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無口なパルクーラーは眠らない街を翔ける  作者: 狐のボタン


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6/7

乙女のケジメ



栗生一家の横流し事件の後処理も終わり、一家の者全員にケジメもつけさせた。

末端にいて、斑鳩(うち)からの仕事だと信じていた者や、何をしていたのさえ理解していなかった者は斑鳩(うち)で面倒見ることになったけど、わかった上で動いていた人間は全員に処分が下り、スッキリとした。


中央倉庫の方も備蓄が復活し、一番の問題だった血液パックも各病院へ不足なく配分できる様に整えられた。

栗生一家が姑息だったのは、斑鳩(うち)の経営している病院へは極力配分を減らさないようにしてカモフラージュしてた所だろうか。

最近はそこにさえ手をつけ始めたものだから、麗奈姉さんが辿るのも楽だったらしい。

人間、欲が出ると手を出してはいけない所にまでいずれ踏み込む。命取りになるとも知らずに…。


神楽側には斑鳩(うち)から直接ある程度の支援をすると伝えて、丸く収めた。

そもそも栗生の奴ら、勝手に斑鳩(うち)の名前を使って取引してたし…。しかもかなりの暴利で。

まあ、そんな訳だから栗生には相当厳しい罰が下ったのは言うまでもない。



2週間程かかったけど一通りのケジメもつき…。

今度は私がケジメをつけなくてはいけない。

なので、今日はバッチリお洒落をして、昼間から例のカフェへ歩いて向かう。

まさかスカートで翔び回るわけにいかないもの。一応、ワイヤーフックとかは着けているけど、緊急でもなければ使うつもりもない。

見えてもいいよう対策をしているとはいえ、乙女として越えてはいけない一線という物があるの!


地下への階段を降りて、カフェへと入る。

オーナーにお辞儀をして、奥の席へと向かう。

そこには私が会いにきた相手が座っていて、食事の真っ最中。

家の者を使って、今ここにいるのを把握した上で来たのだからいるのは当たり前。


「相席いいかな?」

声をかけるも、振り返りもしなければ驚いた様子もない。

「…まだ何か用?」

ぶっきらぼうにそう返事をされて悲しくなるけど、ここで引くわけにはいかない。


「報告だよ。ナオのおかげで知れた事にカタがついたからね」

「そう。聞かせて…」

相席も許可されたと判断して、向かいの席へ座る。


「先ずは謝らせて。そちらの事情も理解しようとしないまま無神経に勧誘してごめんなさい」

「……どうなったの」

報告にしか興味ないのね…。


一家の不祥事を話すのは恥でしかないけど、ナオには知る権利があると思い、隠すことなく説明をする。

私が話している間も食事の手を止めもせず、相槌さえうたない。もっと言ったら私の顔を見ようともしない。

ここまで話していて手応えのない人も珍しい。立場上、怯えて話にならないっていう相手なら対面した経験あるけど。


「……という訳で、既に中央倉庫の備蓄も、各病院の備蓄も潤沢になったよ」

「…知ってる」

「その割に不機嫌なのは何で?」

「本当にバカだなアンタ」

イッラァ……。一度ならず二度までも! 何が気に入らないのよこの人は!


ダメだ、私がここへ来た目的を忘れてはいけない…。落ち着け麗亜。

「人助けしたかったのよね?これで叶ったんじゃないの?」

「ボクの職が無くなった。前だってそう。アンタの家が広めたドローンのせいで運び屋としての職を失い、今回も何とかありついてた仕事も失った」

「はぁ!? それが私のせいだっていうの!?」

「違うとでも? ドローンが一気に増えたせいで何処も人件費の削減をして運び屋が職を無くした。アンタ達には些細な事なんだろうけど、こっちは死活問題」

「…っ! どうしろっていうのよ!」

「知らない。それを考えるのがアンタら権力者でしょ。なんで無職のボクに聞く?」

確かに斑鳩(うち)がドローンを普及させたよ。お陰で荷物の配達に遅延がなくなったし、交通量も減った。

結果的に街の渋滞も緩和されて、救急車両も走りやすくなった。悪いことなんてなにも…。


「どうせアンタ達にとってボクらみたいな底辺の人間が無職になろうが気にもしないんでしょ。広く見たら便利になった、それでいいって思ってる。違う?」

「違わ…ない…」

私は今、確かに広い目で見た利点しか思いつかなかった。


よくよく考えたらわかることだ。

交通量が減るという事は、つまり配送をしていたドライバーが職を失ったのと同義。

でもだからって…全ての人の職にまで気を配るなんて不可能だ。そう言って切り捨てた結果が目の前にいるナオで、この街にはそんな人が沢山いるのだろう。


家族のいる人だっていた筈だ。下手したら犯罪者として捕まえた人には、職を失い行き場も失って已む無く悪事へと手を染めた人もいるかもしれない。

この街の法を犯したのならどんな理由があっても正当化は出来ないけれど、根本の原因となった斑鳩(うち)の責任は?

