奇人殿下の友人夫婦の仲を取り持ってみよう
帰り道、ルークが「知り合いの食堂に寄ってこう」と言い出した。
「商店街のお祭りで目玉にいいアイデアないかって相談受けてるんだ」
「そういう『困りごと』も引き受けてるのね」
もはや発明関係ないね。
その食堂は城下町で一番人気のお店だった。質のいい食事をリーズナブルな値段で提供していて、金持ちから庶民まで愛されているという。
「ほんとは最初ミドリを案内するのはここのつもりだったんだけど、あいにく事情があってさ」
私たちは個室に通された。
素朴ながらも品のいいインテリア。家庭的で落ち着くテイストだ。
メニューを見せてもらうと、どれもこれもおいしそう。お昼は食べたのにお腹がすく。
「ミドリが使ってる卵の中身はここで引き取ってもらってるんだよ」
「あ、ここなのね。ケーキに使うって言ってたから、ケーキ屋だと思ってた」
「自慢のメニューがケーキなんだ。ほら、そこに載ってる」
うっ、おいしそう。
写真に思わずよだれが出そうになる。生クリームとイチゴたっぷりのショートケーキ。
この誘惑に勝てるスイーツ好きがいるだろうか。いや、ない。反語。
「た、食べたい。注文していい?」
スイーツは別腹だ。
「もちろん。……おっと」
ドアが開いて、美少女が入ってきた。
十代半ば~後半……に見えるけど、アンジェ族は年齢不詳だともう知っている。見かけは若くても、彼女もはるかに高齢かもしれない。
「こんにちは、初めまして! ようこそお越しくださいました、店主のスズネです」
美少女はぴょこんと頭を下げる。
え、この子?が店長?
やっぱ若く見えるだけで実はけっこうな年ってオチか。
めちゃくちゃかわいい小柄な美少女。スカートタイプのパティシエのような恰好で、長い黒髪は後ろで一つに結んでる。なんだか黒猫みたいな印象を与える子だ。
って、『子』じゃないかもしれないのか。
「こちらこそ初めまして……ってのも変ですね。いつも卵の中身引き取ってくれてありがとうございます」
「いえ、こちらも助かってますから。これ、それを使ったケーキです。サービスなので、お代はお気になさらず」
まさに食べたかったケーキを出してくれた。つい目を輝かせる私。
「いいんですかっ? うれしい。……んー、おいしい~」
絶品。シンプルだからこそ、腕の良し悪しがよく分かるわ。看板メニュー納得。
「殿下もどうぞ。……えっと、ダンも、飽きてるかもしれないけどっ」
スズネちゃん?さん?は赤面しつつ差し出した。
ん?
なぜそこで赤面? しかも呼び捨てって。
「?」
不思議に思ってたら、王子殿下が爆弾発言した。
「スズネはダンの奥さんだよ」
「……は?」
はい?
What?
なぜか英語。
ぱちぱちまばたきする。
ダンさん本人に確認。
「……ダンさんって既婚者だったんですか?」
「そだよー、書類上は」
おい!
ちょっとどころかかなり色々ツッコミたい発言よ?!
思わずフォークを取り落としかけた。
「ええと、理想の女性を探してるとか言ってましたよね。最近も狙ってる人いるって」
「それはその……ああうんまぁ」
「浮気じゃないですか!」
ガチャンとフォークを置く。
「不倫は駄目ですよ!」
目を吊り上げて起こる。
しかもこんな美少女の奥さんいてふざけんな。私がダンナなら絶対猫っかわいがりするぞ。
「俺は絶対浮気なんかしないから大丈夫だよミドリ」
「つーかお前は浮気しようにも誰も相手してくんねーだろ」
「ひどいな。事実だけど」
「ルークには言ってない。ダンさん、こんなかわいい奥さんいて、しかも目の前で堂々と公言するってどういうことですか!」
詰問する。
見なさい、スズネちゃんしょんぼりしてるじゃないの。
ダンさんは困ったように、
「いやー、オレらはワケありでさ。スズネを保護するための権利を得るって目的で書類上だけ籍入れたんだよ。お互い了解済みで、他に好きな相手ができたら円満離婚しようって事前に取り決めしてんだ」
「はぁ? 保護?」
確かにこれだけの護ってあげたい系美少女なら保護したくなる気持ちも分かるが。ノラネコの保護じゃないんだから。
「り、離婚なんかしないもんっ!」
スズネちゃんが両手でスカートを握りしめて叫んだ。
「あたしはダンが大好きなんだもん!」
ぽんっ。と音がして、彼女に耳としっぽが生えた。
猫の。
―――んっ?
