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紅の鎖  作者: 華宮 優
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第5話

木々が鬱蒼と生い茂る森の中。木々の匂いが湿り気を帯びて鼻腔をくすぐる。見渡せば濃い緑の世界。光を通さないこの森は、村の特産であるキノコや薬草が多く採取できる。



他の集落と遠く離れているこの村は、外部の人間が滅多に来ない辺境の地だ。外部の人間と言えば、数ヶ月に1度程度、ここ一帯でしか手に入らない特殊なキノコと薬草を求めてやってくる商人くらいである。



採取は女の仕事であるので、今もこうして数人ずつに分かれて森にやってきていた。

エヴァは、木と岩の間を覗き込む。そこには望んだものがあった。岩肌にビッチリと白と桃色のヒダのようなものが生えている。

花ヒダ苔茸と呼ばれているそれは、炒めて食べても良し干して粉にし薬とするのも良し。苔茸は2色の割合と模様で効果が左右され、白色が多く縞が均一だと最も優れてるとされ高値で取り引きされる。

エヴァが見つけたのは桃色の割合が少し多いくらい。このくらいだと商人に高く買い取ってもらえるだろう。村では、物々交換が主。そもそも貨幣があったって娯楽施設もなし店もなしでは使い途がない。村を出て他の地域へ出掛けるなども滅多にしないので、貨幣を商人にもらっても嬉しくも何ともない。

そのため、商人との取り引きは紙や新聞、種や果実、魚の干物、玩具や食器などと交換する。


エヴァは頬を緩めて、ナイフで削ぎ落としてゆき次々籠へ入れていった。




村が位置する場所から林を抜けると小川が流れている。水は透き通り魚がイキイキと泳いでいるのが見てとれる。

その近くの岩場に男が寝転んでいた。

朝の畑仕事に、狩りをして今日の仕事を早々に切り上げた。ここ数日は晴れ間が続いて野菜の色味は上々。あとほんの数日で収穫できるだろう。狩りの成果は、猪一体と野うさぎが二羽。丸々太った猪を一発で仕留めた時は自画自賛。仲間もそれぞれ収獲が良かったのもあって早々に別れた。

持ちつ持たれつの村の暮らしは、ゆっくりのんびりそこそこ頑張るが一番なのだ。とは男の持論。


こんなこと口に出した時には、アイツに何言われることか。顔を赤く染めてぷくっと膨らました女が目に浮かんで、男はぷっと吹き出した。



心地よい水の流れる音と共に暖かい風が男の肌を撫でる。


男の瞼がゆっくり落ちてゆく。






暗闇


外からは、人の叫び声、怒声、金属の音が鳴り響く。



鎧を着た男数人とローブを着た人間が光を灯しながら一歩一歩こちらに向かってくるのが分かる。



来てはいけないのに。


ヒヤリとした汗が頬を伝う。



何故?何故?何故?



ここは、ここは、


誰も踏み入れてはいけない場所なのに。



あぁっ


入ってきた。入ってきてしまった。


何を、何を、何をする?


何が、何が、何が目的だ?



光で鎖と棺が照らし出される。



あぁダメだ。それに触れてはいけない。



なんてことだ。


なにをしている。



そこにはアレが、、、



ヤメろヤメろやめてくれーー・・・





「バルク」


微笑む女の顔



それが段々白く白くぼやけて行く。


ダメだ、いくな


いかないでくれ


手を伸ばした先、黒き翼が行く手を阻む



白き光が弱まって


黒き光は白き光を蝕んで


やがて、やがて


その光はー・・・






「バルク・・・大丈夫?ひどい汗よ。」


エヴァは、ハンカチをそっと当てた。暖かい陽気で日向に寝ていれば、汗も出るだろうが・・・エヴァは疲れきった男の顔を見て心配になる。


「あぁ大丈夫だ。いやぁー何か変な夢みてさ・・そうそう、エヴァが猪に追われててさ、それに巻き込まれてグルグル駆け回るってやつ。あぁ大変だったーっ。」


「もうっ、何よそれ。心配して損したわ。まったくもうっ。」


エヴァはハンカチをバルクに強く押し当て、痛みで顔を歪めたのを見てクスリと笑った。


収穫したものを家に持ち帰った後、エヴァは小川にやって来た。

最近親同士の了解を得て交際が始まったバルクとエヴァ。時間があれば、よく2人で小川や広場で時間を共にしていた。


エヴァは岩の上で寝ているバルクを見つけ、驚かせてやろうと静かに側に寄っていった。するとバルクは悲痛な表情で何かを呟いている。あまりにもその表情が普通ではなかったのでバルクを揺すり起こした。エヴァは、その時自分でも驚くほど、何かに怯え焦っていた。



「それに猪に追いかけられるって。ふふっ。昔そんなことあったわね。でも、あれはバルクが追いかけられてて私が巻き込まれたのよね。あの時は、ヒヤッとしたわぁ〜…「エヴァ…」


話を遮るようにエヴァの唇を塞ぐ。

非難の目を向けられるが舌を入れると目を見開いて顔を赤く染め、抵抗する手は肩に添えられた。



ようやく離された唇、2人の絡み合った唾液が名残惜しそうに糸を引く。エヴァは、荒い息を整えながら、潤んだ瞳で睨んだ。火照っているのが自分でも分かる。今、自分は真っ赤に違いない。こんなキスは初めてだった。自分はこんなにも恥ずかしいのに、目の前の相手は全然平気そう。ムッとしたエヴァは、バルクを押し倒して、唇を押し付けた。歯が当たって唇が切れた。構わずに舌を入れて動かした。


血の味がするけど、やめてあげないんだからね。


バルクは、ビクリと身体を震わせた。エヴァは、その反応に驚いて身体を起こした。


バルクの身体は、ガタガタと震え出した。

顔を歪め苦しそうに呻く。


エヴァは青ざめた。どうして?何が起きてるの?


「バルクっ、どうしたのっ大丈夫っ!!…だっ誰か...」


誰かを呼びに行かなければ!

エヴァは村へ急ごうと立ち上がる。が、腕をバルクに掴まれた。


「バルー「...エヴァ...だい..じょうぶだ。少し休めば...ここにいてくれ。」


「でも!こんな、っ、本当に大丈夫なの?」


コクリと小さく頷くバルクは、もう震えは止まっていた。だが、少し顔色が悪い。エヴァは、やはり誰かを呼びに行こうと立ち上がるが、強く手を引かれ抱きとめられた。


「行くなっエヴァ。・・・お願いだ。・・・いなくならないでくれっ。」


背中に回された手が微かに震えている。


エヴァは困惑しながらも、頷いた。








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