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Pseudo World  作者: 織田 伊央華
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第2章「斥候」

第2章「斥候」

2054・10・21 水曜日 22:03 首都第二東京都

 きらびやかなネオンが灯る第二東京都。そのある一画に存在する大きな建物の中を一人の男が歩いていた。閉館時間を過ぎ、建物のほとんどは非常灯以外の明かりは見えない。

 月明かりだけに照らされた廊下を歩く男は少し古びたスーツに身を通している。顔には複数の皴と所々に傷痕が見え、しっかりとした瞳からは年相応の貫録を醸し出している。

 しばらく廊下を歩いた男はある廊下のドアの前で止まった。視線の先のドアからは細長く光が伸びている。それを確認した男は右手を伸ばし、ドアをノックする。乾いた音がした後しばらくして中から声が聞こえた。

「どうぞ」

 その声を聴いた男はドアの前で軽く会釈するとドアを開いて中に入った。

「夜分遅くに失礼します。計測結果が出ました」

 男が入った部屋は先ほど通った廊下とはうってかわり、様々な装飾に目を奪われる。床に敷き詰められた絨毯はペルシャ絨毯のような気品のある模様をしており、洋を基調とした部屋の中にも微かな和を感じる作りだ。そんな部屋の中央の窓際には書類を山のように積んだ机が一つある。

「局長、先ほど測量部から最新の計測結果が届きました」

 机の前まで来た男は書類の山の向こう側に声をかける。すると男の言葉に反応するかのように山が動いた。様々な言語で書かれた書類の山をかき分けるようにして疲れた瞳が姿を現した。光のない瞳からは疲労が見える。

「・・・で、結果はどうなんだい?」

 局長はゆっくりと体を起こしながら抑揚のないかすれ声で男に尋ねる。

「はい。我々の予想通り、最悪のシナリオに沿って進行しています。このまま行くと最低でも1月後には大規模な侵攻が行われると予想されます」

 書類を片手に淡々と読み上げる男の表情はかすかにだが曇った。

「・・・そうだな。具体的な策を講じなければならないが、困ったことに政府は我々の話に耳を傾けてはくれない」

 そう言うと古びたスーツの皴を伸ばそうともせず、背筋を伸ばしながら椅子の背もたれに寄りかかる。そして机の片端にかろうじて乗っているカップに手を伸ばした。

「その件については以前より内務省と話し合っていますが、依然膠着状態から脱していません」

 カップを手に取り、コーヒーを無言で啜りながら話を聞いていた局長は深いため息をつく。

「内務省は相変わらずの堅物のようだな。まあ、そのために私がいるようなものなのだがな・・・」

 そう言うと局長は何時間ぶりかわからないほど久々に立ち上がり、背伸びをした。

「自衛隊も当てにできんとなると残る選択肢は限られる、か」

 そう独り言をつぶやきながら窓際に移動した局長の目は同年代の女性に比べ確かに老けてはいるものの力強い光を帯びていた。

「佐藤君、君はこれまで通り政府に掛け合ってくれ。それと櫃間君を呼び出して24時間以内に対策本部を設立、われわれの意地を見せようじゃないか」

 はっと敬礼をして足早に男が部屋を出ていった後、部屋に一人残った局長こと旧日本国防衛相長官、現独立防衛部局長の長澤ながさわ 好美よしみの顔には笑みが浮かんでいた。

「さて、久々の大仕事だね」

 そう呟くと携帯端末を取り出し、履歴の一番上の名前にコールする。

「夜分遅くに失礼するよ。・・・・ああ私だ。今日の件についてはすでに連絡は受けている・・・・ああ、そうだ。先ほど測量部から最新の測量結果が出てね・・・ああ。そこの計算だと少なくとも1月だそうだ。君には申し訳ないが手伝ってもらうよ・・・ああ、できるだけバッアップはさせてもらうよ。手始めにLPAの新作を10セットほどそちらに回してもらうように手配させよう。時間はないよ、早く彼らを鍛えてくれ」

 そこまで言った長澤は通話終了ボタンを押し、外の夜景に視線を向ける。高層ビルがなくなったとはいえ眠らない街は健在だ。そろそろ日付をまたぐ時間だというのに昼間並みの明るさに満ちている。

「頼んだよ」

 小さく呟く長澤の目には反射した光がまるで炎のようにゆらゆらと揺れていた。



2054・10・22 木曜日 7:21 私立武蔵野武術高等学校 射撃訓練場

早朝の霧がかかる演習場の一角から一定のリズムで射撃音が響く。

多目的射撃場。立体ホログラムの登場により野外や屋内の射撃訓練に革命的変化を起こした。従来では紙をメインとした射撃場だったがホログラムはコストの削減およびターゲットの自由化を可能にした。

