第九話【不良&約束】
皆さん、お久しぶりです。天咲雪海です。
今回は文量が多いそうなのでお気お付けください。
それではボロい筆箱を拾ったのは理系の秀才でした!?
第九話【不良&約束】
どうぞ。
「貴様らは一体どういう脳味噌をしている?」
薄暗い室内の中、春日先生は俺と大誠に痴呆の疑いをかけてきた。
…………正直、目が恐い。
ただでさえ関節技をかけられそうな雰囲気があるのに……兎に角ここからいち早く脱走したい。
「聞いているのか?筆無」
「ええ…………勿論」
「貝塚、貴様はどうだ?」
「先生ってお若いですよねー」
「フンッ!」
「グヘッ!?」
今朝俺が一発叩き込んだ鳩尾に今度は姥桜の春日先生から拳が届けられた。
見ていて可哀想と思わざるおえない光景の出来上がり…………かと言って俺は同情はかわない。だってこいつの自業自得だし。
「ところで、筆無」
床に寝そべっている大誠を放置して春日先生は俺を睨む。…………ヤバイ、マジで恐いです。目の前に閻魔大王がいる気分です………………それってどんな気分だろう?
心の中で自分で自分の弱ボケを処理。そしてくだらないギャグを考えてしまったことに反省。
「貴様、私の歳はいくつだと思う?」
「はい?」
「私の歳はいくつだと思う?」
「ええっと……」
「私の歳はいくつだと思う?簡潔に述べよ」
顔は無邪気な子供みたいに笑っているのに相変わらず眼が眼がァァァァ…………恐い。
「………………二十五?」
「その訳は?簡潔に述べよ」
「大学卒業後、すぐに教師になったと考え、一年の時任期は二年だと言っていたのを思い出したから」
「つまり、私は姥桜では?」
「ありません」
うわぁ~これってさっき俺が考えていた事が読まれていたのかな?だとしたら俺の人生はもうすぐ終わりかな?
「貴様が冷や汗をかきながら何を考えているかは知らんがその解答は不正解だ」
「だとしたら俺って落第ですか?」
「そんなことは無い」
「だったら、退学?」
「それも違う」
「じゃあなんですか?」
俺の問いかけに春日先生は――――
「帰っていいぞ。実際、英単プリントを忘れただけで退学に出来るものか。私はただ…………」
「ただ?」
「教師として叔母として貴様を正しく導かねばならんのでな。そのためにも貴様が私のことを舐めていたのでは話にならん。だから私の経歴を覚えているか確かめたかったのだ」
そういうと春日先生――否、凪さんは微笑む。
それをみた俺は久しぶりにこの人を茶化すことにした。
「経歴を覚えていたら舐めてないと判断するのは間違いだと思いますけど?ていうか、アレって経歴って言います?」
「フン。貴様は興味のない相手のことは何も覚えないからな。貴様に対してはこれでいい」
「さいですか…………」
呆れた。それを確かめるためにこんな日没まで居残りさせられるとはな…………。
まあ、久しぶりに凪さんの笑った顔が見られたから良しとしよう。
「さあ、早く下校しろ。そこで寝たふりをしている貴様の相棒も連れてな」
「分かってますよ」
返答すると俺は大誠を起こすため寝ている本人の前に行き踏んづけた。
「おら、起きろ。さっさと帰るぞ。大誠」
「…………へへっ。やっぱバレてたか」
「当たり前だろ。お前の寝たふりはもう何千回って見てきてるんだからな」
「はいはいっと」
相変わらずのスマイルを浮かべるコイツの項を引っ張りもうすっかり日が暮れた外を一瞥して教室を去った。
凪さんはスマホを取り出してまた微笑んでいた。
*
行き着けのカフェとやらにたどり着いた私と筆無の隣にいつもいる奇妙な男の嫁のようで嫁で無い女。 そして誰も居ないことを見回すことで確認すると出口から一番遠い向かい合う事の出来る席へと進み座った。
「さてと、何処から話そうかしら?」
「さっきの続きから頼む」
「続きから、でいいの?」
「ああ」
「そう。でもその前に何か注文したら?ここのミルクティー結構いけるんだから」
ミルクティー、という怪し気な名前に思わず警戒心が働きそうになったがこの者の前では人間を演じなければならない、と自分を言い聞かせる。
だが、ここで問題が起きた。
「そう言えば、アンタお金いくら持ってんの?」
「…………金銭の類の物は持ち合わせていない…………」
「ハァ!?アンタそれマジで言ってンの!?」
大声を上げ、木製の机を叩き立ち上がった娘。その顔は先程の驚愕した顔とほぼ同じだ。
「冗談でしょ……今どき女子なら普通サイフには五千円ぐらいは入ってるモンでしょ…………」
「驚愕顔の次は落胆顔とは随分と忙しいな。嫁」
「だから誰が嫁よ!」
事実を言ったに過ぎないのだが強く否定する娘が妙に可愛いのでまたからかいたくなる。
不思議なものだな。女神たる私が人の子を弄ぼうなどと考えるとは。これも人間の姿になっているのが原因かも知れないが…………。
私が思考を走らせている間、何やら財布を取り出し指を歩かせている娘に訊く。
「何をしている?」
そう問いを投げると娘は、顔を財布から外し私をみる。
「アンタの分、奢ってあげるわよ。お金無いんでしょ」
「あ、ああ。だが良いのか?」
また問いを投げる私に娘は何故か溜め息を吐く。その仕草は何かに対し呆れから来ているとすぐに分かった。何故ならその顔に疲労と書いてなかったからだ。
