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ボロい筆箱を拾ったのは理系の秀才でした!?  作者: 表 裏淳
OVA【洋風と和風の真弓】
12/27

第一話【真の物語り・前編】

おっす。オラ、大誠。

前回に引き続き前書き担当、弟の真です。

オイオイ、真。ちょっと硬いぜ? 

当たり前だよ。何が悲しくて自分の過去を晒さなきゃいけないのさ……。

でも、結構カッコイイじゃねぇかよ。秀より主人公に向いてんじゃねぇか?

そんなことない。秀さんには及ばないよ。

まあ、謙遜はお前のいいところだし、別にいいか。

そんなことより兄さん、前書きをしようよ。

おう。

今回は僕が主人公で前回、登場したあの人がでてます。

真の微笑ましい過去を一挙公開!

やめてよ! 兄さん!

それじゃあ! ボロ秀番外編!

第一話!

【真の物語り・前編】!

スタートだ!

恥ずかしいなぁ。

 白銀の樹霜(じゅそう)(きらめ)く、今日この頃。僕こと貝塚真は一人、近所の公園に防水スプレーをかけたジョギングシューズを履いて訪れた。

 「……よし」

 誰もいないことを確認し、銀世界となった公園の端へ歩き出す。

 公園の滑り台の柱にバッグから取り出した直径八〇cmの(まと)を引っ掛け、滑り台から飛び降りる。その後、的から三〇m程距離を置く。

 ここの公園は直径四〇mあるから短距離の練習には持ってこいなんだよね。


 「アリアさんに勧められて始めたアーチェリーにすっかりのめり込んじゃったなぁ。最初は中々当たらなくてイライラしたけど」

 そう。僕の左手には、洋弓(ようきゅう)であるリカーブボウのグリップが納まっている。


 僕がアーチェリーを始めたのは今から三年前の小学六年の頃。

 当時、中学二年だったアリアさんは部活に入ってなかったけど持ち前の運動神経で様々な運動部の助っ人をしていたと兄さんから聞いた。

 それだけでは無い。

 アリアさんは家事全般が得意で家庭部、礼節(れいせつ)が素晴らしく華道部、茶道部、頭の回転が速く常に(兄さんの前を除く)冷静でいたことで囲碁・将棋部など数々の文化部でも活躍していた。

 兄さんはいつも言っていた。

 「アリアは才色(さいしょく)兼備(けんび)で自慢の幼馴染みだぜ!」

 と。

 本人に会うまで僕は疑っていた。兄さんを奪う悪女(あくじょ)だ、って。

 でも違った。アリアさんは僕に優しく(せっ)してくれて分からないことがあれば何も言わずに教えてくれた。僕の初恋の相談にも乗ってくれた。

 兄さんの言うとおり。

 僕はアリアさんに義理の姉になってほしい。そう思うようになれた。

 願望(がんぼう)を思い描きながら滑り台に向き直り、グラブの付いた右手でクイーバー(矢を入れる筒)からアルミ製の矢を一本抜き出す。だがしかし、一つの疑問が思い浮かぶ。


 (兄さん、一体いつになったらアリアさんに告白するんだろう?)


 母さんに聞いたところ、兄さんがアリアさんと出会ったのが幼い二歳。それから一四年も()っている。

 もう、くっつけよと思う。仲も良いし、互いに好きなのは分かっている筈なのに……。何で付き合わないんだろう? 見せ付けているのだろうか? だとしたら、性質(たち)が悪いよ……。

 「はぁ……僕がいくら考えても意味が無いのは分かってるんだけどなぁ…………兄さん達はもう本当に」

 どうしようもないぐらいの――――

 

 「てめぇ! ガンつけてんじゃねぇぞ!! ゴラァ!!」

 

 何? 今の尖り声? 

 気に(さわ)って()つに()てなくなり、抜いたマイアローを右手の人差し指と中指で引っ掛けるように持ち、肉声のした南東の方角に身体を捻る。

 その先には。

 「……」

 「さっきから睨みやがって!」

 「いい度胸してんじゃねぇかよ!! ねぇちゃん!? ア゛ァ!?」

 自動販売機のすぐ前でガラの悪い男二人が女の子に(まゆ)を上げて詰め寄っているのが視認出来た。

 現場を目撃した上で悩む。

 (助けるべきかなぁ? あの子が何をしてこうなったのか見てないからなぁ。関係無いって言われたらそれまでだし。でもなぁ…………)

 こんなとき、兄さんならどうするだろう? 