私は目をこすり、さらに頬をつねってみた。
幻覚かな。
……痛い。
紛れもない現実だわ。
女の子にリアルで猫耳&尻尾生えてる?!
「ちょ、え、ええええええ?!」
「あれ、ミドリは見たことなかったっけ。猫の性質持ってる民族いるんだよ」
「先生から教わりはした。え、ジャンプ力とかそういう意味じゃなくて? 物理的にパーツ持ってんの?!」
ルークはあっさりと、
「俺たちだって翼持ってるじゃん」
……そうだった。
こっちの世界の人間は物理的にも特性持ってたんだった。
じゃ待てよ。難民のクモの民族もクモの何か持ってたの?
ゾワゾワして想像をやめた。それよりもかわいいものを見よう。
「はあ、猫ねぇ……」
ヤバイ。
……正直に言おう。
めちゃくちゃかわいい。
何この破壊力。リアルな黒猫娘ですよ。かわいい。もはやかわいい以外の言葉が出てこない。これ落ちない男がいたらお目にかかりたい。女の私でも一瞬で落ちるわ。
「か……かわいい……。あの、耳、触ってもいい?」
ていうか触らせて。
猫派としてはモフりたい。ぜひとも触らせて。
つい手をわきわきさせてしまうのは猫好きの性だ。
不審者じゃないよ。
「あ、はい」
「ありがとう。……うっわ、ふさふさ、ふわっふわ。何この毛並み。ビロードみたい。ヤバイ、かわいいなんてもんじゃない、尊い。ちょっとダンさん、こんなモフりがいがあるお嫁さんいるなんてうらやましすぎますよ!」
むしろうちの子にしたい。
「んー、だからさー、法的な保護者が必要だったんだって。昔、山奥でひっそり暮らしてたマオ族が発見された。直後からこの容姿ゆえに人身売買目的で乱獲され始めたんだ。高値で取引されて、わずか百年のうちに絶滅寸前まで行った」
「人身売買……?!」
息をのむ。
なによそれ。
「こりゃヤバイって、国際的に取り締まりが始まったんだ。国内でも組織を摘発して、その時『商品』にされてたのがこの子さ。家族の元に返して一件落着……のはずだったんだけどなぁ。よりによって親がろくでもなかった。全部分かった上で娘を売り飛ばし、利益を得てたんだよ」
「はあああ?!」
「親はマオ族じゃなかった。ただ遠い先祖にいたらしくて、スズネだけ先祖返りで特性が出たんだな。しかも、最も美しいとされる黒髪に金の瞳。この組み合わせはすげーレアで、純血種でもめったにいない。おかげでハンパない値段で売れたってわけ」
その親連れてこい。ひっぱたいてくれる。
「家に戻したら、まら売り飛ばされるのは目に見えてた。そこでオレが配偶者になって保護することにしたわけ。そうすりゃ親に権利はなくなるし、オレこれでも王族の親戚だから公的な保護でもあったわけ。うちならセキュリティも万全だし」
本職のスパイのとこなら確かに安全だろうね。
けど、法律上も保護するなら他にもやり方はあったはず。
「養女でもよかったんじゃない?」
「婚姻届け偽造して出されそうになったんだよ。慌てて先手を打って出したんだ」
そうか、既婚者であれば配偶者に最も権利がある。
ルークが言う。
「わざと大々的にニュースで取り上げさせて、これ見よがしに護衛つけた。隠さないことで守ったんだよ」
「人の目が多すぎて、狙えないってことね。リスクが高すぎると」
「悪い人たち殴り倒して助けてくれたダンはすっごくかっこよかったのっ!」
拳握って力説するスズネちゃん。猫耳美少女の上目遣いキタ。
「あの時から大好きなのっ!」
……おおー、すごい効果の告白。
拍手してしまった。
これは男なら喜ぶでしょう。
と思ったら、ダンさんはあっさり流した。
それどころかポンポンと頭をなで、
「それ、子どもの思い込みな。吊り橋効果。オレみたいないい年したオッサンじゃなく、同年代のマトモな男ときちんとした家庭築きな」
―――オイこの罰当たり。
つい毒づいてしまった。
みるみるうちにスズネちゃんの目に涙が浮かぶ。