両手にM119コルトガバメントの重さを感じながらユズキは荒い息を上げていた。視線の先にはスコアボードがある。スコアの点数は125060点。10分間で点数を競うスコアトライアル。これは次々とランダムに現れる敵をどれだけ多く倒せるかを競うものだ。ターゲットにはそれぞれポイントが設定されており、射撃した部位によっても細かく設定されている。

ユズキは空になったマガジンに次々と銃弾を込めながらスコアボードの一番上を見る。そこにはNoNameで556700点と一つだけとびぬけた数字が記録されていた。

「こんな化け物じみたスコア、いったい誰が出したのかしら。一週間くらい前まではこんなになかったのに・・・」

 そう言いながら次々と装填したマガジンをテーブルの上に並べていく。プラスチックマガジンが主流の現代においてもアルミやステンレス製のマガジンは根強い人気を誇っている。複数の弾倉を持ち歩く場合は重量を考え、プラスチックに変える者もいるが元々身軽なことを売りにしている傭兵にとっては大量の弾を持ち歩くことは少ないので好んで金属にする者も多い。

 ユズキもその一人だ。使用しているコルトガバメントは100年以上も前から製造されている拳銃だ。45口径の大口径の弾薬を使用するため装弾数が少なく、ユズキの場合はそれを補うため二丁携帯している。デフォルトで8発、薬室も含めても9発しか入らない。それに比べユリやカオルが持つベレッタやシグは約二倍の15発ほど装弾できる。

 ふとユズキは息を吐く。長くゆっくりと息を吐き出すと心が落ち着く。この深呼吸に近い行為が自然と落ち着くのだ。コッキングした状態のまま射撃場に入る。目に掛けるゴーグルにはReady?の文字が赤く点滅している。

「スタート」

 音声認識のスタートシステムがユズキの声を認識した直後前方の両サイドからオークに模した敵がホログラムで投影され、ユズキに襲い掛かる。その姿を視界の端で認識した瞬間ユズキはトリガーを引き絞っていた。大きな発砲音とマズルフラッシュ、そして少し遅れて鋭い反動が手に帰ってくる。

 廃ビルの屋内戦を想定したプログラムは100平方メートルほどの狭い屋内で行われるれる。ユズキは次々とランダムで出現するホログラムのオークに銃弾をめり込ませてゆく。

 10秒経過。ゴーグルのディスプレイに表示されるタイムボーは一刻一刻と時を刻んでいる。ユズキの足に自然と熱がこもる。空になったマガジンを引き出すように次のマガジンと交換させる。

「次っ!」

 自然と漏れた声には焦りが見える。突き出した右手で正面の二体を射撃。一体は胸部に、もう一体は頭部に直撃した。ユズキはその姿勢のまま左手を後ろに引き腰を低くする。サイトは使わない。感覚で撃て。自然と教官の声が頭の中でリピートする。ほぼ真後ろまで引いた状態で一発の発砲。その衝撃を全身で感じながらユズキはすでに次の標的に集中する。前方数メートルの位置の両側のドアに二体。そう思考した時にはすでに体が動ていた。先ほどの真後ろでの射撃の勢いを利用して一回転、前方受け身を取りながら両手をクロスさせる。ドアの前を通過する瞬間に同時に引き金を引く。

 加速していく感覚の中、ユズキは銃と自分の体が一体化していく感覚を感じた。考えるまえには次の動作に入る。非常に遅く感じる時間の流れを視界にとらえながらも次々に敵を排除していく。

 もっと速く、正確に。ユズキはそう念じる。その思いに反応してか、徐々にスピードを上げていく。

 ユズキは己が加速していく中、脳の奥でまるで火花が散るような感覚に襲われた。冷静に、ただそうなって行くにつれ痛みが増す。視界に移る景色はすべてがスローモーションのようにゆっくりと進んでいる。

 10分後、先ほどとは比べ物にならないほどの疲労感がユズキを襲っていた。加速していた思考でズキズキと頭痛がする。体はまるでフルマラソンでも走ったかのように汗でびっしょりと濡れており、呼吸も心拍数も激しい。

 はぁーと深く長い息を吐いたユズキはその場に座り込む。その時ユズキの耳に拍手の音が入り込んだ。音の主を確かめようと思い首を持ち上げたユズキの顔にふわりとやわらかいものがかぶさる。

「最後の方はすごかったね。すべての動作が流れるようだった。これじゃ俺の得意とする近接格闘戦では負けを認めざるを得ないね」

 そう言ったユズキにタオルを投げてよこしたのはカオルだった。いつごろから観戦していたのか驚いた顔をしている。

「そう・・だった?」

 荒い息を吐き出しながら尋ねるユズキにカオルは顎でスコアボードを指した。そこには赤で点滅する点数が記録されていた。495600点。歴代二位の点数だった。そんな点数を見たユズキはしばらくの間ぼーっとしていた。

