第十一話【白い狼】
久しぶりというべきか? 読者の諸君。春日先生だ。
前もって言っておこう。
今回の話では前回、天咲達が話していたことは語られていない。
申し訳ない。もっと先のことを考えるように作者にはキツく言っておく。
さて、そろそろ前書きに入ろう。
番外編を終え第二章に突入したわけだが。
第二章のメインは天咲と襟沢だ。それと同時進行で一狼達との衝突が進められる。
今回は然程、話は進まないがな。
といった感じだ。分からなければ作者に文句を言ってやってくれ。
それではボロ秀第十一話【白い狼】
始まりだ。
「弁さーん。マジで大丈夫っすか?」
「あばら、二、三本折れたって医者に訊きましたけど……」
一週間もの間、医科大学病院のベットの上で横たわっている弁慶の見舞いに来ていた部下二人から心配の眼差しを受けた患者は、
「心配ねぇ。高が二、三本だ。一狼さんの時に比べりゃあ屁でもねぇ」
いつものように勇ましく振舞う弁慶に部下二人は安堵の息を漏らす。
すると、その漏れた二酸化炭素を入れ替えるように突然、開いた扉が酸素を招き入れた。
「……お前等、今日はもういい。帰れ」
「「ういっす」」
弁慶は招き入れられた酸素を向かい入れる代わりに部下二人を病室から追いやった。
退室するまで部下二人はずっと足元に目を伏せていた。
何故か、それは――――
「……傷の具合はどうだ? 弁慶」
全ての弱者を喰らい己の血肉へと変換する、狼が酸素を運んできたからである。
「……すんませんでした…………。一狼さん」
謝罪。
包帯に包まれた腹部と背中を曲げての御辞儀だった。
問いを返す前にずっと言いたかった言葉を重症の体を使って表した。
一狼と呼ばれた白銀の狼を連想させる髪を持つ青年は先程までいた部下の一人が座っていたパイプ椅子に腰を下ろす。
「……それは、負けたことへの謝罪か? それとも、人質なんていう外道な行動をとったことに、か?」
「両方に、です」
今に思うと情けない。か弱い女を二人も人質にとった上に多勢に無勢を行使したこと。それでも敗北したこと。この一週間、弁慶は自分を恥じていた。だがそれ以上に、主の顔に泥を塗ったことが一番の失態。
「……分かってるならいい。それより、さっきの質問に答えろ」
「傷なら、全然平気です。喧嘩するならいつでも呼んでください。何処へでも駆けつけますんで!」
「馬鹿か? あの人の一撃を貰っておいてそう簡単に動ける筈がない。そうだろ?」
「……そうっすね。一狼さんの言ってた通りでした。俺なんかじゃ到底無理だった。傷は負わせられても勝てなかったっす」
気が落ち、声のトーンが低くなる弁慶。そんな弁慶を励ますかのように一狼は腕を組んで告げる。
「当たり前だ。寧ろ、結果的にはお前の敗北は役に立った。お前に勝てない奴等が俺の探し人な訳が無い。お前が自分自身の情報を裏づけしたんだ。それに――――」
一狼は一旦言葉を止め、口元を吊り上げて嬉しそうに続ける。
「あの人達の実力がそんなに落ちていないことも証明したんだしな……次に会うのが楽しみになってきたぜ」
表情は心からの至福を表している。
「……一狼さん。あの……」
弁慶が口篭っていると一狼はそれを察したかのように。
「分かってる。お前の傷が完治するまで待っていてやる。リベンジしたいんだろ?」
「はい!」
無邪気な子供とはいかないももの似合わない笑顔を浮かべた弁慶。
その顔を視野に納めると一狼は腰を上げた。
そして、何も言わずに弁慶のいる病室から立ち去った。
「どうだった? アイツ元気そう?」
病院の出入り口付近で一狼を待ち構えていたのは、郷見火憐。普通の眼鏡を掛け普通の長髪で普通の制服を着た普通の女子高生の姿だ。物騒なものは何一つとして持っていない。
「ああ。それより、どうだ? あの二人について何か情報は入ったか?」
壁に体を背中から預けた姿勢で投げた問いにサラッと答えられ、逆に質問された郷見。その問いに相手と同じようにサラッと答える。
「ええ。浅葱の高等部二年生。成績だけど黒髪の方は優秀で金髪の方は悪いみたい。最近は特に目立った問題も起してないし。まあ、黒髪の方は優等生って感じね」
「……そうか。随分と大人しくなっちまったなぁ、筆無先輩。いや……黒夜叉!」
「どうしたの? ずっと探してた人が見つかって嬉しい気持ちは分かるけどアンタらしくないわよ。そんな風に、迷惑な笑顔を浮かべるなんて」
眼鏡をくいっと上げながら一狼に今現在の自分の顔を教えた郷見。周囲に病人や怪我人が居て今の一狼に恐れおののいていることを。
それでも一狼の不適な笑みは消えない。
「これが笑わずにいられるかよ。漸く見つけたんだ。これでやっと……昔のカリを返せるぜ」
「アンタは本当に凄いわね。……ある意味感心するわ」
呆れ果てたと言いたかったが言葉を選んだ火憐。
「でも、アンタがそこまで気にしてるその『筆無秀』は覚えてるの? アンタのこと」
「そんなことはどうでもいいんだよ。あの人が俺のことを覚えていようがいまいが、な。俺があの人を忘れない限り、あの人には思い出してもらうからな」
「ふーん。アンタがそう言うなら別にいいけど。それより、またアイツがアンタの事を訪ねてきたわよ」
嫌な男子が来た女子の顔で葵は一狼に目を送った。
「あのしつこい『アオダイショウ』か?」
一狼もアホな同学年を思い出し嘆息交じりに片手を額に当てる。
「そうよ……ったく、本当にしつこいわよ。一狼が嫌だって言ったんだから諦めるもんでしょ……」
「諦めねぇから、蛇の名前で呼ばれてんだろ? まあ、どうでもいいけどな」
「そうね」
「俺はアジトに戻るが、お前はどうする?」
「私はちょっと用事。多分、暫く顔出さないから」
「そうか。相手にされるといいな」
「っ!?」
自分の考えが読まれて驚く葵。だがそれも束の間。顔色を元に戻し外に出る。そして、携帯電話を取り出し、通話する。
「もしもし、麗人? 今日の総会だけど……全員集めて。幹部から一番下の娘まで」
『全員、ですか?』
「そう。お願い出来る?」
『はい、分かりました。それで時間と場所の方は変わりありませんか?』
「ええ。一八時に家の道場に」
『はい、了解です。それじゃあ、姐さん』
「ええ。またね」
通話を切り、また歩きだす。
表情はまるで試練を与える戦士の顔だ。
(筆無秀。アンタが一狼に何したか知らないけど、一狼に会わせていい人物か、私が見定めてあげる)
瞳は強者の色に染まっている。
(この北方絆騎四代目総長、郷見火憐が!)
