3話
「じゃあ、今日はここまでにしよっか。来週の委員会から本格的に『成功者倶楽部』の活動を始めていこう。各自、成功者になるためのアイデアや情報をまとめておいてね」
そう言うとさっさと荷物をまとめて満足げに藤さんは帰っていった。
残された僕らはしばらく無言でいたが、「俺も帰る」というヨシマロの言葉が引き金となり、帰り支度を始めた。
自宅までの帰り道。
僕はどうしたものかと頭を悩ませる。
成功者になるためのアイデア?
そんなものがあるならとっくに実践している。
「ただいま」
居間のソファーに座り、テレビを見ていた兄銭吉に声をかける。
「おう、お帰り」
「兄貴はいいよな、優秀で」
「なんだよ、藪から棒に」
怪訝な顔で振り返る兄をまじまじと見つめる。
僕より8つも年上の兄は既に社会人で大手銀行に就職している。
身長はスラリと高く、学業も優秀。スポーツではバドミントンで全国大会にも出場している正に文武両道の男だ。
おまけに長年付き合っている美人の彼女とは近々結婚しようという話まで出ているらしく公私とも順調らしい。
最も身近にいる成功者だ。
「兄貴は誰もが認める成功者だよね。羨ましいよ」
「はぁ? そりゃあ、高校生のお前からすれば成功者にも見えるのかもしれんが、まだまだだよ、俺なんて。まだ、社会人として何も為していない」
「やめろよ、謙遜なんて。逆に惨めになるよ。兄貴が成功者じゃないなら僕は何なんだよ。ゴミ以下じゃないか」
自虐的な言葉が次々と口から零れる。負け犬根性が骨の髄まで染み込んでいるのだろう。
「本当になんかあったのか? 琉飯」
「別に何もないよ。ただ兄貴を見て急に羨ましくなっただけだよ」
「でもさ、別に俺はそういう羨ましいとか、憧れとか、時には妬みだって必要だって思うぞ。それが努力しようってモチベーションになる」
「僕の妬みのモチベーション誰よりも強いよ」
「そうかもな」
兄は苦笑しながら立ち上がると、僕の正面に立つ。
「何があったのかは知らないが、お前は変わりたいって思っているんだよな。ただ、どう変わりたいのか、何になりたいのかが形になっていない――違うか?」
「ん………」
核心だったのだと思う。
僕の声は形にならなかった。
「まずは自分がどうなりたいのか、どうありたいのかをよーく考えてみろよ。別に近い未来だって構わない。はっきりとした目標を描けたやつだけが努力を続けられるんだと俺は思う」
どうなりたいのか、どうありたいのか。
成功者になりたい。
藤さんの言葉に惹かれ、僕もそう思った。
だけど、成功者ってなんだ?
どういう人間が成功者なんだ?
まずはそこを考えろってことか。
「ありがとう、兄貴。少しすっきりした」
「ああ。頑張れよ」
兄は僕の肩をポンと叩くと、またソファーに戻っていった。