「それにしてもこの点数はすごいな。俺も同型機でやったことがあるけどここまでの点数は出せなかったよ」

 そう言うカオルの表情は少し悔しそうに見えた。

「・・・ありがとう」

 疲労感をあらわにしながらもユズキは笑顔を見せる。そんな笑顔を見たカオルはどういたしましてと軽く返事をすると遠くでなる予鈴の音を聞いた。

「さて、そろそろ授業の時間だな。教室に戻ろう、遅れたら面倒だ」

 そう言いながらカオルはユズキに近づき手を差し出す。

「ありがとう」

 手を掴んで立ち上がったユズキの顔には元気が戻っていた。



 教室に戻ったカオルたちを待っていたのは過酷な時間割だった。通常の時間割であれば午前中はほとんど座学で一般教養の授業だが今日は特別カリキュラムが施行されている。

「これって・・・」

 不思議に思って声を上げようとした矢先、その意思をくみ取った担任の若い女教師が口を開いた。

「今日から数週間一般の授業はすべて休校となりました。」

 その言葉を聞いた瞬間クラスの雰囲気がガラッと変わった。

「まだ発表されてはいませんが近々大規模な侵攻があると予測されています。我々武蔵野武術高等学校には特別依頼が届きました。現状の緊急事態が回避されたと判断されるまでの間、傭兵業をこなし、一般市民を守ること。これがクライアント側からの指示です。しかしあなたたち2年生はまだ実戦経験が乏しいことから第一線での徴用はありませんが、場合によっては戦闘になる恐れがあります。気を引き締めて臨むように。以後0900をもって配布される作戦資料によって各班は行動するように。なお3班は0850までに03倉庫に集合との学園長からの指示が届いています。以上、解散」

 そう言うと担任は教室から出ていった。その瞬間教室は爆発したかのような大騒ぎとなった。

「あの担任が少し震えてるみたいに見えたぞ」

「ウソだろ、あいつってシベリア戦線にいたベテランだぞ」

「大規模な作戦なんて初めてだよ」

 などと口々に話している。

「ここに入学した時から覚悟はしてたんやけど、いざとなると震えてまうな」

 ユリは自分の両腕を抱きながら言った。

「まあ、俺は報酬の方が気になるけどな」

「それには同感ですね」

 実戦経験のある二人はユリと違い落ち着いている。そんな三人を見るユズキは頭を抱えた。昨日の一件のすぐ後の緊急事態。心境にはいささか悪い組み合わせだ。一応班員全員が実戦を経験したとはいえ、不安要素は山のようにある。このままの状態で実戦に挑めば結果は目に見えている。そう考え込むユズキに近づいてきたカオルが声をかける。

「まあ、対策はおいおい考えることにして、とりあえずは倉庫に行かないと」

 なし崩し的にカオルの言葉に救われた感のあるユズキは急ぎ足で倉庫へと向かった。

 学園に存在する5つの倉庫にはそれぞれ役割があり、移動用のバスや車、ヘリなどが保管されている第一倉庫。学園全体の備品を補完する第二倉庫。食料や様々な装備品の予備が保存されている第四倉庫。開発部のラボを兼任している第五倉庫。そして弾薬や装備品を保管している第三倉庫だ。

 火気厳禁のでかでかとしたマークを視界の一部に納めながら一行は薄暗い倉庫の中へと入って行った。

「いやいや、待っていましたよ、三班のみなさん」

 入ってそうそう声を掛けてきたのはピシッとスーツに身を包ませた白髪の老人だった。

「お待たせいたしました学園長」

 形式的な挨拶をしたユズキを初めとし、三班の面々は軽く会釈をする。

「いえいえ」

 笑顔で答える老人の笑顔からは特に不快な感覚は受けなかった。

「で用件はなんや?」

 若干空気の読めないユリが軽く学園長に尋ねる。

「ははっそうでした。いえいえ、皆さんをお呼びしたのは新装備のテストを兼ねて使用をしてもらおうと考えてましてね」

 そう言うと学園長は自分の後ろに手を向けた。その先に全員の視線が集まる。最初に発言したのは弾んだように興奮したアヤネだった。

「そ、それってLPA社の最新モデルの強化アーマーじゃないです

かっ!発売は年末になるって聞いていたんですけど、いったいどうして・・・」

 アヤネの説明で一同が納得する。というものの視線の先に置かれているのはバックパックよりも一回りほど小さな白い塊だった。

「まあ、入手の過程については割愛させていただきますが、これはとある方からの当校への援助と言う事です」

「時価数千万近い最新機種の強化アーマーを使用できるなんて夢のようですー」

 と興奮状態のアヤネをため息交じりで見ながらユズキはふと疑問に思う。視線の先にあるのは5つ。三班の人数とも合致する。しかし、とユズキは考える。こんな高価な装備が数多くあるわけがない。だとすると必然的に上級生の三年生の運用の方が理に適っているように思われる。

