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お面。

作者: をはち
掲載日:2026/09/24

返品はききません。


祭りの気配は、闇のなかにぽかんと浮かんでいた。


田舎道を車で走っていると、突然、道端の広場から仄かな灯りが視界に入った。盆踊りの会場らしい。


中心に櫓が立ち、そこから四方へ提灯が幾本も延びている。朱と黄のほのかな灯りが、夏の夜の闇の中、ぼんやりと揺れていた。


風がないのに、提灯はかすかにゆらぎ、その下の地面に長い影を落としている。出店はわずか二軒。祭りの日までにはまだ間があるのだろう。


人影はなく、ただ古い提灯の明かりだけが、静かにこの場所を照らしていた。そのうちの一軒で、親父が黙々と支度をしていた。


店先に並ぶのは、今どき見ない古いお面ばかりだ。鉄人二十八号や、どこか懐かしくて少し不気味な面々。流行りのキャラクターなど、一つもない。


「はやりのものは商わないんですか?」


試しに声をかけると、親父はゆっくりと顔を上げた。


「一点物のおめんをつくるんだよ。だから並べられない。あんたにお似合いの一点物…どうかね?まだ開店前だから、サービスでつくってやるよ」


提灯の灯りが、親父の皺深い顔を半ば影に沈めている。祭りのレトロな空気と、闇と明かりのコントラストに、私の心は妙に高ぶっていた。


「…じゃあ、ひとつもらおうかな」


「あいよ。顔の型を取るから、ちょっと横になっておくれ」


その言葉のあと、記憶はない。目が覚めたとき、櫓も屋台も提灯も、跡形もなく消えていた。


私はただの田舎の公園のベンチに横たわり、夜の風だけが頬を撫でていた。夢でも見たのかと目をこする。その手に、妙な違和感があった。


トイレの洗面台に向かい、鏡に自分の顔を映した。たしかに、私の顔がある。だが、微妙に横へずれている気がした。


指で触れると、顔がするりと元の位置に戻る。おかしい。顔がずれることなど、あるはずがない。


そのときになって、ようやく気づいた。私の顔に、もう一枚の「顔」がかぶせられている。肌の質感まで酷似した、私そっくりの面だ。


指をかけて、ゆっくりとめくった。下から現れたのは、赤みを帯びた生々しい筋肉の繊維だった。


皮膚一枚分の下で、血が静かに滲み出している。


提灯の灯りはもうどこにもなく、ただ夜の闇だけが、私の顔を包んでいた。

読んで頂き有り難う御座います。

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― 新着の感想 ―
こ、これはもう、一生お面で。 しかし、お面ですから、歳を取らない……かもしれませんね。 のっぺらぼうのようにされてしまうかなぁとまでは思いましたから、それよりは救いがあるのですが、生々しさが より怖い…
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