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新たな物語

「……よし。やっぱりこれからは『魔法少女』の時代だよな」



窓際の席。和希(かずき)は昨日までの「異能バトルもの」のノートとは別の、少し表紙が華やかな新しいノートを開いていた。

シャーペンを走らせる音とともに、可愛らしいステッキのラフスケッチと、設定が書き込まれていく。



「名前は……『魔法少女プリズム・ルナ』。現代の闇を浄化するために、不思議な妖精・モコと契約して……。王道だけど、これが一番熱いんだ」



隣の席で、彰人(あきと)はその様子を横目で見ていた。

ここ数日、自分の任務が和希のノート通りに進むという怪現象に胃を焼かれていた彰人だったが、その「新作」を見て、少しだけ安堵の息を漏らした。


(……魔法少女、か。流石にこれは、俺の任務とは関係なさそうだな)


これまでは、モデルが自分アキトだったから的中していただけ。和希が全く新しい、縁もゆかりもないファンタジーを書き始めたのなら、流石にそれが現実に影響することはないだろう。

彰人は、ようやく訪れた「平穏な日常」を噛み締めるように、背もたれに体を預けた。



「和希。お前、今度は魔法少女かよ。相変わらず節操ないな」

「いいだろ? 創作は自由なんだよ。ほら、見てくれよこの設定。第1話は、このクラスに『運命の転校生』としてやってくるシーンから始まるんだ。……転校生って、物語の導入として最高だよな」

「はは、そうだな。……ま、そんな都合よく美少女が転校してくるわけ――」



その時だった。


ガラリ、と教室の前方の扉が開いた。



「えー、急だが、今日からこのクラスに新しい仲間が加わることになった」


担任の言葉に、教室がざわめく。彰人の心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。

教壇に立ったのは、和希の魔法少女の設定をそのまま三次元に落とし込んだような、可憐な少女だった。



「星野くるみです。少し複雑な事情で転校してきました。……よろしくお願いします」



「…………は?」


彰人の口から、魂の抜けたような声が漏れた。

だが、隣の和希は教壇の少女など一瞥しただけで、再び猛烈な勢いでノートにペンを走らせている。



「うおおお、いいぞ! 今の転校生の『少し複雑な事情』ってフレーズ、最高にミステリアスで魔法少女っぽい! いただき!」


和希は、現実の少女が自分の書いた設定に合致していることに驚くどころか、「創作に使えるリアルな素材」が目の前に現れた程度の認識で、自分の世界に没頭している。

彰人は、震える手で和希のノートを覗き込んだ。そこには、今まさに教壇で頭を下げた少女の自己紹介文と全く同じセリフが、数分前に書かれた筆跡で刻まれていた。



教壇に立つ星野くるみは、冷や汗を流していた。

彼女の肩には、普通の人間には見えない小さなぬいぐるみのような妖精、モコが乗っている。


(ねえモコ……。このクラス、何なの……?)

『……くるみ、気を引き締めるんだモコ。この教室は、異常だモコ。あちこちから、説明のつかない「力」の残滓が漂ってるモコ』


くるみの視界には、クラスメイトたちが、歪んだオーラとして映し出されていた。


まず、窓際の席で死んだ魚の目をしている男子(彰人)。彼からは、空間そのものを削り取るような鋭利な魔力。

そして、その後ろで優雅に読書をしている学級委員長。彼は周囲に爽やかな笑顔を振りまく「完璧なイケメン」だが、その内側には、一国を照らし出すほどの圧倒的な聖光のオーラが渦巻いている。


(あっちの、居眠りしている女子は……?)


豪快に「いびき」をかいて寝ている体育会系の女子。しかし、その体からは爆発的な『気』が漏れ出している。身体強化を極めた、純粋な武の体現者のような威圧感だ。

その隣では、草食系で優しそうな男子が、困ったように彼女を起こそうとしている。だが、彼の周囲には無数の「獣」の気配が揺らめき、彼を護るように付き従っていた。


(あの二人……何かしら強力な加護を受けている……!? それに、あっちの人は……)


極めつけは、窓の外を儚げな表情で眺めている美少年だ。

一見、病弱そうにすら見えるが、モコは彼の背後に、生者が決して触れてはならない、おぞましいほど夥しい「何か」の気配を察知し、震えていた。


(……どうなってるの!? 闇の力の源を調査しに来たはずなのに、クラスメイトのほとんどが、何かしら「ヤバい力」を持ってるじゃない!?)


どこを向いても、自分の手に負えるような相手がいない。くるみが感じていた「現代の歪み」の正体は、これほどまでの異常な存在たちが一箇所に集まりすぎていることによる、次元の過負荷だったのだ。



そんな恐怖のるつぼのような教室の中で、たった一人。

窓際で楽しそうにノートを書き殴っている、あの佐藤和希という少年だけが、完全なる「無」だった。


(……あの人だけだわ。あの人だけが、この魔境の中で唯一、何の力も持たない「普通の人間」だわ……!)


くるみは、安堵からくる震えを抑えながら、和希の斜め後ろの席へと歩き出した。


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