「どうやら、腑に落ちない点があるようですね」

 ユズキの考えを読んだのか、学園長が言う。

「まあ、もっともですが。」

 そう言うと学園長は歩き出した。

「これの譲渡の代わり、と言っては何ですがあなたたち三班には前線に出てもらいます」

 その言葉と同時にその場が凍るように一気に気温が下がったように感じる。

「・・・それはこれを受け取ると同時に、その命令が実行される、と言う事ですか?」

 確認の意味も込めてユズキが聞き返す。

「いえ、受け取らないとしても三班には前線に出てもらうつもりでしたよ。と言うのも知っての通り三年生は元から人数が少なく、クライアントの要望に応えるには難しいのです。ですので必然と二年生から補充しなければなりません。早朝の職員会議によってあなたたち三班は職員全員の賛成をもって決定しました。傭兵であるならばこれが持つ意味を理解できますね」

 学園長の瞳からは先ほどと変わり、強い力が感じられる。

「・・・了承した、と言う事でよろしいですね。では今後の仕事内容は各端末に送信させてもらいます。ああ、装備の方は開発者の方が来てますので、そちらの方で説明を聞いてくださいね」

 再び笑顔に戻った学園長の瞳は普通に戻っていた。

「はあ、」

 その変わり身の早さに多少狼狽しながらもユズキは返事を返すと、去ってゆく学園長の背中を見送った。


「やあ」

 しばらく告げられた衝撃にうつむいていた一同は突然の声に驚いた。

 声の主は細身で白衣を着た男だった。ぼさぼさの不ぞろいの長さに切られた髪に目の下のクマから数日は風呂に入っていないことが容易に想像できる。

 その男はよろよろと歩いてくるとふと視線をカオルに向けた。

「久しぶりだね」

 その言葉が自分に向けてだと理解したカオルは深いため息をついた。

「博士、あんたが地上に出てくるなんてな、今日は空から金でも降るかもしれないな」

 半分嫌味にも取れる返事。だが博士は涼しい顔で笑い返す。

「それだと国の金庫が潤って万歳なんだがね。調子はどうだい?」

「・・・まあ、上々で」

「それは何より」

 カオルの全身をじろじろと観察していた博士は軽くうなずくと他の者に視線を移す。

「やあ、初めまして。ボクはLPA社専属開発部顧問の三笠八雲と言うものだ」

 ほぼ無表情の自己紹介にいの一番に反応したのはアヤネだった。

「みっ、三笠博士っ!あの有名な三笠博士ですか!?」

 その場でボールのようにポンポン跳ねるアヤネを横目にユズキが誰?と首をかしげる。その返事はすぐにアヤネの口から飛び出した。

「三笠八雲博士は今まで技術的に不可能と言われていた強化アーマーの基礎理論の提唱者であり、人体医学、機械工学などあらゆる分野で博士号を取得。アメリカでは自立型の戦闘機の開発に成功。また義肢などをはじめとする医学分野へのロボット工学進出の第一貢献者ですよー!私たちが普段使っている簡易型強化アーマーも博士が基礎設計を行ったんですよっ」

 そこまで一気に喋ったアヤネの肩は大きく上下し、口からは荒い息を出している。

「・・・そこまで言ってくれると紹介が手短に済むな」

 ありがとうと軽くアヤネに礼をーアヤネはそれだけで気絶しかけてユリが急いで支えたーして腕を組む。

「今日から君たちの専属メカニック、とでも言っておこうか、になった三笠だ。まあボクの作品だからボク以外には調整できないんだけどね。だからこうして出てきたんだけど・・・」

 そこまで言った三笠は、なぜか徐々に顔色を悪くしていく。そして数秒後いきなり倒れた。

「「は?」」

 カオル以外の者の声が重なる。

「だから言わんこっちゃない・・・」

 そう短く毒付いたカオルは倒れた三笠を近くに座らせるとユズキたちに照明の高度を最低まで落とすように指示をする。なぜ?と疑問詞を頭に浮かべながらも指示通りに行動した班員たちの視線が自然とカオルと三笠に集まる。

 その視線を感じ取ったのかカオルが説明する。

「この人はな、常に地下で生活してんだ。人間には光合成は必要ないだとか言いながらな」

 ため息交じりに紡がれる言葉には疲れさえも覚えるものだった。

「だから久々に地上に出るとこんな感じなっちまう。さながら吸血鬼みたいな人なんだよ」

 カオルは再度深いため息を吐くと三笠に向きなおる。

「落ち着いたか?」

 その言葉にうつろな目で返事をした三笠はふらふらと立ち上がり、椅子のふちに捕まる。

「・・・太陽から発せられる様々な紫外線は細胞を破壊すると同時に・・」

「はいはい、それはいいから早く装備の説明をしてくれないか?」

 三笠の言葉を途中で中断させたカオルは憎しみのまなざしを正面から受けながらも平然と続ける。

「今回の強化アーマーって、結局今までのとどう違うんだ?」

 カオルの問いにコクコクといつの間にか気絶から復活していたアヤネが続く。

 最終的にカオルの押しに負けたのか、観念した様子の三笠は渋々―皆にはそう見えたーアーマーを手に取ると椅子に座った。そこで座るのかよっ、と言う突っ込みを無視した三笠は説明を始める。