うわああああ。こんなかわいい子泣かせるなんて。
私は彼女を抱きしめ、ダンさんを睨みつけた。
「女の子泣かせるなんて許せませんよ!」
「……いや、嫁ちゃん、これいつものやり取りなんだよ。もう十年くらいやってる」
「いつもやってるんですか。決死の告白を子供あつかいでスルーとか、一番傷つくやつですよ!」
やはりルークの友。女心が分かってない。
「罰当たりますよ、ていうかむしろ私が当ててやる」
「そう言われても、オレ、保護者だし」
それが傷つけてるっての分からんのか。初対面の私でも分かる、この子の愛情は保護者に対するものじゃない。本物だ。
「ダンさん」
私はにっこり笑い、彼を追い出した。
「ちょっと出てけ」
バターンとドアを閉めた。
頭冷やしてこい。
☆
「ひどいわね。女心が分かってないとは思ってたけど、あそこまでとは。スズネちゃん、泣いていいのよ」
耳をへちょっとさせた美少女を慰める。
小柄で私の肩くらいまでしか身長ないから、小動物相手にしてるみたいだ。
しばらくしてようやく落ち着いたらしい。
「あ……あの、ありがとうございました。みっともないとこ見せてすみません」
「いやー、あれはダンが悪いよ」
ルークが頬杖ついて言った。
「あれ。かばうかと思ったら」
「この件に関してはしないよ。だって、スズネが本気でダンを好きなの知ってるし。実は前から相談受けてたんだけど、何しろ俺自身が結婚相手見つからない変人じゃん? 我ながらアテにならないよ」
確かに世の女性から「アレはない」と総スカン&酷評される王子殿下が男女をくっつけられるわけがない。自分ができないのに。
「周りの人間はみんなスズネの味方で、あれこれ画策したげてるんだけど、肝心のあいつがあれでさ」
「ダンさんて本気で保護者感覚なの? それともそのフリしてるだけ?」
「うーん」
ルークは考え込んだ。
「最初に会った時スズネが子どもだったから、その時の感覚で倫理的な意味から無意識に思考セーブしてるのはあると思う。あとは本当に鈍感で気づいてない」
「それマジで?」
「マジ。『兄代わりの存在に対する好き』だと思ってる。家族の愛情さ。スズネも昔から『好き』って言ってたの裏目に出たな」
「あたしはいつも本気で好きって言ってたんです! だって、ダンはかっこいいからモテるもん。名目上でも奥さんなら、主張しなきゃ、子供だし蹴散らされるじゃないですか!」
どうだろう。ダンさんてフラれてばっかだって聞いてるよ。
私も彼と結婚したいとは思わない。
「……ここまで好かれてて、離婚するつもりとか。意味分からない。あげく色んな女性にアタックしまくってるんでしょ?」
視線が冷え冷えとしたものになってきた自覚はある。
「あー、仕事だからなぁ。あいつ女性から情報引き出すの上手いんだよ」
「仕事でもやっていいことと悪いことがあるのよ」
「俺は絶対にやらないから大丈夫だよ。ミドリ以外の女性に興味は欠片もない」
「あんたには聞いてない」
きっちり否定しておく。
「まぁ友人の名誉のために言っておくと、仕方なかったとはいえスズネの戸籍に傷つけたことを気にしてるんだよ。だからいい男を見つけてやって幸せな結婚をさせてやることが自分の使命だと思ってる。ただ、スズネが好きなのは自分だってのを分かってないだけ」
「自分がその、幸せにしてやる男になればいいのにね。……うーん、何とかして取り持ってあげたいわね。まずはスズネちゃんが大人の女性だってことを分からせるべき? あ、ちゃん付けで呼んじゃってるけどいいかしら?」
「あ、はい。あたしのほうが年下ですし」
いやいや、あなたのほうがはるかに年上でしょ。
「あたし、16歳です」
年下だった。
「……え? 160歳の間違いじゃなくて?」
「桁一個下です。16です」
うわぁ。300歳超えのダンさんじゃ、そりゃあ子どもに思えちゃうわけだ。
納得した。
ていうかむしろロリコンて言われてない?