多数の人は便利になった、助かったと答えてくれるだろう。

その影で悔しさに涙を流していた人に目を向けた事があったのだろうか…。

…姉さんに報告しておこう。

多分そこまで気にしていたらきりが無いと言われるのは間違いない。だけど…。私は知ってしまった。そういう人と出会ってしまった。

何かできることを探したっていい筈。一応それができる立場にいるんだから。


「ごめん…なさい…」

「ボクに謝られても困る」

そう…よね。

「…いや、僕もごめん。八つ当たりでしかないのに言い過ぎた…。救われる人もいるのに」

「ううん…ナオは間違ったことは言ってないもの。 本当はね、今日ケジメをつけるためにきたの。その上でもう一度ナオを勧誘したかったから」

「…ケジメ?そっちの世界だと指とか…?いらないけど…」

「ごめんなさい、エンコ詰めだけは勘弁して。仕事柄、手に力が入らなくなるのは困るから」

「ああ…小指がないだけで握力が損なわれるとか聞いたことある。確かにボクらには致命的」

「そう。だから別のものだよ」

「金とか言うなら本気で怒る。大変なのは僕だけじゃないんだ。受け取れるわけがない」

「ううん。私が個人で唯一あげられて、女にとって一生に一度だけのもの。これでも斑鳩の娘だから、そこらの娘より価値はあると思うよ。自惚れと言われたらそれまでだけどね」

「まさか…」

「考えてる通りのものだと思う。私は無神経にナオを傷つけた…。その上で街にとって大切なことを気付かせてももらった。だから…」

「アンタ、やっぱりバカでしょ。好きでもない相手にそんな大切なもの差し出すの?」

「…好きだよ。ナオの事。一目惚れだった。だから探してたんだもん」

「はぁ!? え…ちょ…嘘…」

初めて取り乱した姿を見れた。ちょっと可愛い…。


「それとも私に興味ない?価値がないかな…?」

「待って、待って…! 整理させて!」

「うん。いくらでも待つよ」

ナオは食事の手を止めたまま、顔を赤くしてあわててる。

この様子だと、脈無しって訳でも無さそうね。


「仮にボクがアンタのソレを貰ったとして、その後どうなる?」

「別に何も? ケジメだからね。妊娠しても責任を取らせるつもりもない。一人で育てます」

「そうじゃなくて! その…付き合うとかそういうのは…」

「もちろん彼女にしてくれるなら嬉しいよ。私はナオに惚れてるからね。 でも無理強いはしない」

「うーー……」

斑鳩(うち)の決まりで操を捧げた相手と添い遂げるってのがあるけど、家には行きずりの相手と適当に寝たって報告するから心配しなくていいよ。絶対にナオの名前は出さない。私の名前に誓って」

「大丈夫なの、それ…」

「ナオが心配する必要ないよ。これは私個人のケジメだからね」

下手したら斑鳩から縁を切られるだろう。街からも追放されるかもしれない。でも、常にそれくらいの覚悟がなきゃこの世界でやっていけない。私が身を置いているのはそういう世界。

今回もそう。身を切る思いで誠意を示さなくては意味がないのだから。


「やっぱりアンタはバカだ!」

「ごめんなさい…。でも他に私があげられるものなんてないの。ナオは金や物で動く人じゃないでしょ」

「だからって…」

「少しでもナオの気を引けるよう、こうやってオシャレもしてきた。勝負下着だって頑張って…」

「ストップ! 言わなくていいから。ああもう! 厄介なやつに目をつけられたとは思ってたけど想像以上だった!」

「部屋も手配してあるから行こう?」

「だから待てって! 勘違いしないで欲しいんだけど、アンタに価値がないと言ってる訳じゃないから。単に困るって言うか…」

「うん?別に責任取らせたりしないって言ったよね?ヤッて捨てていってくれてもいい」

「そこじゃない。 ボクも初めてだし…」

「私でも知識くらいはあるよ?」

「だーかーらー! あーもう! チームに入る! それでいいでしょ」

「ごめん、ナオは男の子だからUiには入れられない決まりなの。下部組織への加入なら歓迎するよ」

「ほんとさぁ…。なんなんだよ。勧誘しといて入れられないって…」

「だって直接会うまで性別わかんなかったし」

アップデートされた端末の機能でナオの個人情報を確認したから、男の子なのも確認済み。犯罪歴もない。この街のダウンタウンで暮らしてて一切の犯罪歴がないなんて珍しいくらいだ。


「性別わかんないのに惚れたの!?」

「うん。この私を軽々と追い抜いていった姿に惚れた。女の子だったとしても口説いてたと思う」

「別にそーゆーのを否定はしないけど、じゃあどうしたらいいんだよボクは!」

どうって…。さっきからずっと言ってるよね?


「キョトンとしないで」

「だって…私を好きにしていいってずっと言ってるのに。何回同じ説明をしたらいいのよ。詳しく何をするか言わないとわかんないとかなの?」

「違う! ボクは付き合ってもない相手と寝るつもりなんてないの!」

「じゃあ付き合って?」

「…わかった! わかったから! ちゃんと付き合ってお互い本当に好き合う様になったらでいい?」

「私に得しかないけど…いいの?」

「いいの!」

「あ、そうだ。下部組織でも給料はしっかり出るし、装備も最新のものを支給するよ」

「…興味本位で聞くけど、給料っていくらだしてるの?」

「月に固定で五十。プラスで危険手当が五割加算。成果報酬は天井無し。怪我したら治療費は全額こちらが負担。休みは当日にでも一言くれれば自由だよ」

「うっそだろ…これがチームUiか…」

なにかおかしなこと言ったかな?









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