「まあ、まだ試験運用段階なんだが君たちは強化アーマーをどのように理解しているかね?」

 先ほどの姿はどこへやら、いきなり先生のような口調になった三笠は問いかける。

「えーっと、筋力の全体的なサポート、衝撃の吸収、防弾、防刃とかですかね」

 問いに答えたのは今まで珍しく一言も話さなかったユウキだった。

「んー60点だ。」

 辛口で採点した三笠はいいか、と続ける。

「もともと強化アーマーの正式名称は強化外骨格だ。まあ、初期の型は防御の方に重点が置かれてたから重量が問題になったのは記憶に新しいと思う。そこでカーボナノチューブを織り込んだ人口繊維の隙間に人工筋肉を入れることで第二世代、言わば君たちがよく使っているスーツタイプのものが完成した」

 そこで一息ついた三笠の目はすでに科学者の目になっていた。

「だが、それには一つの欠点があった。それは・・」

「耐久性と筋力サポート能力の低下ですねっ!」

 三笠の言葉の続きを興奮気味のアヤネが受け取る。

「そうだ。まあ、体に密着させ、なるべく普段の服装と同等の可動範囲に持っていくことを念頭に開発されたのだから仕方がないのだが、それで生存率が低下しては意味がない。そこで今回開発したのはコレだ」

 そう言い、三笠は手に持っていた小さな鍋ほどの大きさの白い物体の背後に着くボタンを押した。その瞬間白い物体は一瞬でボディスーツに早変わりした。それを見た全員は唖然とする。

「これが今回開発した強化外骨格スミズリーだ。まあーネーミングについてはノーコメントで。おや、何か疑問のようだね」

 三笠が向ける視線の先にはユリがいた。

「なあ、どう見てもそのアーマー薄いんとちゃう?」

 それは皆が思うところだった。三笠の手からぶら下がる首から下のボディスーツは文字通り透けそうなくらいに薄かった。肩や腰などの局部にはすこし厚めの素材が使われているようだが先ほどの説明からは想像できないほどのものだ。

「まあ、皆が疑問に思うのもしょうがないな。んじゃ、試しに着てみてくれ。そうすればわかると思うよ」

 そう言って三笠はユウキにぽいっとスーツを投げてよこした。

「サイズは着た後に手首についてるスイッチを押すと自動的に調整されるから問題ないよ」

 そう言う三笠を半分訝しみながらもユウキは用意されていた更衣室に入って行く。

 しばらくして出てきたユウキは頭を残して全身白タイツのような状態だった。

「・・・・笑うなよ」

 そう言いながらすでにお腹を押さえているユリとユズキに牽制の視線を投げる。しかしすでに手遅れなことに気付き、うなだれる。

「さぁ、着たけどよ。何が変わっているんだよ」

 恥ずかしい姿のせいで半ギレ状態のユウキは怒鳴るように三笠に問う。その問いに三笠はゆっくり、しか丁寧に言葉をつなげる。

「なら、試しに」

 そう言った三笠の手にはいつの間にか拳銃が握られていた。Glock17 軍用問わず、多くの警察機関でも使用されてきた自動拳銃。9ミリパラベラム弾を379メートル毎秒で撃ち出す。

 皆が気付いた時にはすでに殺傷兵器の銃口がユウキに向けられ、引き金が引かれていた。

 かん高い発砲音が倉庫内に木霊する。

 銃口の先に立っているユウキは何が起きたのか理解できなかった。

 三笠の握る拳銃から亜音速のスピードで飛び出した鉛の塊は0.1秒以下でユウキの胸元に到着、回転する弾にねじ切られるように体にめり込む、その筈だった。

 しかし、銃弾は止まっていた。否、止められていた。薄いスーツのような強化アーマーによって。

「なっ」

 ユウキを含め、その場にいた全員が目の前の状況に目を見開く、ただ一人三笠八雲を除いて。

「どうだ?大した衝撃も感じなかっただろう?」

 そう自信に満ちた声で言う三笠は驚く顔に満足したのか軽く頷きながら話を続ける。

「この素材にはある特殊な加工がしてあってね。一点に受けた衝撃をその面から全方向に向かって拡散させるんだ。だから先ほどボクが撃った銃弾の衝撃をほとんど感じなかったんだよ」