秀達に新たな敵が訪れようと運命は動き出した。
*
「昨日の連中について詳しく教えてくれねぇか? 神乃」
「ふむ。と言っても私から話せることは少ないがな。何しろ初めての経験だ」
まあ、確かに。初めてじゃ無いにしろ天界から『こっち』に降りてきたんだ。何百年ぶりかは知らねぇけど。幾ら、神様といっても女。少しぐらい怖がっていてもそんなにおかしな事とは思わない。
怖さから思考が回らなくなるなんざ、よくあることだ。
「そうか。なら、剣間はどうだ? 何かあいつ等を特定出来る事柄はねぇか?」
「……」
「おい、無視決め込むなよ」
「……そうね」
「なんで、目を逸らす?」
「そりゃ逸らすだろうさ! だって、昨日お前超人になってたじゃん! 凶器使いこなしてたじゃん! まず、それ説明してくれねぇとなんかお前と目合わせづらいわ! それとなんで俺達、朝っぱらから屋上にいるんだよ!」
変人が妻のサポートをすると神乃が何故か剣間の隣に行く。
「良かったな。嫁。夫が助けてくれたではないか」
「そっ!? それが何よっ! て言うか嫁じゃないって何度言わせる気なのよ!!」
剣間が神乃に怒号を浴びせていた。事実を言った神乃、ドンマイ。
「おい! 秀! 聞いてんのか?!」
「分かったから、唾を飛ばすな。落ち着けよ、変人」
大誠は「ったくよー」と言葉をトロする。なんだ、その態度は?
「まあ、簡単に言うと俺に神乃の――――」
「筆無君! お願い! すぐ教室に来て!」
俺の説明が始まろうとしていたのに言葉を遮ったのは慌てたもう一人のクラス委員長、竹本だった。
「ん? どうしたの佐奈? 血相変えて」
「大変なの! 築谷さんとユキちゃんが!」
「それをもっと早く言え!」
翼が大変となれば話は別だ。
俺は全速力で教室に戻った。
*
「貴方はそれでも高校生ですか?」
「お前には関係ない。ボクは自分で正しいと思ったことを言ったに過ぎない」
なんだこの無表情VS毒舌家な展開は? 見ているだけで恐ろしいぞ。
「お、おい……お前等何があった?」
「秀、こいつの脳はウイルスに感染しているようだ」
「は?」
「貴方のように人の気持ちを考えられない人にはなっていませんので問題ありません」
「は?」
二人揃って何言ってんだ? 座りながら天咲を睨む翼と上から翼を見下ろす天咲に俺は問う。
「まず、どうしてお前等が喧嘩してんのかを教えてくれ」
「喧嘩? 秀、喧嘩は同じ知能の者同士でやることだ。これは喧嘩では無く議論だ」
「その通りですね。喧嘩などという愚行、私はしません」
「然り気に俺を傷つけて楽しいか?」
この遠慮のない攻撃には毎度困り果てる。翼に下手な攻撃はカウンターを貰うだけだし、委員長とは余り争いたくない。
俺がこの状況をどうにかしようと考え始めたと同時に教室のドアが音を立てて開かれた。
「貴様等さっさと席に着け!」
春日先生のお出ましだ。つうか、デジャブじゃね?
まぁ、誰も怒られたくないので全員、席に着く。委員長も渋々といった様子で退散していった。
翼はいつものように組んだ腕に顔を沈めて居眠りの体勢をとっている。よく堂々とできるな。
まぁ、昨日の一件は、翼に言わない方が身のためかな。俺の。
お疲れ様だ、読者諸君。
私はこの後仕事が残っているため早めに切り上げるぞ。
今回もそうだったが基本、此処の作者は気まぐれだ。投稿日を指定して出させるのは私では不可能だった。本当に申し訳ない。
ただでさえ、無理な上にいま作者は新しい環境の変化に戸惑っていて全然、筆が進まないらしい。
だが、やめるということだけはしないと断言させたので皆も気まぐれに読んでくれ。
私からは以上だ。
さらば!