2話
「一人だけの意志の力じゃ成功はできない。私達は互いに互いを高めあう仲間になろう!」
整備委員の紅一点、おさげ頭の眼鏡っ子は瞳に妙な光をギラギラと宿しながら、声高らかに叫んだ。
僕はそんな藤綾子さんをまっすぐ見ることができずに、床に視線を落とす。
「多分、小学校の高学年頃から変なモヤモヤとした違和感があったと思う」
「え?」
落差のある低い藤さんの声に驚く。
「もっと小さい頃はこんな私でもワガママが言えた。無条件に私を認めてくれる家族がいたし、近所の人達も幼女ってことで笑顔を向けてくれていた」
「幼女って言うな」
「多分覚えていないだけでみんなそうだったんだと思う。
でも、小学校の高学年頃になると状況は変わる。私はこれまでと同じようにワガママを言えなくなった。いや、言おうとしたことも言ったこともあったんだと思うけど、多分それが通用しなかった」
「……」
「それは上がいたから。
私の意志を、意見を、力で潰す連中が現れた。そいつらは私よりも顔がよかった、運動神経がよかった、楽しい冗談が言えた、腕力があった」
「……うん」
「競争が始まったんだよね。この時から。その戦い、何の戦いなのかな?
わからないけど、上か下かを決める戦いなのかも」
「まだ、終わってないよな。その戦いは」
大介がボソッと言った。
多分、ヨシマロも同じ気持ちだろう。
「ずぅーーと続く。
大学受験、就職活動、婚活活動、出世競争、子供優劣競争、孫自慢競争……死ぬまで続くよ。
だから、勝たなくちゃいけない。勝たないとこのモヤモヤは消えない」
「そのモヤモヤって嫉妬とか劣等感なんだろうな」
僕は自分も持っているだろうモヤモヤに目を向ける。
イケメンでモテるクラスのあいつ、長身で運動神経抜群のあいつ、全国模試でもトップクラスになる秀才のあいつ。
僕があいつらに感じているモヤモヤ。
モヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤ。
「モヤモヤを晴らすためにも成功しなくちゃいけいないわけ。どう私たち協力しない?」
僕は大介とヨシマロを見る。
こいつらも彼らなりのいろんな劣等感を持ちながら日々を過ごしているのだろう。
何かを思い返すような、しかし覚悟を決めたような目をしている。
「具体的にはどうするわけ?」
「この整備委員会の活動日を成功の為の活動日にしよう」
「うん」
男子3人衆が同時に頷く。
「成功者倶楽部結成だね」
藤さんは少し照れながら言った。