表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

戦慄の学園生活

「星野さん、こっちの席空いてるよ!」

「どこから来たの?」

「好きな食べ物は!?」


休み時間になると、可憐な転校生・くるみの周りには一斉にクラスメイトが群がった。


「あ、ええと……」


くるみは愛想笑いを浮かべながら、必死に彼らの背後にある「異様な気配」に耐えていた。


(モコ、やっぱりこの人たちおかしいわ。質問攻めにしてくるけど、視線が獲物を狙うハンターみたい……!)

『くるみ、耐えるんだモコ。今は目立たず調査に徹するんだモコ』




そんな喧騒の中、くるみはふと窓際を見た。

そこに座る少年、佐藤和希(さとうかずき)だけは、周囲の盛り上がりなど一切目に入っていない様子で、猛烈な勢いでノートにペンを走らせている。


(……やっぱり、あの人だけだわ。この魔境のような教室で、唯一、私に興味も敵意も持たず、自分の世界に閉じこもっている「()()」の人……)


くるみは、救いを求めるように、勇気を出して和希の席へと歩み寄った。


「あの、佐藤君……? 私、星野です。これからよろしくね」


精一杯の笑顔で話しかける。だが、和希からの返事はない。


「…………」


和希は眉間にしわを寄せ、ブツブツと「……いや、ここはもっとルナの葛藤を出すべきか……」と独り言を漏らし、くるみの存在にすら気づいていない。


(えっ……無視!? 私、今、完璧な転校生スマイルで話しかけたわよね……?)


くるみは困惑した。自分の魅力が通じないどころか、認識すらされていない。

隣の席の彰人は、そんな彼女を「悪いな、こいつ今『執筆モード』なんだ……」という、ひどく疲れ果てたような、同情の入り混じった目で見守っていた。







「悪い、和希! 今日はバイトが早番なんだ。先に失礼するわ!」


彰人が、耳のイヤホンを気にしながら慌ただしく教室を飛び出していく。


「おう、お疲れ彰人。俺もあと少しでキリがいいから、すぐ帰るよ」


和希はノートを広げたまま、最後の一文を書き込むことに集中している。

教室には、まだ残っている生徒も数人いたが、くるみもまた、忘れ物をしたフリをして和希の出方を伺っていた。


「……あ、晩飯のパン買うの忘れてた。学食の自販機まだ生きてるかな」


和希は不意に立ち上がると、愛用のノートを机に開いたまま、フラリと教室を出ていった。


「今よ……」


くるみは、吸い寄せられるように和希の机へと歩み寄った。

彼がこれほどまでに没頭していた「創作」とは一体何なのか。唯一の一般人である彼の、頭の中を覗いてみたくなったのだ。


だが、ページを覗き込んだ瞬間。



くるみの全身から、血の気が引いた。



そこには、可愛いステッキの挿絵と共に、とある魔法少女の設定が書き連ねられていた。



【魔法少女プリズム・ルナの設定案】

・導入:街に蔓延る『影の魔人』を倒す魔法少女。


・昨夜の展開:駅裏の廃倉庫での初陣。必殺技『ルナティック・レイ』を放つが、反動で右腕が筋肉痛になるというドジっ子属性を追加。


・小物:変身アイテムのコンパクトは、普段は筆箱の底に隠している。




「……な、な……っ!?」


くるみは、自分の右腕をさすりながら、ガタガタと震え出した。

昨夜の戦いの場所、技の名前、そして筋肉痛。さらには、自分以外は妖精のモコしか知らない「コンパクトの隠し場所」まで。


「……どうして……? 誰にも、言ってないのに……。ただの『創作ノート』に、どうして私のことが……」


和希のノートは、彼女にとって「楽しいファンタジー」ではなく、「自分のプライバシーがなぜか完全に筒抜けになっている、理解不能な物」に変貌した。



「ふぅー、ギリギリ売り切れてなかったぜ」


自販機のパンを両手に持ちながら、和希が戻ってきた。

その能天気な笑顔。だが、今のくるみには、その笑顔が「すべてを見透かしている上位存在」の微笑みにしか見えなかった。

和希は自分の席に座ると、くるみがさっきまで覗き込んでいたノートを平然と手に取り、くるみに向かって明るく話しかけた。


「あ、星野さん。まだいたんだ。……ねえ、ちょっと聞いてよ」


そう言いいながら和希はノートの1ページ目をパラパラとめくった。


「君さ、さっきの自己紹介で『複雑な事情』って言ってたろ? あのフレーズ、すごくインスピレーションを刺激されたんだ。……で、さっき歩きながら思いついたんだけど」


和希は、くるみの心臓を素手で握りつぶすかのような「アイディア」を、あくまで「()()()()()()()()()()()()()()」として口にする。


「その『複雑な事情』の正体がさ、実は『()()()()()()()()()()()()()()()』……だったりしたら、めちゃくちゃ熱くない? ほら、このノートに書いてる『プリズム・ルナ』みたいなさ!」



「………………は?」



くるみの思考が、完全に停止した。

自分の正体。秘密。それらを、この少年は、今まさに「面白い思いつき」として、目の前で提示している。


(……この人、今……私の正体を、何でもない『ネタ』みたいに言い当てた……!?)


くるみは、和希という少年の「あまりにも精度の高すぎる偶然」に、底知れない恐怖を覚えた。


「……あ、やっぱりだめかな? いきなり魔法少女とか、突拍子もないよな」

「そ、そんなことないよ……! とても……その、センスがあると思うわ……」


くるみは震える声で精一杯の賛辞を贈った。もしここで「当たっている」と認めたら、自分の正体がバレてしまう。だが、この「偶然」が重なりすぎている少年の前で、下手に嘘をつくのも恐ろしかった。


「おっ、マジ? 君、わかってるじゃん! 気に入ったよ!」


和希はガッツポーズを決め、再び猛烈な勢いでノートにペンを走らせる。


「いやー、いいキャラになりそうだぞ、ルナ!」


くるみは、その背中を見つめながら、冷や汗が止まらなかった。

この教室の、あの恐ろしい気配を放つクラスメイトたち。そして、彼らの中心で、ただ一人「普通」でありながら、恐るべき的中率で正解を言い当てる少年。


(……このクラス、やっぱりおかしいわ。私、とんでもないところに転校してきちゃったのかも……!)


こうして、魔法少女星野くるみの、戦慄の学園生活が幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