 三笠の説明にあっけにとられる一同。三笠はその状態よしと思ったのかさらに続ける。

「さらに説明すると、そのスーツの全体のやく98パーセントに相当する素材に人工筋肉を加工した特殊繊維を織り込んでいる。君たちの肌を介して伝わる微弱な電気信号を読み取り、筋力のサポートを行う。まあ、計算上ならば重力が月並みになる、と説明した方がわかりやすいかな」

 いっそうわかりにくいわ、というユリの文句を無視した三笠は新しく手に取ったスーツを手に、さらにと付け足す。

「この首の部分には自己学習機能を内蔵したAIを積んでるんだ。戦闘を重ねるにつれて徐々に蓄積されたデータによってエネルギー配分など自動で判断してくれる」

 そこまで説明した三笠は微笑を浮かべながら端末を取り出す。

「とりあえず、君たちの仕事場には可能な限りまでついて行こうと思っているわけだが・・・まあ、正直なところ現場には行きたくないのだよ。君たちだって素人がうろうろすると迷惑だろう?」

 そう言う三笠の顔をまじまじと見つめる一同は軽く頷く。

「だから、と言うのもなんだけどこれもセットに付けといたよ」

 そう言って取り出したのはいつも使っているゴーグル、少なくとも全員にはそう見えた。アヤネを除いては。

「それは・・・LGOS社の最新モデルのゴーグルじゃないですかっ!」

 再び興奮モードに突入したアヤネは止まらない。

「最新のサーモセンサーを搭載、新規格の暗視モードを搭載した最高級モデルですよ。まだ軍にも卸されてないから初めて見ました」

 初めて、と言う割にはいつも通り詳しいアヤネは目を爛々と輝かせている。

「そうだね。追加で少しプログラムを入れといたから後で各自確認しておいてね」

 そう軽く言った三笠はふらふらとした足取りで倉庫を後にした。

 倉庫に残された3班はそれぞれに分かれ、自分の部屋へと向かった。

 

全寮制を持つ学校としては異例の個人部屋。それも一人暮らしには少しばかり広い部屋である。部屋にはトイレ、風呂をはじめ様々な生活用品がそろっている。21世紀後期に入って建築様式の固定化がすすめられ、低価格で様々なニーズに答えられるようになった。この寮の部屋も最初から様々な家具や間取りを選ぶことができ、その選択パターンは1000を超える。 

 そんな自室に戻ったユズキは着ていた制服を脱ぎながら深いため息をこぼす。

「実戦かぁ」

 ベッドに座ったユズキは手にした端末を見て、さらに深いため息をこぼす。手のひらサイズの小型の端末には次の仕事の詳細なデータが並んでいた。

「アメリカとロシアとの合同演習、か」

 全世界で同時に発生した大戦は当時世界最強を誇っていたアメリカや冷戦により軍事力の温存に全力を注いでいたロシアなどの強国に多大な損失を与えた。軍事物資の枯渇および、軍人の大量に失ったことによる軍部の弱小化。これによって起こったのが軍事バランスの崩壊だった。

 それから十数年。ある程度まで回復した各国は自国の強化に努めた。その中でも群を抜いて成長したのが民間軍事部門だ。アメリカの親会社を母体し、日本への進出、発展は著しいものがあった。ユズキが所属するこの学園もアメリカを母体にした弓月民間軍事会社が運営する施設の一つである。

 定期的に開催される合同演習は同じ会社、またはPMC(民間軍事会社)同士で行われ、社員の士気の向上と成長を目的に開催される。

「初参戦っていうのに上は随分と無茶な命令をしてくるわね・・・。まだ訓練生である私たちと本職の人たちとの演習だなんて」

 そう呟くユズキの顔は一層曇っていた。



2054・10・23 金曜日 08:50 旧東京都世田谷区世田谷城跡地

 更地に整地された世田谷城跡地のほぼ中心に複数のテントが見える。灰色の屋根をした簡易テントは薄くかかる霧に濡れていた。

 簡易テントの中にはテーブルが設置されており、複数台のモニターがケーブルによって接続されている。

「あと十分で開始時間だ。各員所定の位置についてくれ」

 そう言う大柄の男の頭には小型のインカムが見える。ファイアス支給の制服に袖を通す男の顔には多少の緊張が見える。

「各員配置につきました。各記録装置、異常なし。観測レーダー、オークの反応ありません」

 男の前に座るオペレーターが次々と読み上げる中、男はゆっくりと息を吸う。

「よし、では只今より三ヶ国合同演習を開始する。今回の演習は対人戦闘を目的としたものだ。使用武器はフリー、ただし重火器にはペイント弾、ナイフなどの刃物には切れないように特殊加工を施すこととする。各国対抗になる一回戦では相手のチーム全員を戦闘不能にすれば勝利とみなす。ただし過度の攻撃は処分対象となることを忘れぬように、以上」

