第二話【真の物語り・中編】
前書き担当になった真田稲未です。
真田詩稲。
詩稲! 無愛想にしちゃダメよ。
姉のお節介。
なんですって!?
でもそれが嬉しい。
な、なによ急に……。
でも、あのスイッチが入った状態は嫌い。
ぐ……仕方無いじゃない……無意識に出ちゃうんだから。
前書き。
勝手にコロコロと進めないでくれる!?
今回、懐かしの幼馴染みが登場。
聞いてるの?! 詩稲!
それではスタート。
無視しないでぇぇ!!
「二股は最低な男のすることだぜ?」
「そんなんじゃないよ!」
真田姉妹と会った翌日、日曜日の今日。
今現在、母さんが作ってくれた朝食(スクランブルエッグ、野菜サラダ、コンソメスープ)を食べている。
そして、同じ食卓を囲んでいるのは僕が憧れる男性二人の内の一人である兄さん。更に、美味しい朝食を作ってくれた母さんだ。
「真にもモテ期が来たのねぇ~。お母さん、嬉しいわ」
「にやけながら言う台詞かな?!」
「なあ、真。卵焼き、いらねぇんならくれねぇか?」
「なにさらっと弟の朝食狙ってんのさ! おかわりすればいいでしょ」
「ダメよ、大誠。それで四回目じゃない」
「兄さんどれだけ食べる気なの!?」
僕のスクランブルエッグを奪取しようとする兄さんに母さんが水を掛ける。だが、兄さんは諦めない。
「いやー秀から『カラオケとボウリングしに行くからお前も来い。来なかったら、舌を引き抜く』なんて誘いがあったからよ。今のうちに体力をつけとかねぇと」
「それ、誘いじゃないよ。脅迫だよ、兄さん」
「秀君は相変わらずの冗談好きねぇ。母さんも行こうかしら?」
「あの人のは冗談に聞こえないよ! それと何で母さんも行こうとしてんのさ!」
「若い子とのスキンシップのためよっ!」
「気合い満々で何言ってんのさ。自分の歳を考えてモノを言おうよ」
「あら、真? お母さんをいくつだと思ってるの?」
「三六」
普通に歳を言ったら、母さんが笑い出した。大笑いだ。どうしたんだろう?
「あらあらまあまあ。何時からそんな冗談を言うようになったのかしら? これも秀君の影響かしら?」
こ、恐い。母さんが凶悪な何かに変身したみたい……。何かドス黒いオーラを纏ってるし……。
僕が脅えている時、兄さんは冷静で母さんに向って言う。
「母ちゃん。母ちゃんは外見で言えば二〇歳前半だぜ? 実年齢なんて気にすることねぇよ。すれ違う奴は全員、母さんを女子大生と思うだろうぜ」
兄さんの言葉に母さんは頬を朱色に変えて兄さんの肩をバシバシと叩いた。
「いやーね、もうこの子たっらぁ。何時の間にお世辞が上手くなったのよー」
「イテ、痛ぇよ! 母ちゃん!」
兄さんが陳述をしながら母さんのスクランブルエッグを盗み食いしている。
まぁ、母さんのスクランブルエッグは絶品だから盗み食いするのも無理ないけど。
兄さん達がじゃれている中、僕は時計を見る。
「兄さん、母さん。僕、そろそろ行かないと」
約束の時間、五分前に気づいた僕は椅子から立ち上がった。
「おう。楽しんで来いよ」
「いってらっしゃい」
「うん。いってきます」
茜さんに真田姉妹を紹介する為に三人の都合を合わせたら偶然今日が空いていたのだ。
玄関に着いて昨日と同じ靴を履く。
そして、貼り付けられた鏡に身体を向ける。
髪の毛を整え身体を捩る。服装を確認して玄関の扉を開けようと手を付けた突如――――。
「おー。真も色気付く年頃になったのか。早いもんだなぁ」
「可愛いわよ。真」
兄さんと母さんが出迎えついで一言告げる。全部不必要な内容だけど。
「僕、男なのに……」
苦笑いをしながら僕は、外へ出た。
*
喫茶店『カレオ』の呼び鈴が鳴りながら扉が開く。室内は木とコーヒー豆の香りが充満し僕の早まった動悸を落ち着けてくれる。
「いらっしゃいませ! お客様、お一人ですか?」
「いえ、待ち合わせをしてるんですが……」
営業スマイルを貼り付けて仕事を熟す女店員さん。
店内を見渡し三人を探すが、見当たらない。アレ? おかしいな?
