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07話 アクロイア聖碑に待つ女魔導士

 猫又と兎娘の戦いは、すさまじく高レベルな技の応酬だった。

 超高速の手刀や蹴脚が交差し、足場の悪い岩山をすごいスピードで跳ね回る。


 「すごいすごい! おやつ、あんなに強かったんだ」


 「とんでもないヤツラだな。あれではいかに騎士団といえども、かなうはずがない。どこの達人だ」


 「見どころのある戦いではあるが……時間がない。マリ姉という魔導士の元へ急ごう」


 つい引き込まれるような猫又とウサ耳娘の戦いの観戦を打ち切り、俺とアンダースンとステラは先を急ごうとしたのだが。


 「ウサッ! ウサッ! ウササッ!」


 「あ、ちょっと待ってウササ。ルバル君に大事な言伝があるんだ」


 「ウサッ! 早くするウサ」


 待ってやるのかよ。お前らは何のために戦っているんだ。

 戦いを中断した猫又は、岩場をピョンピョン跳ねながらこちらへ来た。


 「行くのかい、マリ姉のところへ」


 「ああ。封印が解かれる前に行かなきゃ意味がないからな。長引くだろ?」


 「まぁね。互いに手の内は知り尽くしているから、勝負をつけるのは難しいかな」


 「ってことだ。マリ姉とやらに話をつけてくる。いちおう聞くが、そのマリ姉は話を聞いてくれるタイプか?」


 「ボクたちの言うことなら、たいていは聞いてくれるよ。都合の良い女扱いして悪いくらいだ」


 「そりゃ女神様みたいな女だな。世界を滅ぼす大魔族なんかを解き放とうなんてしなけりゃな」


 「で、あのさ。ステラちゃん………」


 なんだ、ステラを前にゴニョゴニョして。離れるのが寂しいのか。

 と、待っているウサ耳の方から何やらたわ言が聞こえてきた。


 ――「群青の空に君はなにを見る。ウサは帰らないあの子の姿。現れては消え、消えては現れ。ああ、せめてウサのチキンハートが冷める前に。涙にぬれて眠る前に」


 「おっと、ウササが寂しさのポエムを詠いだした。早く戻らないと」


 『そのままポエム朗読させておけ』と言いかけたが、こいつらの行動は読めなさすぎる。なにが原因でまた敵にまわるか知れん。俺たちだけで行った方がいいか。


 「んじゃ、忠告をひとつだけ。ステラちゃんはマリ姉に会わせない方が良いかもしれない」


 「あん? なぜだ」


 ステラは交渉の鬼札。会わせないとか、あり得ないが。


 「マリ姉、男より女の子の方が好きなんだけどね」


 ほほう、よけいステラが効きそうだ。


 「その中でも男っぽい女の子が大好き。変な趣味だけどね」


 ド真ん中にステラにじゃねぇか! こりゃ楽に話をつけられそうだ。


 「マリ姉はすごく頼りになる人だけど、ステラちゃんを見せて理性がブッ飛んだらどうなるか。ちょっと危ないかもだから、ステラちゃんは隠れてて」


 む。理性がブッ飛んで危ないのか。コイツが言うくらいなら相当だな。

 たしかに効きすぎるリスクも考えておくべきかもしれん。

 

 「じゃ、がんばってね。『ボクは解放するのに反対にまわる』って言ったら、やめてくれると思うから」


 「な、なんだと!?」


 猫又はふたたび兎耳娘との戦いにもどる。

 その背中を見送ってポツリ呟く。


 「どうやら、すべての元凶はあの猫又だったみてぇだな。アイツが大魔族と戦いたいがために、今回の事件は起こったわけだ」


 「そうか。なら、魔導士との話合いは楽に進むかもな」


 「ま、油断せずに行きましょう。それとステラ。交渉の場では、お前は隠れてろよ」


 「ええっ、どうして?」


 「猫又が『危ない』と言っているんだ。忠告を聞かんわけにはいかんだろう」


 「そうか……うん、そうだよね」


 とにかくステラ抜きで話をしてみる。交渉が難航したならステラを出す。

 これでいこう。



 岩場の階段を上りきり、その山頂へたどり着くと、そこには大きな祭壇があった。大きな岩に幾何学的な魔方陣が描かれ、いかにも何かが封印されていそうなそれ。これがアクロイア聖碑か。


