訴されてる」
あ、やっぱり。後半聞いてそう思った。
途端に先生たちが顔を上げる。
「そうだったんですか?! じゃ、じゃあ」
「報復される恐れはないってことだ」
皆正直ホッとしてるところへ警察が入ってきた。
初めからオリビアさんだけじゃなく警察も呼んで、近くで待機させてたね? 早すぎる。
警察はさっきの保護者を逮捕して調べたところバッグの中から刃物が出てきたと報告した。折り畳み式の大きなサバイバルナイフで、「これ以上気に食わないことを言うなら突きつける気だった。でも殺そうとは思ってない」と供述したらしい。本当かどうかは分からない。みっちり取り調べるため警察署へ連行されていった。
さて、これでひとまず親のほうはいいとして。……心配なのはこの家庭の子どものほうよ。
うちの親戚みたいにならないためにも、きちんと善悪を教えておかねばならない。ショックも受けてるだろうし、専門家の治療も必要だろう。
これはオリビアさんがツテがあるそうで、専門の医師や関係機関と連携して今後の対応をしてくれると決まった。
私とルークは後のことを信頼できるプロに任せ、帰路に就いた。
私達がこの件に関わってたことは内緒にさせたままで。
☆
帰り道、私はつぶやいた。
「―――それにしても驚いた。ルークでもあんな厳しい態度取ることもあるのね」
「まぁそりゃ、そうしなきゃならない時もあるよ」
ルークは苦笑を返した。
「きれいごとだけじゃ国を治められない。それが現実だ」
「そうね。ときに、出張授業やる学校ってどうやって決めたの? 過去トラブルを起こしてる保護者がいる学校に王子が行くようにするなんて、選択方法ミスったんじゃない?」
「教育関係担当してる省庁が決めたんだよ。日時の都合が合うのと行きやすさと警備の関係の兼ね合いであそこにしたって言われたんだけど。そこの高官があの保護者の言う『知り合い』さ」
「……あー、なるほど」
自分の子が通ってる学校に王子が来たって自慢したかったのね。
「ねぇ、ミドリ。話戻してさっきの厳しい対応だけどさ」
「どしたの、こだわるわね」
「いやその……嫌いになった?」
おずおずと尋ねてくる。
何だか垂れた犬の耳としっぽが。*幻覚
クールに返してやった。
「別に元々好きじゃないんだけど」
「が――ん」
分かりやすくへこむ王子殿下。
「口で効果音出すな。ただそうね、むしろ見直したかな」
「見直した?」
「困ってる人の頼まれごとを無償で引き受ける、それはいいことよ。だけど何でもかんでもホイホイきいたり、与えるのはよくないでしょ。厚意につけこむ人だっている」
誰もが善人じゃないからね。
「それに人間ていうのはもらうのに慣れてしまうとそれが当然になり、感謝の念すら抱かなくなる。何もしなくてももらえるんだ、人がやってくれるんならめんどいし自分は何もしないって努力しなくなる。それはよくないのよ。本当に人のためを思うなら、無償で与え続けるのは駄目。きちんと相手が自分の力で生きていけるよう方法と手段を身につけさせることが重要よ」
現状から抜け出そうってやる気が生まれないところまでやっては駄目。
「あの保護者にしても、彼らの今後のことを考えるなら、我慢するんじゃなく毅然とした態度で応じるべきよ。自分たちのしたことは法に触れる行為であり、刑に服さねばならないんだと気付かせなきゃね」
何をやっても許されるわけじゃないのよ。まして、人の厚意につけこみ、罪悪感を煽って言うなりにさせるなんて、ね。
ルークの顔が輝いた。
「ほんと?! 好感度上がった?! じゃあさぁ、そろそろ妃だって認めてくれる気に」
「ならない」
すっぱりぶった切る。
変人の相手を一生するのはごめんこうむる。
「ミドリはツンデレだなー。『お神酒』飲んだ以上もうアンジェ族の仲間入りしてるんだし、あきらめて認めてよ」
「絶対あきらめない。誰がツンデレよ」
あきらめないのには訳がある。勝手に儀式されてたって知った時は頭真っ白になったけど、冷静になって考えた。アンジェ族と他種族が離婚したケースもあるはずだ。その際、『お神酒』の効力を消すんじゃないか?
だって、相手が離婚して他種族と再婚することもあるでしょ。そのままにしてはおけないよね。
長寿と超能力欲しさに偽装結婚→即離婚で犯罪も起きそう。そこんとこの対策はしてるはずだ。
つまり、元の体に戻る方法があるんじゃないかってことよ。
ただし、これをルークに確認するほど私も馬鹿じゃない。ごまかされるか騙されるのが目に見えてる。
屋敷の使用人たちはルークの味方だし、老先生やダンさんだって言わないだろう。
一番簡単なのはスズネちゃんだけど、あんなにしょげててかわいそうだもんなぁ……。
誰から情報を得るか悩んでたら、ルークのスマホが鳴った。
いいなぁ、スマホ。どうにかして私も入手できないものか。
「……うん、ああ、分かった。ミドリ、行こ」
「え? 行くってどこに」
「城。姉さんから呼び出しだよ。ミドリも来てほしいんだ。重要な話があるんだってさ」
給食の余ったご飯をおにぎりにしておかわりどう?ってある小学校でやってたら、苦情が出たのは実話です。もちろんおかわりは強制じゃなかったし、残しても別に何も言われない。完食しなきゃ許さないなんて時代じゃないですしね。
おにぎり化はすでに何年もやってたことなんですが、ある年いきなり。
保護者曰く、子供は真面目だから「食べなきゃ」と思って食べ、具合が悪くなった。精神的にも負担で、給食の時間が苦痛だと訴えたそうです。
以後、この学校でおにぎりはなくなり、楽しみにしてた子たちがガッカリしたのも事実です。
この話を聞き、なんか寂しいなぁ、と思いました。自分の体の調子が悪くなるまで食べない、無理なことは無理と断ることも勉強だと思うんですよね。