「私がミルクティー飲んでてアンタが飲まないのは何か納得いかないの」
「何だその持論のようなものは?」
「……そんなんじゃないわよ」
プイっとそっぽを向いた娘に興味が段々と湧いてくる。
「とにかく、ミルクティー二人分頼むからね」
「すまない」
私が言葉を返すと娘は、
「マスター!ミルクティー二人分!お願いしまーす!」
また大声を上げマスターという人物を呼んだようだ。
そして、店内の奥から二十代後半の中性的な容姿をした(恐らく)男性がひょっこりと出てきた。
「いやーアリアちゃんね。そんなに大声出さなくても充分聞こえてるからね。だからもう少し声のトーンを落として欲しいんだよね」
ニコニコと笑みを浮かべ明るい声でアリアという人物に注意をかけてくる。
それを見た娘は何故か言葉を返した。
「マスター、その女口調止めてください。オカマみたいで変です」
「こればっかりはどうしようもないね。もう癖になっちゃってるからね」
「女口調というより語尾に『ね』をつけるのが癖になっているのではないか?」
「ん?お嬢ちゃん、アリアちゃんのお友達かね?」
「そう言えばアリアというのは誰のことを言っているのだ?」
「私のことに決まってんでしょ!」
「……そうだったのか」
「何、その意外っていう顔……?」
「いや何、名前に性格が合っていないと思ってな。今までアリアというのは私には見えない妖精のような者のことを言っているのだとばかり思っていた」
「アンタ、私のことそんな風に思ってたの…………」
「まあまあ。落ち込んでもなんにも解決しないよね?まずは改めて自己紹介から――――」
「何だよ、先客がいるじゃねェか。おい誰だ?今日此処貸し切りにしたって言った馬鹿は?」
「へい。オレです。おかしいですね。確かに今日は貸し切りにするって店長に言っておいた筈なんですけど……」
突然、体格が大きい男とその後ろに約二十人ほどの男が群がって店内に入ってきた。
全員何故か野球というスポーツに使う金属製と木製のバットという棒を持っていた。おまけに全員制服の着方がだらしない。ボタンを全て外し肌着をズボンから出している。
「お客さん、何かご用ですか?」
マスターが体格が大きいリーダー格の者に歩みよっていく。顔はさっきまでと変わらないが口調が明らかに違う。
「今日はオレ達の貸し切りにするってこの前言っておいたよなァ!!店長さんよォ!!」
そして、口を開いたのは先程リーダー格の者と会話していた目付きが悪く耳に装飾を施した男だった。剣幕をマスターに見せつけ五月蝿く怒鳴り散らしている。
だが、マスターは気にした様子もなくただリーダー格の男を見据えている。
「そんな話を聞いた覚えはありませんが?」
「ンだとゴラァ!!」
無視されて余計に怒ったのか男はマスターの胸ぐらを掴みかかった。
私は、アリアという娘に眼差しを向ける。するとそこには、涼しい顔をした娘が大人しく居座っているだけだった。
「……あいつ等、縹の不良ね」
ぼそっと呟いた娘に私は訊く。
「縹?」
突然何を呟いたかと思うと色の名前を口にしていた。だが、どうも色ではないようだ。娘の顔が少し強ばる。
「公立縹織高校。最近、よく名前を聞くようになった高校よ。まあ主には悪いことで、だけど」
「それは……筆無と何か関係が?」
「さあ?……でもあいつが昔、恨みをかってたら話は別だけどね」
「おい!!そこの女共!!何コソコソと話してやがる!!」
髪を金色に染め鼻に装飾を施した不良が私達に気づいたようでこちらにドスドスと足音を立て近づいてくる。
「別に、何も話してないけど?」
平然と。目を合わせる訳でもなくそう言葉を発するアリア。
「お客さん、そこの女の子達は僕の知人です。離れていただけますか?」
「あ゛ぁん!?テメェさっきから調子にノってンじゃァねェよ!!」
「潰すぞゴラァ!!」
「いっそ、殺っちまうぞ!!あ゛ぁん!!」
不良達の機嫌が損なわれていく中、リーダー格の不良が金属バットを強く床に叩きつけた。
「うるせぇんだよ!!てめぇ等!!店に迷惑、かかってんのがわからねぇのかァァ!!」
「弁さん!!」
「でもよ!一さんに怒られちまうぜ!!」
「ジャかわしい!!一狼さんには俺から言っておく。それになァ!!」
弁と呼ばれる不良は私達にその大きい人差し指を向けてきた。その顔は妙にいやらしさを感じさせる。
「そこの女二人を火憐にでも献上すれば問題ねェはずだ!!」
その言葉を聞いた不良達も弁と言う者と同じく顔からいやらしさを感じさせ始めた。この空気を感じた私は一刻も早くここから出た方が良いと本能が叫ぶ。それはどうやらそこにいる娘も同じようだ。
「お客さん。そんな危ないこと僕が黙認すると思いますか?する訳ないでしょう。この子達は大事なお客だ。てめぇ等みてーな三下にすきにさせるわけぇねぇだろぅがぁ!!!!」
今までのマスターからは想像もつかないドス声で大声を上げた。
その声に怯む不良達。
この隙に逃げ出そうと立ち上がる私達二人。そして、店の出口まで後少しの距離で急にアリアが転んでしまった。その原因は……。
「逃がすかよぉ。へへ……」
「よくやった!!」
どうやら不良の一人に足をひっかけられたようだ。
まずい!!
