7話
目標達成にはそれ相応のモチベーションが必要だ。
何故努力するのか、頑張らなくてはいけないのか。
そしてそれはよりシンプルで本能的なものに準ずるのが望ましい。
僕にとってそれは恋だった。
倉橋 凛。
クラスの中で目立つ存在では決してない。
ただその育ちの良さや気品はちょっとした仕草や言葉から伺い知ることができる。
サラリとした美しい黒髪の後ろ姿を僕はいつも教室の隅から眺めていた。
僕は彼女に恋をしていた。
彼女と少しでもお近づきになるために僕に必要なもの、そして足りないもの。
間違いなく倉橋さんにとって今の僕の好感度は地に近いものであるのは想像できる。
クラスメートの一人。そんなものだろう。
それは僕の魅力・知識・体力・優しさのパラメーターが低いからに他ならない。
だから、これらのパラメーターを高くしていくことと、彼女とのイベントを積極的にこなすことが恋人というゴールに近づく最短ルートなのだ。
4つのルートの中で現在最も高いというかマシと言えるのは「知識」だろうか。
だが、その知識も学力というかトリビアのようなものに近い。
中学の時はクラスのヒエラルヒーの底辺にいた僕だったが学力だけは上位にいて、勉強のできない連中を内心見下すことで心の平安を保つことができていた。
しかし、高校に学力で進学するとその構造も崩れる。
唯一、自慢だった知識、学力ですら周りと並び、僕に彼らと戦える武器はなくなってしまったのだ。
そして、いつのまにか堕落し、自分に自信を完全になくしてしまったのが高校2年の現在。
高校という新たなふるいにかけられ、落下する寸前。
だけど、まだ落ちていない、落ちていないはずだ。
僕はまだここから這い上がる。
その為にはまずは学力だ。
学力を上げ、尊厳を取り戻す。
窓際の最後尾からクラスを見回す。
そこからすでに学力競争の中間結果が分かる。
真面目に授業を受けている人、授業のレベルが低いと感じ、塾の宿題に手を付けている人、付いていけず机に突っ伏して寝ている人。
倉橋さんは真面目な才女なので、しっかりとノートをとっている。
これまでの僕なら白旗をあげ、机に突っ伏し居眠りをするところだが、
我慢し、ペンを握る。
必死に授業に食いつき、分からないところは質問する。
その日の授業は全て終了。
脳内に華やかな効果音とともに知識+2のテロップが浮かんだ。