♪~♪~
「メール? 誰から……?」
スマホをズボンのポケットから取り出す。送信者は兄さんだった。そして、兄さんからの内容を見て驚愕した。
『茜ちゃんがこっちに来てんだけど……お前も来るか? 後、可愛い姉妹もいるぞ』
…………………………。
行こっかな……。
全身の力が抜けて覚束無い足取りで喫茶『カレオ』からカラオケ店に向かった。
「有難うございました!」
出迎えてくれた女店員さんの営業スマイルが今の僕には、太陽に思えた。
*
「お、来たか。真」
暗い顔になっているだろう僕に声を掛けてくれたのは、僕が憧れる男性の一人。
筆無秀さん。
この人は年上の暴漢を数十人、相手にしても最後は自分だけが立っている光景を作り出す。その強さと容姿から付いた異名が『黒夜叉』。
でも、今はもう昔の話。
喧嘩はしないって僕たちにちゃんと約束してくれた。茜さんを泣かせる真似はしないって。
だから今、こんなに平和なんだ。
「おはようございます。秀さん」
頭を下げて挨拶をする。秀さんは右手にグレープジュースを持って笑顔を向けてくれた。
「兄々! 酷いよ! カラオケに行くなら誘ってくれる約束だったじゃん!」
茜さんがプンスカって言いたくなるような顔で秀さんに問い詰めている。
それに対して秀さんは呆れた様に茜さんを見る。
「お前、昨日散々自慢してきたじゃねぇか。『真君が友達を紹介してくれるんだよ! いいでしょー。しかも双子で女の子なんだよ! 二人も紹介してくれるんだよ! いいでしょーいいでしょー! 兄々も友達作らなきゃダメだぞ』って」
「でも私も兄々とカラオケに行きたかったのっ!」
膨れっ面で秀さんの抗議を迎え撃つ茜さん。見ているこっちが微笑ましくなるような光景だよ。
それに引き換え……僕の兄さんは……。
「そう言えば、君達って双子なんだよな。真とはどんなドラマチックな出会いをしたんだ? ちょっと教えてくれよ」
並んで座っている真田姉妹にナンパ。下心丸見えで。
兄さん……その可愛い子を見つけたら声を掛けるっていう癖、直して欲しいって前言ったのに。
言い寄られて迷惑しているであろう真田稲未さんは今来たばかりの僕に目を向けている。
「兄さん、アリアさんは? 一緒じゃないの?」
取り敢えず話題を変えてみた。アリアさんネタなら兄さんは乗ってくる。
案の定、兄さんは僕に向き直りちょっと物足りなさそうに口を開く。
「なんでも、俺達とは別の古い友達が海外に行っちまうらしいからその見送りで無理だってよ」
「古い友達? 初耳だね」
聞き返す僕に兄さんは続きを語る。
「ああ。何でもアリアを護る為に強くなりに行くんだってよ。俺も会ったことねぇ奴だけどな」
「兄さん、その人にアリアさんを取られない様にしないとね」
「べっつにぃ。あいつが選ぶことだろ? 俺がどうこうして変わるもんでもねぇ。全部あいつが決めるだろうぜ」
「笑ってる場合じゃ無いと思うよ? 兄さんモテないんだから」
「なっ!? そんなことねぇよ! 俺だってやれば彼女の一人や二人出来るっての!」
僕の最後の一言に過剰に反応する兄さん。どうやら本人は気付いていないらしい。
アリアさん以外の女の子は兄さんを多少なりともうざがっていることに。
まあ、僕が兄さんを悪く言う女の子達を弁明していってはいるけどそういう女の子もいる。
顔はいいから遠くから眺める分には問題無いんだけど、話してみるとダメだコイツ感がハンパじゃないらしい。
「ねえ。真田さん達は兄さんの事どう思う? 僕に遠慮することはないから、言ってくれるかな?」
兄さんの被害にあった二人に聞いてみた。
