6話
洗面所の鏡を見つめている。
文字通り自分との会話をするのである。
『定期的に鏡を見て、自分とコミュニケーションをとる時間を取るべし』
何かの本で書いてあったのを思い出したのだ。
「スタイリッシュでカッコいい男か……。具体的にどんな男なんだ? 僕はスタイリッシュなのか?」
鏡に映るのは猿顔の冴えない男。
今日の『成功者倶楽部』での藤さんからの宿題を思い出す。
なりたい自分のイメージを具体化させること。
スタイリッシュでカッコいい…。
言葉で言うのは簡単だ。
だが、そんな男にどうやったら僕はなれる?
どうやって目指せばいい?
鏡の向こうの猿は何も答えてくれない。
「今の僕はまだまだカッコいい男ではない。それは認める。でも、逆に考える。どうして僕はカッコよくないんだ?」
何気なく呟かれた疑問。
だが、それはヒントにもなりそうだった。
「魅力がないから? 勉強ができないから? スポーツができないから?」
鏡の自分に向けられた言葉。
その刹那、僕は衝撃的な事実に気が付いた。
もしかしたらこの現実もゲームとそこまで大きくは変わらないのかもしれない。
自慢ではないが、僕はこれまでの人生でいくつもの恋愛シミュレーションゲームを遊んできた。
魅力的なキャラクター達の好感度を上げるために必要なのは2つ。
「適切な選択」と「好感度パラメーターを上げること」の2つだ。
そして、僕が注目したのは「好感度パラメーターを上げること」だ。
つまり、僕がカッコよくない理由はシンプル。
「好感度パラメーターが低いから」である。
カッコいい男・モテる男というのはクールでユーモアがあり、運動神経がよく、博学で、優しい男のことで、カッコいい男は今言ったポイントを外していないことが必須、またそれらのパラメーターが高いことが求められる……!
カッコいい男の条件をパラメーター化して、それらを日々意識して高める!
パラメーターは全部で4つ。
①魅力
②知識
③体力
④優しさ
無性に自分は天才なのではないかという感覚が体を走る。
効率的に自分を鍛える画期的な発明…そんな気がする。
これらの項目を考慮して、なりたい自分のイメージを具体化できるように宣誓文を作ろう。
僕は鏡の前で息を吸い込み、
「僕、佐渡琉飯は高校2年生の間に必ず誰もが認める成功者になり、学年一位の成績を取り、12月のマラソン大会では上位に入選し、そして――彼女を作る! その為に日々、魅力・知識・体力・優しさのパラメーターを高めるためにどんな努力も厭わないことをここに誓います!」
力いっぱい叫んだ。
思いっきり藤さんの宣誓文のパクリであり、しかも目標も低俗ではあるが、今の僕が立てられる目標としては及第点は与えられるだろう。
「あぁ……頑張れよ」
鏡の向こう側で苦虫を潰したような顔をしている兄がいた。
ちょっとしたホラーである。