↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
21/22

漫画に描かれたカルミーナ④

「何だてめえ!このクソ忙しい時に、何をうろちょろしてやがる!」


真壁はドスのきいた声で鷺原に怒鳴りつけた。


鷺原は半泣き顔でビビり上がる。


「す、すんません……。今厄介な奴が来てまして……」


「厄介な奴?なんじゃいそれは!」


「は、はい。先週の実話タックルに掲載した漫画で編集長がプロット指示した死刑執行官の話があったと思うんですけど……」


「純一とパンダに書かせたやつか?」


「はい。そこに出てくる女吸血鬼が怒って抗議に来てるんすよ……」


「吸血鬼だぁ!そんなことでわざわざ来んなボケェ!追っ払え!」


「ひっ!で、でも……牙を剥いて結構やばい感じで……。純ちゃんとパンダも詰め寄られて泣きが入ってます」


「ち!情けねえ!俺が行って大したことなかったら、てめえ覚悟しろよ!」


「そ、そんな……」


鷺原は顔面が真っ青になった。


真壁は湯飲みに焼酎をなみなみと注ぎ入れると、ぐいっと一気飲みした。


そしてガバッと立ち上がると、肩をいからせながら受付に向かった。




一方受付ではカルミ―ナと作者二人との睨み合いが続いていた。


「頼むよ!もう行かせてくれよ!俺たち、次の漫画の打ち合わせがあるんだよ!」

「僕たち悪くないパンダ。許してほしいパンダ」



「駄目よ!納得するまで帰らないんだから!」


カルミ―ナの怒りは収まらない。



その時に背後からドスのきいた声が響いた。


「おい!吸血鬼!仕事の邪魔は良くねえな!」



彼女が驚いて振り返ると、スーツの上着を肩にかけてハンドポケットの真壁が立っていた。


そして凄まじい形相で彼女を睨みつけている。


カルミ―ナは一瞬たじろいだが、心を奮い立たせて真壁に向き合った。



「あなたがここの責任者ですか?」


「ああん!だったらどうなんだ!」



(酒くさ!しかも初対面の来客に対してこの態度……本当に信じられない!)


カルミ―ナは顔をしかめながら答えた。


「仕事の邪魔って……私は《実話タックル》に不当な内容があるので正当な抗議の為に伺ったんです!」


「てめえ!何が気に入らねえんだ?」


「『恐怖!女吸血鬼による死刑執行!血塗れの儀式』という漫画の中に私が描かれているんです。でも内容が全部デタラメです!」


「てめえ……名前は何て言うんだ?」


「カルミ―ナ・ド・ラキュレです!」


「この話に出てくる女吸血鬼の名前をもういっぺん見てみな」


「え!名前…………あ!『カルミ―ナ・ドラキュラ』!」


「違う名前だよな!別人だよな!」


「そ、そんな……」


「てめえ……勘違いでよくも俺たちの仕事にケチをつけてくれたな!この落とし前どうやってつけるつもりだ!ああ!」


「で、でも……この日本で吸血鬼の執行官なんて私しかいません!しかも名前は同じカルミーナ。どう考えたって私以外考えられないじゃないですか!」


「だったらどうだって言うんだよ?この話はちゃんと情報提供者がいるんだよ。俺たちは取材にのっとって漫画を作ってるんだ!」


「何ですって!だったらその情報提供者の方を教えてください。直接話を聞きます!」


「馬鹿かてめえ!教えるわけがねえだろ!」


「どうしてですか!?」


「『情報源の秘匿』っていう言葉を知らねえのか?メディアは情報提供者の身元を守らなくちゃならねえんだよ!」


「そんな!でもここに描かれているのは嘘ばっかりです。本人の私が言うんだから間違いありません!」


「そんなこと俺たちは知らねえよ!こちとらちゃんと《真実相当性あり》と判断してるんだ!てめえのお気持ち表明なんてクソくらえだ!」


「《真実相当性》なんてそっちの勝手な判断じゃないですか!違うものは違うんです!」


「吸血鬼のお姫さんよ!このまま言い争っても時間の無駄ってもんだぜ!これ以上俺たちの仕事邪魔するなら、出るとこ出たっていいんだぜ!」


(なんて人だろう……謝るどころか開き直って屁理屈ばかり言ってくる……一体どうすれば……)


真壁は顎をしゃくって不遜な表情で上から睨みつけてくる。


カルミ―ナは拳をぎゅっと握り締めながらも言葉が出ない。



真壁がニヤリと笑って「おい、純一!パンダ!お姫様はお帰りだとよ」と言いかけたその時であった。


入口のドアがバァンと開いた。


そして中に入ってきた男を見て真壁は目玉が飛び出そうになった。


パンダとじゅんちゃんはヘナヘナとして腰が崩れ、二人とも床にペタンと座り込んだ。



カルミ―ナも両手を口に当てて目を見開く。


「泰造さん!?」



そんな彼女をよそに、碇谷泰造は両手をポケットに入れたまま、仁王の様な表情でズカズカと真壁に近づいた。


そして彼のおでこに自分のおでこをごつんとぶつけた。


そのままグリグリと真壁の顔を押しやり、彼の後頭部を壁に押し付ける。


「竜司……てめえ……いつからそんなに偉そうになったんだ?」


「い、いて、いでで!総長……なんで……」


「総長じゃねえ!いい加減その呼び名はやめな!」


「お、押忍!でも俺達は……因縁をつけてくる吸血鬼の相手をしてるだけなんです!」


「そいつはうちの客人なんだよ!」


「え!」


真壁は半泣き顔で、肘を張り両手を腰に当てるカルミ―ナを見た。


「まあ……居候とも言うが……とにかく俺の身内だ!そいつの事を漫画で嘘八百並べやがって……覚悟しやがれ!」


「ま、待って下さい!嘘じゃありません……多少……アレンジは入ってますが……」


「ああん!アレンジだと!笑わせんな!俺はいつもこいつの仕事の愚痴を聞かされてんだよ!あの内容はねえだろよ!」


「ひ!すみません……」


泰造は、真壁と目と目が触れ合いそうな距離で睨みつけ、デコ押しの力を強めた。


「あぎ!痛で……痛えよう……」


「すぐに謝罪と訂正しやがれ!」


「わ……分かりました……」


「いつやる?」


「その……出来るだけ……早く……」


「次週号でやれ!」


「お、押忍!」


「竜司……もっとちゃんとやれよ!てめえが下らねえ事すると業界全体が冷や水を浴びちまうじゃねえか」


「…………」


泰造は黙り込んだ真壁からでこを外すと、床にへたり込んでいるパンダとじゅんちゃんに顔を向けた。

 

「純一!パンダ!」


「押忍!」

「ひい!」


「お前らもいっぱしの漫画家ならよう、編集の言いなりにばかりなってないで、自分らの漫画を描いてみろ!」


「う、うす!」

「分かったパンダ!」



泰造は、固まっている二人を一瞥してから踵を返して出口へと向いた。


「カル、帰るぞ」 


「え!は、はい……」


カルミ―ナは足早に部屋を出て行く泰造の後ろに慌ててついて行った。





次回  泰造の過去~修正漫画の掲載













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。