 そこまで言った男はふと自分の腕時計に視線を落とす。

「では5分後に演習開始だ。各員の奮闘を祈る」

 そう言いインカムを外した男の横顔には何かの影が見えた。しかしそれを見たものは仮設本部にはいなかった。 



「ねえ、霧がだいぶ濃くない?」

日本側のスタート地点である世田谷駅北、旧世田谷区立城山小学校の教室にいたユズキたち三班は刻々と迫るスタート時間を装備の点検でつぶしていた。15年前当時のままに残されている教室には書きかけの文字のノートや、床に散乱する教科書類がある。当時のまま、そこだけ時間が止まっているように感じられた。

 確認し終えた自分の銃を腰のホルスターに戻したユズキは班員全員の顔を見る。

「これから戦う敵は第一線にいるプロよ。甘い考えでは絶対に勝てない」

 そういうユズキの顔にはみるみる緊張の色が出てくる。

「装備や自分におごらず、目の前の敵を殲滅することにすべてをかけて行動する。これが私たちにできる最善の策よ」

 重い空気の中、一同はユズキの言葉にうなずく。

 それを確認したユズキは、自分も一度大きく息を吸うと叫んだ。

「行きましょうっ!」

 その声と同時にゴーグルに表示される時間が09:00に変わった。



『まずは世田谷駅方面に移動しながらに3つに分かれるわ』

 新型の強化アーマーを下に着こみ、上から着た黒色の制服を揺らしながらユズキが言う。男子用の制服にはボタン類はなく、厚手の材料で構成されている。黒を基調とした色の中にも白や赤の細いラインを取り入れることでデザインを統一している。女子用の制服には短めのスカートのような口の広いズボンを取り入れ、露出した脚部は強化アーマーの記事に包まれている。

素早く説明するユズキの手にはすでにコルトガバメントが握られており、後ろを走る班員たちもすでに戦闘態勢に入っている。

『この濃い濃霧を利用してお互いの中間地点に当たる世田谷駅をなるべく早く確保、そしてその駅構内の構造を盾にしながら敵の個別撃破を狙うのか』

 一瞬でユズキの作戦を把握したカオルは視線を横のユウキに向ける。

『トラップは作れるか?』

『まあ、時間次第にもよるができるぞ』

『時間はないわよっ』

 

 数分ほどの時間で駅の正面の道路まで到達した一行はすぐに駅構内に入った。2020年に行った大規模な増改築により前後駅である上町と松陰神社前の二つの駅と合併。規模を数倍にまで拡大させた。今まで地上に出ていた線路は地下に収容され、今まで問題になっていた騒音問題を解決した。そして地下に駅が移動したことによって地上にはデパートが建築され、駅前は大いに活気ずいていた、そう15年前までは。

 地下への入り口に立った一同に無風の暗闇は背筋をゾワリとさせた。

『アヤネはそこのビルから狙撃ポイントを探して。残りはユリとユウキ、私とカオルくんに分かれて行動するわ。ユウキは上のデパート内に可能な限りのトラップを設置してきて、ユリはその援護』

 端的な説明に素早く頷いたアヤネとユリ、ユウキ組は即座に行動に移る。

 それを目視で確認したユズキはカオルに向きなおる。

『私たちは先行して敵の先行部隊をなるべく叩く。でも無理はせず、不利だと判断したら駅まで後退するわよっ』

『了解』

 カオルは先日までと違うユズキに舌を巻く。こいつ判断が早い、そう感じたカオルはすぐに駆け出したユズキの背中を追った。


 駅の反対側へと移動したカオルとユズキは敵アメリカのスタート地点である弦巻中学校の方向とロシア側のスタート地点である三軒茶屋小学校の方向へと視線を向ける。

 開始早々強化アーマーの力で一気に世田谷駅まで出てきたユズキたちは他のチームの移動速度の数倍の速度を持っている。それは単純な強化アーマーの性能差ではあるが、元々のコンセプトが違うのが一番の原因だ。

 機動性重視のユズキたちの強化アーマーに比べアメリカは防御と攻撃力、ロシアは持続時間と快適さにそれぞれ合わせて制作されている。それは各国の戦闘状況に応じて変化してきたものだ。出現率が高く、かつ国土の少ない日本は数少ない激戦区と認識されており、オークと武力衝突は全国で日に数十件起きている。

 強化アーマーをアクティブモードに変更した二人はそれぞれの武装に弾丸を装填、リロードする。

 カオルが持つのはLPA社製の新型アサルトライフル。部品の多くにグラスファイバーやカーボンを使用しており、重量を大幅に減らしている。使用弾薬は5.56ミリ弾。今回は演習規定によりペイント弾に換装している。

 カオルはそんなアサルトライフルをベルトを掛けずに手持っている。

『まだ敵の反応はないわね』

 ゴーグルに表示される自分たちのマーカーを見ながらユズキがつぶやく。今回の演習では目視による発見、および銃撃音などで敵に発見された場合は敵のゴーグルにその位置情報が送信される仕組みになっている。それはチームの誰か一人でも敵を発見した場合でもチーム全員のゴーグルに同期され、位置を把握される。

