Episode:02
たったそれだけしか経っていないのに、あたしの生活は激変した。戦場にいたことが夢だったようにも思える。
身内と離れたのも初めてだ。もっとも他のシュマー家の子供は、たいてい生まれた直後から親と別に暮らしてるから、あたしはかなり甘いのだけど。
ただ確かに生活は平穏になったけど、その分カンが鈍ってしまいそうで、けっきょく毎日訓練施設に入り浸って、太刀を振りまわしてる。しかも校舎裏の訓練施設を禁止――これ以上魔獣を退治するな、だそうだ――されて、訓練島まで出るハメになっていた。
まぁこの方が、思いっきりやれていいんだけど……。
どっちにしても上級生になって、また戦場へ出るまであと最低四年、よほど気合を入れておかないとボケてしまいそうだ。
「なに見てんのさ」
「え?」
シーモアに訊かれて、はっと我に返る。考え事に熱中してて、かなりぼうっとしてたみたいだ。
――戦場だったら死んでるな。
自分に呆れてしまう。たった半年でこの調子だから、先が思いやられた。
「なんか面白いもんでも、あったかのい?」
「何見てたか、よくわかんない……」
「聞くんじゃなかった」
シーモアが処置ナシ、って顔で肩をすくめる。
「まったくあんた、変わってて面白いよ」
「どういう……意味?」
「そのまんまさ」
そのままってつまり、あたしが普通と違うから面白いっていうことなんだろうけど……。でもあたしってそんなに、変わってるんだろうか?
――たしかに戦場育ちの分、そのへんは極端だろうけど。
そんなことを思っているうちに窓の外は、本土がだんだん大きくなってきて、砂浜が見えてきた。
「ここ、きれい……」
「ああ。夏なんかこの海、泳ぐのにサイコウだよ」
「こんなとこで?」
世間って、案外ヒマなのかもしれない。
でもそういえば、あたしは終わってから中途入学したからやってないのだけど、年間のカリキュラムの中に水泳が入っていた。
思ってた以上に、シエラはのんびりしてるらしい。
――MeSがこんなふうで、いいんだろうか?
まさかシエラへ来る前は、MeSがこんなのんきなところだなんて、思わなかった。命のやりとりをしないで済むぶん戦場よりマシ、なくらいだと想像してたから。
でも、来てよかったと思う。
こんなふうに友だちと街へ出るなんて、一生縁がないと思ってた。だいいち友だちが出来るとさえ、あたしは思ってなかった。
きっと死ぬまで、あの戦場でだけ過ごすとばかり……。
急に涙があふれてくる。
「ほら、ルーフェイア着くよ……ってゴメン、あたしなんか言っちゃったかな?」
「ううん、違う、違うの。
あたしこんなふうに、友達と出歩けるようになるなんて、思ってなかった……」
涙を拭きながら、慌てて説明する。
聞いたシーモアが、ちょっと複雑な表情をした。
「ばーか。行くよ」
それだけ言って歩き出した彼女の背を、あたしは慌てて追いかけた。
◇ご質問への回答◇
システムの都合上、直接返信できませんでしたので、こちらで。
ルーフェイアの太刀について、第1作ではタシュア先輩からもらった、第2〜4作では兄の形見となっている、との指摘メッセージを頂きました。
はい、そのとおりです。というのは第1作で出てきた太刀と、第2〜第4作で出てきている太刀は、別物のためです。
この件については少し先の話で、なぜ変わったのか出てきますので、申しわけありませんがお待ちください。
ご質問、ありがとうございました。