Episode:13
「いい、の……?」
「いいって」
その瞬間――あたしの中で何かが、ふっと軽くなる。
ずっと辛かった。
父さんや母さんと一緒だったころと違って、誰もあたしの本当の姿を知らなくて、でもそれを知られないように隠して……。
こぼれる涙が止まらない。
「あたし……シュマー家の、次期総領なの……」
「――なるほど」
なんだかあっさりとイマドが納得した。
「これだけで、分かるの……?」
「いや、わかんねぇけど。でもよ、よーするにそゆ立場なんだろ?」
いい加減と言えばいい加減だけど、イマドなりに理解はしているらしい。
あたしはひとつ息を吸って、話し出した。
「うちの家、ふつうは『次期総領』はいないの。
けどあたしは……グレイスの名前を持ってるから、特別で……」
うちの家でこれを名乗るのは、あたし一人だ。逆に言えばそれだけ、この「グレイス」という名前には重さがあるということになる。
もともとの由来は、家の始祖メイア=グレイスから来ていた。
遠い昔、まだ人が神と争っていたころ――彼女は神を封じたのだという。
「あれ、それって言い伝えと違わねぇか?」
「うん、少し違う」
一般に伝えられている伝説では、神は封じられたんじゃなくて、「逃げた」ってことになってる。
「魔法の力を手に入れた人間は、軍を組織して天へ攻め込んで……」
「けど、居なかったんだよな」
「うん」
世界を創りなおすという神に、人は逆らった。門をくぐり天へ攻め込み、それを見た神は、地上を予定より早く焼き払った。
同時に神は天界に怪物を大量に放ち、人間を襲わせた。一瞬にして人々はパニックに陥り、散り散りになって地上へと逃げ戻ったという。
それでも戦い慣れたごく少数は、天の城へ攻め入り玉座までたどり着いたが、そこに神の姿はなかった。
「だから、逃げたんじゃないか、って話だろ」
イマドの言うとおりだ。
そのあと、人は天界から魔獣に追われて逃げ戻り、焼かれてさらに貧しくなった大地のせいで、互いに争うようになった。
そして消えた神は、いまもどこかに潜んでいるのかもしれない。そう伝説は締めくくっている。
「ただ、うちじゃ、そこが違うの」
「えーっとつまり、シュマーじゃそのメイアとやらが、封じたってなってるワケか?」
考えながら言う彼に、うなずく。
そして、続けた。