「アリアちゃん!」
マスターが駆け寄ろうとするが、それも不良十人がかりで抑えられてしまった。
「っ!?離しなさい!!」
「おおっ!すっげー白い肌!それに柔けぇ!」
アリアの腕を掴み興奮している不良の一人。アリアは全力で振り解こうとするが無意味に終わる。
……………………仕方無いか。
「フッ!」
「ぐえ!?」
顎に鋭い裏拳。人間ならばてこの原理で脳に振動が行き渡る。それにより起き上がるのは至難。
あまり、暴力は行いたくないがこの状況は仕方無い。
アリアも少々驚いているようだが思ったほどではなかった。まるで慣れているかの様に。
「……ありがと」
「いや、いい。それより早く逃げるとしよう」
「……そうね」
何やら落ち着いているようだが今はそれどころでは無い。早くここから離れることが先決。
「おい!!出口を塞げ!!」
「へい!!」
二人程、出口に回り込まれる。マスターを見ると今は十人相手にやや押し気味のようだった。
ならば、押し通るまでだ。
「そこをどけ!」
顎目掛けて正拳突きを放つ。これが当たれば一人は問題無い!
「そこまでだ!!女!!」
弁という男が声を上げその方向に身体を向ける。そこには――――
「神乃!!」
アリアが……捕まっていた…………!!
見れば両手を後ろで掴まれていて首筋には木製バットに大量の釘が打ち付けられたものがそえられている。
迂闊だった……か。
「そいつも抑えろ。んであそこに行くぞ!!それとそこの店長は店の奥に縛って閉じ込めておけよ」
「へい!!」
不良三人が私を抑え込みマスターも床に倒れている。
チェックメイト…………のようだな。
……………………人間の姿でなければこんな奴らに……!!
(…………筆無!)
私は一人の男の名前を思い浮かべることしか出来なかった。
*
「なぁ、秀。今日はあそこに寄ろうぜ!」
「何を唐突に言ってやがる。あそこにはもう近づかないんじゃなかったか?」
「いいじゃねぇかよ。それに丁度今日だろ?」
「何がだよ?」
「決まってんだろ!」
「俺達二人があいつ等と約束した日だろ?」
「二年前の話だ」
「でも五周年記念ってやつだぜ」
「たくっ。分かったよ。行けばいいんだろ、行けば」
「そうそう。それよりお前覚えてるよな。約束の内容」
「当たり前だ。と言っても俺はもう一つ別の約束もしたがな」
「じゃあ俺達全員でしたのは、どうよ?」
「覚えてるに決まってんだろ!図々しいなお前は!!」
『もう……二度とお前達を泣かせたりはしない』
『平和に生きるとするか……』
そう約束した場所。
広く、月を見上げる黒の衣を纏う夜叉と金の頭を持つ熊がいるとされた湖。
『鬼柄湖』
その場所こそが約束の――――あかしだ。
え、えーと、ユキちゃんが前書きが終わった後、本を読み始めて一歩も動かないので急遽、襟沢綾が後書き担当になりました。
本当にごめんなさい。ユキちゃんは悪い子では無いので許してあげてください……。
それでは気を取り直して!
今回は筆無君と春日先生の意外な関係が明らかになりましたね。
それと同時に、アリアちゃんと神乃さんが怪しい人が店長のお店に入ったと思ったら、怖い不良の人達に連れていかれちゃった!?
筆無君早く助けに行ってあげて!!
次回は第一章最終回だそうです。
これってつまり二章からは私やユキちゃんがメインになるのかな?だったらいいなー。
あ、でも番外編が途中に入るらしいからその後かな?
それじゃあ次は……え、ユキちゃん?
これ以上言ったら先の楽しみがなくなるからダメ?
うーん……そうだね。
それでは今回はこれにて終了です!
お疲れ様でしたー!
注意・二章は私達がメインではないと思います。まだわかりませんが…………By雪海