『俺たちの移動速度を考えればあと数分はかかるはずだ』

 冷静に状況を把握するようにカオルが言う。

『そうね。カオル君が前衛、私が後衛でいいかしら』

 カオルの手に持つアサルトライフルを見ながら言うユズキに無言でうなずくカオル。

『念のため無線はサイレントモードに切り替えるわ』

 その直後骨伝導タイプのインカムから先ほどと少し変わった音が流れる。

『じゃ、建物を盾にしながら前進する』

 無言でそう言ったカオルは物陰から立ち上がりライフルを構えたままゆっくりと前進し始めた。


『・・・・』

 数十メートル進んだ時ふとカオルが手を上げ、動きを止める。

 すぐに止まったユズキはカオルの視線を追うように顔を向ける。朝の濃霧が色濃く残る国道には無音の沈黙が流れている。

『・・・いるな』

 短く呟いたカオルは近くの店の陰に隠れる。 

『50メートル先におそらく二名、足音を殺して近づいている』

 隠れながらも視線を外さずにカオルは言う。

『・・・先にしかけるわよ。先手必勝、奴らのアーマーは起動時間に余裕がないはずだから長期戦はまずない。そう考えるとここまでの行軍速度には納得いくわ』

 そう呟くユズキの瞳の奥にはゆらゆらと炎が立ち上がる。

『じゃ、目視次第カウントスリーで突撃、それと同時にフラッシュを敵の真ん前に落としてくれ』

 手に握るライフルに力を込めながらカオルが言う。

『了解』

 短く返事をした後、素早くフラッシュグレネードの準備に取りかかるユズキ。

『・・・見えた。カウント3・・・』

『・・・2・・』

『『・・・1・・・』』

 その瞬間素早く一歩目を踏み出したカオルは引き金を引き絞った。間髪入れずに帰ってくる反動を肩で感じながらカオルは違和感を覚えた。いま、カオルの視線の先にはユズキが投げたフラッシュグレネードが放物線を描き、敵に肉薄していた。

 一瞬のまばゆい光。遮光モードに自動的に切り替わるゴーグルによって一時的に視界が奪われる。

 数秒の間。

 遮光モードを解除したカオルの目に飛び込んできたものは衝撃的な映像だった。

『オーク?』

 無言のカオルの言葉が重なった銃声と共に風に流れる。

 



2054・10・22 木曜日 23:34 第二東京都 LPA社専用ラボ

 午後十一時を回り、暗闇に包まれている研究室のフロアに一点の光が灯っている。机の上のスタンドライトだけが照らす先にはしわだらけの白衣に袖を通す三笠の姿があった。

 椅子に深々と腰を下ろす三笠の手には携帯端末が握られている。

「今日彼らに無事渡してきましたよ、例のスーツ」

 こうこぼす三笠の顔に不敵な笑顔が見える。

「・・・いえいえ。まあ、基本的な動作の説明等はしてきましたが例のことについては何も。まあ体験してみるのが一番かと・・・。・・・はあ。まあそうでしょうが・・・うん、そですねー。簡単に説明するとですね」

そう言った三笠の表情が変わる。

「このスーツにはそれぞれ使用者の遺伝子がナノレベルで組み込まれています。使用者のの過去、DNAに記録された祖先やその記憶の一部を機能として盛り込んであるんです。・・・はい、まあ正直開発者私でもそれぞれにどんな特性が備わっているのかはわからないですがね」

 だが、と三笠が言う。

「一つ言えるのは、その能力はスーツを変化させることができる、ということです。先祖に鳥や肉食獣を持つような遺伝子が組み込まれていた場合、それに近い形状に変化し最適化される。それが私たちが開発したリミレッタです。彼らの細胞から作られた筋繊維を複雑に織り込んであるスーツには通常の物理現象を覆しうるほどの力が内包されています。・・・はあ、安全装置ですか?もちろん搭載はしていますが、なんせ人口、すなわち科学技術の結晶ではない偶然の産物から生まれた筋繊維ですので・・・・・はあ、驚くほどのスピードで細胞が活性化してるんですね。ですから、はっきり言ってどこまで進化してどれほどの力を発揮するというのは未だに未知数でして・・・それはあなたも承知のはずでしたが?」

 しんと静まり返るフロアには三笠の話し以外、何も音が聞こえない。

「だから私が専属で、全力でフォローしてるんですよ。・・・はい、わかりました。資金の提供者であるあなたには逐一報告させてもらいますよ。では」

 そう言うと三笠は端末を閉じる。

「・・・まったく、毎度だがあの女性は苦手だな」

 そう呟く三笠の顔には笑顔が浮かんでいた。


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