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成功者倶楽部  作者: ララダ タカハシ
8/22

8話

『今日は1時間くらい遅れます』


 僕の携帯に藤さんから連絡があった。

 つまり委員会室にいるのは男子3人。


 今日は週に1回の『成功者倶楽部』の活動日。

 特に今回の活動に関してテーマや予定は何も決まっていなかったし、藤さんも遅れるということで僕らは手持無沙汰で、ただ椅子に座っていた。


「どうだ? 琉飯(るはん)。俺の髪型は」


 唐突に、だが覚悟を決めたように、言葉を絞り出したのは斎藤大介。

 彼が見ているのは僕の顔ではなく、上履きを見ている。

 緊張しているのだろう。

 

 ――そう、彼は髪型を変えたのだ。

 女子でもないのに、髪型を変えたくらいでそんなにうろたえるのかという疑問を抱かざるを得ないが、気持ちは痛いくらい分かる。

僕は彼側の人間なのだから。

 髪型を変えたが(しかも本人的には大きく変えた)、それを誰にも触れられない。

 その時の気持ちを僕は知っている。


当然、僕らは髪型を変えて「よくなったね」というレスポンスを待っている。

だが、その反応がない時に感じる不安。

変えた結果が良かったのか、悪かったのか、それ以前の誰にも気づかれていないのではないか? という疑心暗鬼。

そして、やめておけば良いのに、反応がない場合は自ら動いてでも反応を求めようという願望を抑えられないのが僕ら弱い人間だ。


「ん? 髪型? ああ、結構切ったんだな」


 大介はボッサボッサの長髪天然パーマだった髪を整え、男らしいワイルドさを残しつつ、清潔さも感じられるパーマをかけていた。

 また最近は眉毛も整えており、元々悪い顔立ちではなかったこともあり、僕から見ても大介は格好よくなっていた。

 だけど、まだまだ未熟な男だ。

見た目は良くなっても、中身はまだ敗者思想に支配されている。

自ら容姿の変化の是非を問うてしまうとは。

 


そして、仲間の良い変化を素直に喜べない僕はもっと未熟な男だ。



「おー、大介君髪切ってめちゃくちゃカッコよくなったね!」

 

 甲高い声に思わず振り向く。

ドアを開け、委員会室に入ってきたのは『成功者倶楽部』の紅一点の藤絢子。


「あ、ありがとう。ん……、藤さんも何かいつもと違うか?」

 

 大介が僕の疑問を代弁してくれる。

 先週から藤さんは眼鏡を外し、三つ編みもやめていた。

 だが、今日の藤さんは確かにいつもと違う。

 雰囲気とかではない。顔が違う。


「実は私ね。この前メイクが勉強できるところに行ってきたんだ。そこで色々メイクのやり方とか、どういう化粧品を使えばよいか教えてもらってね。でも学校でばっちりメイクしたのは初めてなんだ。やっぱり恥ずかしくて。だから、放課後トイレでメイクしていたから遅れたんだよね」

 一重瞼でいつもほぼスッピンメイクだったこともあり、藤さんは別人とまではいかないが、可愛くなっていた。

 髪も切って、肩までのショートカットになっていて、根暗な眼鏡女のイメージは完全になくなっていた。

「努力して容姿がよくなるなら、もっと早く頑張るべきだったなぁって今は思うよ。特に容姿とかは生まれた時点で無理ゲーって勝手に思い込んでいたし」


 藤さん、大介は変わろうとしている。

 容姿に関してヨシマロは元々美形で、そこでマイナスはない。

 あいつのマイナスは別の部分に多々ある。


 僕は彼らにすら負けるのか?

 そして、更なる劣等感に苛まれるのか?

 負けられない。

 負けたくない。


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