 困っているのがアリアさんだったら早却(さっきゃく)と助けるのは目に見えてるけど。

 「何が『このお茶は美味しいですよ』だ! 俺の一五〇円を返せ!」

 …………。

 キレてる理由がくだらなさ過ぎる……。

 そんな小さなことに堪忍袋(かんにんぶくろ)()が切れたの? どれだけ器が小さいんだろ?

 小銭を犠牲にした男が女の子に言い掛かりをつけて、その連れと思しきもう一人の男が前屈みになって女の子を睨んでいる。

 だが、(どう)じる事無く女の子は男達に真空のような瞳をしっかりと()している。

 本人の瞳から強い精神を感じる。しかし、それとは裏腹に景色の分厚い純白と相反(あいはん)したニーソックスがまるで夜に怯える幼い女の子の如く、小刻(こきざ)みに震えていた。

 「はぁ……仕様が無いなぁ」

 見ていられなくなった僕はマイアローをクイーバーに戻し、公園の敷地から出て南東に向かう。

 近づくにつれて圧迫されるかのような空気になっていくが、兄さんと秀さんの喧嘩の時に比べたら全然平気。

 「もう我慢出来ねぇ! 一発お見舞いしてやらぁ!!」

 財布の紐がゆるゆるの男は力任せに殴り掛かろうとする。

 「止めなよ」

 背後に接近して後ろから声を掛ける。

 「何だてめぇ!!」

 何にもされていないのにイライラしている男が僕をガンつけた。

 なんだ、あんまり怖くないね。何処にでもいるよ、これぐらいの人は。

 「見て分からない? 通りすがりのアーチャーですよ」

 「アーチャーがこんなとこ通りかかるかよ!」

 「通りかかりますよ~。あれだけ耳障りな声が聞こえてきたら……元凶を始末するために来ますよ」

 微笑みつつ、最後は少し力を込めて喋る。

 それを視聴した男達は怒りを爆発させた。

 「「ブチ殺すっ!!」」

 同時に青筋を二、三本浮かび上がらせ僕に憤怒(ふんぬ)を纏った拳を突き出した。

 その拳が僕の『()』にとっては…………でんでん虫と大差(たいさ)無いんだよね!

 右手で無駄使いする男の突き出している腕を捕まえて、隣の男に身体ごと投げ当てる。

 体勢を崩した二人はまるで、新婚の夫婦が子供をつくるためになる体勢になった。

 「わぁ、気持ち悪いね。それと今時、喧嘩で殴るって、法律い・は・ん・だ・よ」

 僕は二人を見下し、意地悪な笑みを作る。

 「く、くっそぉ~!!」

 「あいつが、女にみえやがったー!?」

 二人、失礼な捨て台詞を吐き走り去っていった。

 

 終始、口を開かず僕等のやり取りを傍観していた女の子。

 今、よく見ると、可愛い……。

 太陽を積雪が反射しているが氷柱のように透き通った童顔がその逆光をさらに反射する。対象的な黒真珠と見間違う程の艶やかな黒髪が肩に掛かりその先にある華奢な体躯へと目を誘導する。上着を着込んでいるがスカートから出た脚は黒い筒に納まった矢に置き換えることも出来そうだ。

 「あの、私の顔に何かついてる?」

 ずっと、見とれていた僕に女の子は不思議そうに首を傾げる。

 黒いマフラーから覗けた細い首筋も純白の肌。

 「え、いや、別に……」

 ちょっと動悸(どうき)が早まり、生返事になってしまう。

 「それ……リカーブボウ?」

 「う、うん。僕アーチェリー、やってるから」

 「あなたならもう少しポンドは大きくても問題無いと思う」

 「え? 君、分かるの?」

 「少しは」

 「へぇー。君もアーチェリーやってるの?」

 「私は、弓道を(たしな)む程度に」

 「弓道! じゃあ和弓(わきゅう)持ってるの!?」

 似た趣味についつい興奮して女の子の両手を握っちゃったよ。

 でも、柔らかい……。すべすべしてる……綺麗だ…………。

 「い、家に」

 赤らめた顔を俯かせ呟く女の子。カワイイなぁ。

 「君、名前は?!」

 自分でも目をキラキラさせてるのが分かるぐらい、はしゃいじゃってる。

 だって、近所に弓持ってる人自体少ないから。クラブだって全然存在してないし、兄さんの話だと高校にはあるみたいだけど……。

 それまで、待てない!