「それで、あの……ミドリ様」
「様とかいらないわ。敬語も」
「そういうわけには……あっ、じゃあ『お姉さま』って呼んでいいですか?!」
かわいい女の子にそんなお願いされました。
OKするしかない。
「もちろん。よし、せっかくだわ、今回のお祭りを利用してダンさんに色々自覚してもらいましょう!」
「うん、俺もそう思ったんだけどアイデアなくてさ」
ああ、それで寄ったの。
「お祭りって今までもやってたんでしょ? どんな内容?」
聞けば、国内でもけっこう大きな街ぐるみのものだそうだ。お祭りっていうかフェスレベル。元は収穫祭だったらしく、飲食店が相当出て農作物販売も盛況。
「飲食店がたくさん出るならグルメコンテストやれば?」
「グルメコンテスト?」
「食べた人の投票で順位を決めるの。ほら、それならスズネちゃんとこ参加できるし、改めて料理上手なところもアピールできる。上位獲ればダンさんだって『あ、この嫁ほんと手放していいんかな』とかならない?」
「さすがお姉さま!」
ぱっと顔を輝かせる猫娘。
「……どうかな~……スズネは今だって王都で一番人気の店のシェフだよ」
「壇上に登って拍手うければ、いくら何でも実感するでしょ」
「うんまぁ、やらないより何でもやってみるほうがいいか」
そうそう、あれこれやってみすことが大事。
「ただ、飲食部門強化するとなるとゴミ問題が頭痛いな。今ですら問題視されてるのに」
「マイ箸・マイバッグ持参を呼びかけたら? 持ってきた人には10円引きとか。これ実際やってるとこ結構あるの」
「へえ? 自分で食器持ってくるのか」
「少し前に周知のためのキャンペーンとしてマイバッグ作りやればいいわ。私がやるわよ。いらない傘の生地部分を使ってバッグ作る体験イベント」
「傘なんてめったに使わないよ」
はい?
なんと、アンジェ族は超能力が使えるため、雨天でも傘を使わないそうだ。サイコキネシスでバリアを張ってしまう。
傘を使うのは車を使うのと同じ、他種族か力が弱い子ども・高齢者のみ。
うわー、雨の日でも傘入らずとか、超便利~。
「ある程度の年齢のアンジェ族で傘使ってると、それくらいのサイコキネシスも使えないってことでバカにされるんだよ。排他的なアンジェ族の人は他種族の人相手でもそれ理由に暴言吐くケースもある」
「ええええ。何それ。アホらし、そんなことで。別に傘くらいさしたっていいじゃない。……そういえばお店で見たけど、傘のデザインかわいくなかったな」
モノトーンや単色ばかり。あれじゃ気分も上がらないってものだ。
「あれが原因なとこもあるわよ絶対。もっとセンスいい柄にすればいいのに」
「手配しとこうか。生地のデザインやってる知り合いがいるから。たぶん使用モデルやってって言われると思うけどいい? ミドリは他種族出身で俺の妃だから宣伝効果抜群」
「私はあんたのお妃じゃない。それはともかく販促の写真撮影くらい協力するわよ」
スマホいじる王子殿下にしっかり否定するのは忘れない。
「傘の生地使ったバッグ作りキャンペーンも準備しとく」
「こういう時は頼りになるわ。って、ずいぶんやる気ね」
「だってミドリの過去作に相合傘っての載ってたじゃないか」
私は盛大にテーブルにつっぷした。ガン!と大きな音がする。
おでこ痛い。
読んだのか。
こっちに来てから私は小説書いてない。てことは、昔書いてネット上にアップしたものが音漏れして女王が製本したやつってことだ。
羞恥で死にたくなるわ!
