Episode:14
「そのとき、始祖メイアは亡くなって……その子供たちが、シュマー家を作ったの。
――いつか帰りし神を、倒すために」
「なんか、やたら壮大な話だな。
けど、ずっと昔のことだろ? どうだっていいんじゃねぇのか?」
イマドの言葉に首を振る。
「ううん、違うの。昔のことじゃ、ないの……」
シュマー家にとってこの話は、「昔のこと」じゃない。
「“神”は封じられただけ。だから今も……復活のチャンスを狙ってる。
そしてシュマー家には、稀に産まれるの。始祖メイアと同じ――ううん、それ以上の力を持った、子供が」
「――それがお前ってワケか」
何も言えなくなってしまったあたしを見て、イマドがひとつ、ため息をつく。
「じゃぁ……学院なんか連れてきちまって、悪かったな。昼間のヤツも言ってたけどお前、自分ちだったら大事にされそうだし。
――帰ったほうが、いいんじゃないのか?」
「それはイヤ」
自分でも驚くくらい間髪いれずに、答えてしまった。
「なんでだ?」
不思議そうな顔で、イマドが聞く。
「だって、特別扱い……されるから」
いきなり彼がお腹を抱えて笑い出した。
「――はは、あはは、ははっ、お、お前らしいや」
「そんなに……笑わなくたって……」
なんだか妙に悔しい。
「いや、悪りぃ悪りぃ。でもよ、普通は特別扱いされたくて、みんないろいろやるんだぜ?
それをお前ときたら、あっさりヤダって言い切るから」
イマドはまだ笑い転げてる。
「みんなはそうでも、あたしはいや……」
つい、いろいろなことを思い出して悲しくなる。
あたしは……普通がよかった。
普通の女の子みたいにとまでは言わない。でもせめて、他のシュマーの子供たちと同じくらいでいたかった。
けどそれは、到底ムリな話で……。
三歳の時に「グレイス」の名を継ぐ――始祖とあたしを含めても七人しかいない――と分かってから、ずっとあたしは特別扱いだった。
次期総領の座を得、絶大な権力を得て……もしあたしが死ねと言えば、うちの人間はためらわずに自殺するだろう。
総勢で数百人にのぼるシュマー家。
そしてそこから分かれて、後方支援的なことや様々な研究をするようになった、ロシュマー家の数万人。
それだけの人間の命運が、あたしみたいな小娘の手に握られてしまっている。
こんな、右も左も分からないような小娘に。