 「真田(さなだ)……稲未(いなみ)

 「可愛い」

 「へ!?」

 「あ! え、えっと、僕は、貝塚真って言うんだ!」

 「そ、そう。いい名前ね」

 「き、君もね。ははは」

 なんだろう、この気まずい雰囲気。つい漏れちゃった本音に思わず焦ったけど、なんとかなった。

 「それより、随分と力が強いのね?」

 「さっきのアレのことかな? アレは友達の兄さんによくやられてた技なんだ」

 「友達のお兄さんにやられてたの!?」

 「うん。凄かったなぁ。流石だったよ。身体が宙に浮いて三回転ぐらいしたんだっけ……」

 「三回転!? って、それじゃなくて! これ!」

 仰天しながら僕が握った両手を顔の前に突き上げる。

 忘れてたよ。

 さっきから興奮続きだったからどんどんと力が入っていったんだね。

 「ゴメン! つい興奮しちゃって!」

 「こ、興奮!?」

 「うん」

 興奮の一言に反応した真田さん。平然と僕は頷く。

 「貴方、もしかして……変態なの?」

 「ち、違うよ!」

 とっても不名誉なことを言われたよ。

 兄さんはよく周囲の人から変人って言われてるけど僕が変態だなんて。

 哀愁を漂わせ真田さんの手から自分の手を離す。

 でも離した手を今度は真田さんが捕まえる。

 え?

 「まだ、お礼をしてないわ」

 「お礼なんて言わなくても、って『してない』?」

 「言葉じゃ、何も伝わらないと思うから」

 「な、何を?」

 握った手を絡まらせ、僕に顔を近づかせる。

 鼓動がまた早くなる。

 て言うか急にどうしたの?

 「君、キスの経験は?」

 「な!?」

 そ、そんなこと訊かれたことないよ。本当にどうしたの?

 妖艶(ようえん)に微笑んじゃって僕の心臓を爆発させる気なの?

 「うふふ。戸惑っちゃって、君もかっわいい」

 「お、お褒めに預かり光栄です」

 「それで? キスは?」

 「う、う~ん。な、無いです」

 「そっかー。じゃあ、ちょ・う・だ・い?」

 「へ!? ちょっと!? まって!?」

 「い・や」

 後ろ首に手を回し、桜色の唇を僕の唇に触れようとした、その時――――

 「愕然(がくぜん)

 「「うわっ!?」」

 僕も真田さんもすぐさま離れる。あれ、真田さん、元に戻ってる?

 愕然と声のした方向、つまり右に顔を向ける。

 「姉の彼氏。粋然(すいぜん)

 「詩稲(しいな)! いつからそこにいたの!」

 僕を純粋と言ったその人物は真田稲未さんと同じ顔をしていた。目元も髪の長さも何もかもが類似している。

 まさに双子。

 「興奮と叫んだところから。姉の彼氏、恍然(こうぜん)

 「つまり、私のスイッチが入ったあたりからね!? それとこの人は彼氏じゃないわ!」

 スイッチ? じゃあさっきのは僕の言葉に反応して急変しちゃったの?

 「……〇フレ?」

 「その伏字が何かは訊かないから!」

 

 こんなやり取りがあと、一時間ぐらい続きます。

 真田姉妹と出会ったのが、今日一日の収穫。

 三人、メアドを交換して良い友達になれたと思う。

 明日が楽しみだよ。


 茜さんも二人と馴染めるだろうなぁ。



 

どうだった? 今回の真物語りは?

兄さん、それは危ないから止めようね。

へっへっへ。いやーあのエロい姉ちゃん、いいな。

その下品な笑いも止めようよ!

ま、後編に続く、だぜ。

在り来たりな言葉を兄さんが言うと何か変だね。

お前まで俺を変人呼ばわりするか!?

僕なんて変態呼ばわりされたんだよ! 変人の方がマシじゃないか!

そんなに怒んなよ、まぁ座れ。

はい。って何偉そうにしてんだよ!

アレ? 真?

はっ! ゴメン! 兄さん、何だか秀さんみたいになちゃった。

案外、似てたぜ?

本当っ?!

ああ! 自信持て。モノマネ大会ならイイ線までいくぜ!

知り合いのモノマネで大会に出る人が何処にいるの!?

俺の目の前にいる。

違うよ!

まあまあ。漫才もこの辺にしとこうぜ。

兄さんが勝手に始めたんでしょ!?

それじゃあ次回をお楽しみにー。

終われないよ!

茜ちゃんに『真は女々しいヤツ』だって言ってやろうか?

終わろう!

おう。改めて読者のみんな!

さようなら!

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