「黒歴史を持ち出すなー!」
こいつに読まれてたとかマジ勘弁。
天子様はうっとりしてうなずいてる。
「いやぁ、あれ新鮮だった。なにせ傘なんてささないからあの発想はなかった。いいよな、密着できるしラブラブぶりアピールできるし」
「あんたとは絶対やらないわよ?! 傘使う必要ないんでしょうがっ!」
「えー、ミドリ、もう撮影承諾したじゃん。差別なくすためにもさ、一応王子の俺も映ったほうがよくない?」
私の顔色は悪化の一途。
承諾するんじゃなかったと思っても後の祭り。
「スズネもダンにやってもらえるし、ナイスアイデアじゃん」
「そうよ、スズネちゃんとか私の他にも他種族はいるじゃないの。そういう人にモデル代わってもらって。で、えーと、何の話だっけ。ああそうか、ゴミ問題? テイクアウトにするとどうしても発生するわよね。あとは……ゴミ箱そのものを、そこに捨てたくなるような形状にするとか?」
ササッとラフ画を描いてみる。
こっちの世界じゃ動物モチーフにすると問題あるかもしれないんで避けて……ロボットなら問題ないかな?
「機械じかけにして、ゴミ捨てると例えば面白い動きしたり、『ご協力ありがとう』とか音声鳴るようにしたり」
「なるほど。面白い・うれしいことなら率先してやりたがる人間の心理を利用するわけか」
「うん」
強制されると人間嫌なもの。自発的にやる気を起こさせたほうが効率的でしょ。北風と太陽の論理よ。
あれ、スズナちゃんが静かだなと思って見れば、うれしそうに口元覆ってる。
相合傘の想像でもしたのかな。そこの変人と違って純情可憐な乙女の笑み。かわいらしい。
恋する十代の乙女ってまぶしいわ。私にはもうああいう若さはない。
……まぶしい?
まぶしいの反対は、暗い。
暗いといえば。
連想ゲームみたいにして思いついた。
「ルーク。遊園地建設予定地の一部って昔炭鉱だったって言ってたわよね」
「大昔ね。閉鎖されてから相当経つよ。価値なくなって持てあまされてたの俺が買い取って、掘りまくられて破壊された自然を元に戻したんだ」
「トンネルは残ってるんでしょ? だったらそれ一部でも利用して地下にジェットコースター作ればいいのよ!」
パンと手を打った。
そう、何も地上に作らなきゃいけないわけじゃない。実際地下に作られたのあるじゃないか。
「アンジェ族は乗り物に乗る習慣がなく、普通の絶叫系じゃ面白くない問題もこれなら解決できる。暗闇だったら? しかも空の上に住んでて『地下』ってのは新鮮でしょ?」
そういえばアンジェ族の建物に地階はない。車を使わないから地下駐車場を作る必要がなく、駐車場も駐輪場も不要ということはその分スペース使えるわけで、食品売り場も地下に回さなくていい。
国内在住のアンジェ族にとって『地面の下に行く』という行為は一度もやったことがない人が多いはずだ。せいぜい旅行中くらいのものだろう。
「地下か! 考えもしなかったなー。確かに下層に住む種族に中には地底で暮らしてるのもいるけど、俺たちはやったことないから思いつきもしなかった。さすが俺のミューズ!」
「私は女神様じゃない」
条件反射で速攻否定。
「ああでも、アンジェ族の中には暗闇でも目が見える種がいるって老先生が言ってたっけ」
「ごく一部、フクロウの性質持つ種だけだよ。そんな多くないな。ほとんどのアンジェ族の目は暗闇だと普通の人間レベル」
「よし。スズネちゃんが『暗い速い恐いキャー』ってダンさんにしがみつけるわ」
「さすがですお姉さま!」
スズネちゃんの尻尾がぴこぴこうれしそうに揺れる。
あああ、その尻尾なでていですか。
ついわきわきしようになる手を必死で止める。
「スズネはマオ族の血のおかげで、暗闇でも見えるよ。恐くないと思う」
「普通の暗闇ならね。ホラー系の絶叫マシンにすればいいのよ。お化け屋敷の中をジェットコースターで走る感じ」
「ああ、そっか。うん、それで作ってみよう」
親友のために奇人殿下もやる気なようだ。
なんとか絶叫系の問題点が一つ解決。この調子でがんばろう!