「変な人……です」
「騒然。お前とは全く違う」
どっちがどっちかわかりやすいね。
遠慮気味に答えた方が真田稲未さん。ピンク色のワンピースを着て苦笑いを浮かべている。
僕と兄さんを比べて答えた方が真田詩稲さん。白色のTシャツに黒色のスカートを穿いて無表情で僕を見上げている。
「チクショウーーー!」
兄さんは膝を折り床を殴りつけている。その惨めな姿を見下したもう一人の同席者がやっと口を開く。
「変人、変な声をあげるな、煩い」
築谷翼さん。秀さんの幼馴染で兄さんと並ぶ秀さんの理解者だ。
「翼、今のこいつに周りは見えてねぇよ。言うだけ無駄だ」
茜さんの頭を優しく撫でながら(羨ましい……)翼さんに声を掛ける。
茜さんの敵意むき出しの視線を受けながらも翼さんは秀さんと会話する。
「まったく……こんなに大人数だとは聞いてないぞ。僕が人混みに行くと酸欠になるのは知っているだろう? 僕は帰らせてもらう」
「荷物纏めて帰ろうとしてるとこ悪いが翼。これは俺も把握していなかったことだ、許せ。それでも帰るってのなら俺も一緒に帰ろう。どうだ?」
「…………」
秀さんの提案に少々顔を赤らめて考え込んだ。
「……やめて……おこう」
「そうか。なら座れ」
左手で茜さんの頭を撫でつつ右手で隣の席をポンポンと叩いた。翼さんは俯きながらも秀さんの右隣に腰を下ろした。
何か秀さん……かなりの上級者に見える…………何のかはわからないけど。
僕が此処にいる全員を確認した時、兄さんが勢いよく立ち上がりマイクを持った。
そして、僕たちを見回して――――。
「さあ! 役者が揃って意気投合してきたところだろう! 今からTHEカラオケ大会を開催するぜー!」
突然どうしたの!? 兄さん! 聞いてないよ!
「おい、大誠。突然どうした?」
「七人も集まってただカラオケするなんてつまらねぇだろ? だから大会形式にして優勝した奴は他の奴らに何でも命令することが出来る! ってのはどうよ?」
「フン。変人の考えそうなことだ。お前は出会ってまだ小一時間の女子相手にそんな事が通ると思っているのか?」
「それなら問題ねぇぜ! 見てみろよ! あそこでマイクを取り合っている三人を!」
僕、秀さん、翼さんの三人は兄さんが指差したところを見る。
そこではさっきまでの穏やかな空気ではなくなっていた。
「兄々にお願いするのは私っ!」
「あら? 私は真ちゃんにあんなことやこんなことをさせようと思うのだけれど?」
「……」
茜さんは必死に稲未さんは何時の間にかスイッチが入っていて色欲に塗れた表情でその妹の詩稲さんは無言でマイクを取り合っていた。
「はぁ……茜のやつ……」
「はぁ……真田さん達……」
秀さんと二人ため息を付く。
そうだ、翼さんなら何とかしてくれるかも!
翼さんに止めてもらおうと期待を込めて翼さんのいる秀さんの隣に振り返った。
でもそこに翼さんの姿は跡形もなく……。
代わりに――――。
「さぁ! 参加人数が半分を超えた! これより全員参加のTHEカラオケ大会を始めるぜー!」
「「「「イエーイっ!」」」」
僕と秀さんを除いた全員が参加して僕達を巻き込んだという兄さんの司会者ズラした声が聞こえたのだった。
今回はこれまでサヨウナラ。
そんな訳ないでしょ!
勃然。
あら、詩稲。そんな言葉使っちゃうの?
!?
ウフフ。何で出てきたかって思ってるでしょ?
突然。何故?
それはね……ゴニョゴニョ。
!? 破廉恥!
褒めてくれてア・リ・ガ・ト・ね。
帰る!
あぁん。待ってよぉ。詩稲~。
今回の後書きはこれにて終了ですby貝塚真