 そしてその前にはテーブルと椅子が置いてあり、そこに腰掛けている女が一人。

 大きな帽子をかぶり右目に眼帯。着ている衣装は派手な赤色でミニスカート。そんな恰好も痛々しく見えないほどには若い。


 いくら魔導士が見かけより若く見えるといっても、これは若すぎだろう。大して修行もしていない雑魚魔導士なはずだが、こんな大それたことをした賊のリーダー格だ。雑魚なはずはないが。


 とにかく行くか。予定通りステラは階段下の岩場に隠れてもらい、俺とアンダースンはその女のもとへ歩み寄る。


 「アンタがマリ姉だな。話をしに来た」


 「言葉に気をつけなさい。そう呼んでいいのは、おやつとウササだけよ」


 「そいつは失礼。たしかにアンタは俺の姉貴でも姉貴分でもないしな。じゃあ何と呼べば?」


 「あたしは魔導士【マリンジェゼータ】。マリンとでも呼びなさい」


 「魔導士マリンジェゼータ………だと?」


 「どうしました、アンダースン様。知っているんですか?」


 「いや……先代伯爵閣下の真竜退治の記録にその名があるのだ。真竜退治には、騎士団の他に複数の冒険者パーティーも斥候で参加した。その中に、その名の魔導士がリーダーだったパーティーもいたらしい」


 「そうか。アンタはそいつの名を継いだ血縁者か弟子かか?」


 「こちらのことを探るのはやめなさい。そんなことを聞きに来たわけじゃないでしょう?」


 あわよくば連中が何者なのか聞き出せたら、とは思ったが。そんなに甘くはないか。

 ならば仕事に入ろう。


 「そうだな。まずは、アンタが手掛けている大魔族復活を止めなきゃなんねぇんだが。封印解除はどの程度まで進んだ?」


 「もう終わったわ。後は、おやつとウササを呼ぶだけだったんだけどね」


 「なにっ!?」


 コトリ

 マリンは小さな装置のようなものを出してテーブルに置いた。


 「このボタンを押せば、太極結界に施されている一切の魔導結界呪具は機能を停止する。希望者に口火を切ってもらうために、こういう形にしたわ」


 マリンは意地悪な顔で、指でボタンをスリスリ撫でまわす。

 チッ、心臓に悪い光景だ。


 だが落ち着け。事態がそこまで来たのなら、そのボタンを押させないよう交渉するまでだ。

 それに確認しなきゃならない事はもう一つある。まずはそれを聞き出してからだ。


 「もう一つ聞きたい。こちらにウチの若……領主様の坊ちゃんがいらっしゃるはずだ。生きているんだろう?」


 「ええ、いるわよ。ほらっ」


 ゴゴゴゴ…………

 岩山の一部が消えてそこに空間が出来た。おそらくは幻術でそう見せていたのだろう。

 そこには十数人の軽鎧を身につけた男たちが身動きを封じられてそこにいた。


 「これだけの幻術に、あれだけの人数を捕える封印結界。とんでもねぇ大魔導士様だな、アンタ」


 「うっ、見ろルバル! 若だけでなく、騎士団の皆もいるぞ!」


 「若だけでなく騎士団の連中も生かしてくれたのか。優しいんだな、あんた」


 「別に。大魔族の封印を解いたら、とりあえず最初にぶつけてみようかと思って生かしておいたの。実力を測るには役に立つでしょ?」


 チッ、やっぱロクでもねぇな。こいつら。

 だがまぁ問答無用で殺しにかかる奴を見てきたせいか、最悪とまでは思えない。

 敵として考えるなら十分優しいし、つけこむ隙もありそうだ。

 とにかく相手の手札は確認した。今度はこちらの手札を出す番だ。


 「マリン、俺たちは交渉に来た。その大魔族解放を中止し、かつ若と騎士団の身柄をもらい受けたい」


 さぁ、交渉開始だ。



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