第3話
異形の者たちは空を舞い、村は再び闇に侵された。異形の者たちは悲鳴のような叫び声のような鳴き声をあげている。村人たちは震え上がった。
村人たちの脳裏には、ほんの1日前に起きた惨劇が浮かび上がる。
暗黒の空、恐ろしい鳴き声、血の海、噎せ返るほどの鉄の匂い、大切な人の無残な成れの果て。
ある者は意識を失い、ある者は嘔吐し、ある者は悲鳴をあげた。
年老いた父親を殺された男は、憎悪の目を異形の者たちに向け、尊敬していた師を殺された男は、拳を固く握りしめた。
子どもから永遠に引き離された女は、今まで虚空を見ていた目に光を戻し、その目を吊り上げ外へ飛び出し異形の者たちへ叫び、呪いの言葉を吐いた。それに続いて出て行った孫を肉の塊にかえられた女は、怒りを石に乗せて投げつけた。
空を舞う者たちはケタケタと笑い出す。
それが始まりを示すのだった。
下の者たちは、異変を感じて静まり返る。
人間の顔と牛の身体をした化け物が、生け贄の女の前に降り立った。化け物は鼻を鳴らし、女にニヤリと笑って見せた。鉄と汚物を混ぜた臭いが鼻を刺激する。女は顔を背けた。化け物は顔を近付け女の耳元で囁いた。
低い重い声だった。女は唇を噛み締めた。
「女、お前は我ら主の運命の花嫁か?それとも、ただの肉の塊か?
我らは、主の花嫁を望む。
若い娘、そして生娘よ。
お前、子を産んだことがあろう?
赤子を産んだ匂いがするぞ。
あぁあぁ、乳が出てるな。
この匂いに、、、、この味、
どこかで、どこかで味わったなぁ。
いつだったか、いつだったかなぁ。
そうさ、そうさ最近だぁ。
うんうん、あの肉は乳で出来てるのかと感心するほどだった。
あの肉は、美味だった。
そうだ、そうだ、あの肉も、こんな乳の味だったなぁ。
あの幼子の肉は、お前の乳の味がして美味だった。
ギャヒャヒャヒャヒヒヒヒーーーイギャアァァァアアアーーっっ!!!」
化け物の喉元から緑の液体が飛び散った。
女は鬼の形相で、刃物を化け物に何度も何度も突き刺した。
刃物は羊の腹下に隠してあった。隙を見て悪魔に突き刺すために。女は復讐を誓っていたのだ。
だが、相手はコイツだったのだ。
復讐する相手はコイツだったのだ。
女は、縄を切り離し、憎悪の刃を化け物の喉元に突き刺した。
あぁ、あの子は可愛かった。
私とあの人の子ども。
くるくる表情を変えて、私たちはそれを見るのが好きだった。
成長が待ち遠しかった。
あぁ憎い憎い憎らしい。
あの子を奪った化け物め。
殺しても足りない。
あの子の未来を奪った化け物め。
お前も、あの子のようにーあの子より酷く殺してやる。
ーーーーー・・・
ドサリ
黒き悪魔は、塵を捨てるように投げ捨てた。
それは生け贄の女だったもの。肌は赤茶色に変色し、干からびていた。顔は歪み面影も無い。
「我に刃を向けるなど考えるとは愚かな。ククク。」
悪魔は人間たちを見回しながら、赤く染め上がった唇を舐めた。
「異なる者の末路よ。次は2日のうちに差し出せ。」
顔は人間、身体は牛の化け物は羊の首根っこを加えて飛び立つ。
「羊は、有難くいただいて行く。」
黒き悪魔は村の長の追う声を無視して、村をあとにした。