06話 兎娘のウササ
「それで、大魔族の封印を解くのはやめてくれるんだね?」
「うん、ステラちゃんが『やめてほしい』って言うなら、ボクがやめさせるよ」
「人質の若さまは?」
「聖碑の近くに置いている。マリ姉の近くだね」
ステラがどうにか交渉内容を伝えた後は話が早かった。
もともと強い信念や目的でやろうとしてたわけではないから、あっさり諦めたのだ。
「うーん。でもマリ姉、大魔族の封印を解くのはノリノリだったからなぁ。素直にやめてくれるかどうか。ダメなら腕づくしかないけど」
大剣をブンと振り回す。頼もしすぎる奴が仲間になった。
どうやら『マリ姉』と呼ばれているのが魔導士の名前だそうだ。その女がリーダー格にして大魔族の封印の解除を担当しているらしい。
「まずは聖碑の手前を守っているウササからだね。あの子、ちょっとおかしいから話を聞いてくれるかアヤしいけど」
お前もそうだったからな。この猫又が『おかしい』と言うからには、相当なヤツだろう。
猫又はスタスタと先導して歩いてゆく。俺も少しでも情報を得ようと、猫又の後を追う。
後ろのアンダースンがステラとイチャコラしているのは気になるが。
「で、どんなヤツなんだ。そいつは」
「名前は【ウサダ・ウササ】。ウサ耳族ウサダ落の娘で格闘家。あとポエムと人参が大好き」
「名前がウサウサうざい奴だな」
「お、ルバルくんスルドイ。さては仕事がデキるね」
「あん? なにがだ」
「あの子、ウサ耳族なまりがひどくってね。長く話してて『ウサウサうざい』と思わない奴はいない」
「で、強いのか。そいつは」
「ボクと同じくらいには。あの子に当てるのはボクでも苦労するから、ルバルくんじゃかすりもしないね」
「そんな相手がいるなら退屈なんてしないだろ。二人で仲良くやり合ってろよ」
「飽きちゃった。いい加減新しいシゲキが欲しくなってね。故郷の岩山にすごく強い魔族が封印されているウワサを聞いて帰ってきたんだ」
「故郷? お前ら、ここの出身なのか」
「おっと、しゃべり過ぎた。これ以上は話せないかな」
しかしこの猫又と互角ねぇ。
ネコ耳族もウサ耳族も素早さには定評があるものの、そこまで戦闘力のある種族じゃないはずだ。いったいこいつらは、どこでこれだけの力を身につけたんだ。
「さて、そろそろあの子のエリアか。耳をふさいでおかないと」
「どういうことだ?」
「あの子のゲームセレモニー、ちょっと苦手なんだ」
ともかくも、聖碑手前のエリアに足を踏み入れる。
すると上からデカい声が響いてきた。
――「ウサササササササッ、ウサーッササササササ! よく来た狩人の諸君!」
うわぁ、これ笑い声か? 本当にウサウサうざい。
それになんてカン高い声だ。酒場の姉ちゃんが酔っぱらってハイになった時みたいだ。
「ウサは今宵きみたちの獲物。ハントゲームの野兎にして主催者。ウサダ・ウサーサァァ!」
聖碑に続く階段の上に、一人の兎の耳をしたの女がショーのセレモニー主催者のように笑顔を振りまいて待ち構えていた。正気か。
「さぁ狩人たちよ。君たちの目指すアクロイア聖碑はこのすぐ先だ。通りたくば、このウササの門を破れ! 通れ! 今宵の月が赤く染まる前に。大いなる魔が世界を闇へと堕とす前に。戦士よ、飛べ!」
本当に、たわ言みてぇなポエムを言うやつだな。
これを聞かされて挑んで死んでいった連中は屈辱すぎる。
「前の討伐じゃ、俺と冒険者仲間がお前を足止めしてる間に、若ひきいる騎士団の主力が聖碑を占拠する手筈だった。ここで全滅したのか?」
「そうだね。聖碑に行くにはあの階段を上がらなきゃならないけど、当然あの子は邪魔をする。足場が制限されるこの場じゃ、たとえ只人がどれだけ強くても、あの子の敵じゃないだろうね」
「そうか……それで剣聖スキルを持っていた若もやられたのか」
「あ、それは関係ない。たぶん普通の足場であっても、あの程度じゃボクやあの子の敵じゃないと思うよ」
「大きく出たな。あのスキルは真竜を倒したスキルだぞ」
「でも、その若が倒したわけじゃない。どんな優れたスキルも、戦いの流れを掴み弱い場所を的確に突かなけりゃ、強い奴を倒せるわけがない。あの若は素人だったよ」
あ、わかる。たしかに戦いの流れをつかめない奴は簡単に死ぬ。
剣聖スキルも、戦いの経験までは与えてくれないのか。
――「おーい、兄ちゃん」
――「ルバル、どうなっている」
おっと、ステラとアンダースンが追いついたか。
「見ての通りだ。あの階段の向こうに聖碑はある。しかし、あのウサ耳が通してくれないそうだ。アイツは猫又と互角の強さがあるらしいし、岩場の足場じゃ俺に勝ち目はない。猫又に頼むしかないな」
「おやつ、頼める?」
「うん、まかせてステラちゃん。ウササの悪ノリを止めてくる」
「ふにゃり」と猫又の顔が乙女になる。乙女な猫又は何度見ても違和感だらけだ。
猫又はスタスタと階段下に行き、ウサ耳に声をかける。
「おいーいウササ。ボクだ。おやつだ」
「ウサッ!? どうしたウサ、おやつ。山門の見張りはどうしたウサか?」
「それだけどね。ボクは大魔族復活はやめる。マリ姉を説得して復活の儀式を止めてもらおうと思っている」
「なんでウサぁ、おやつ! あんなに伝説の大魔族と戦うのを楽しみにしてたのに!」
「もっと楽しいことが出来たんだからしょうがない。大魔族なんかに暴れられて、デートできる場所が無くなったらつまらない。あとでニンジンあげるからマリ姉の説得に協力してよ」
「デデデデデデデ、デートだウサァ!? おやつ、お前まさかオトコが……」
「いや、男じゃないけどね。好きになった子が出来ちゃったんだ。だから……」
「ウササは雨になる」
「は?」
「パーティーの裏切者にどしゃ降りを喰らわす雨に! ウササとマリ姉の悲しみと無念を洗い流す雨に! おやつ、覚悟するウサ!」
ちっ、あくまで奴は大魔族を復活させる気か。
やはり女友達のノリで、ここまでやった訳じゃなかったか。
「え? ウササ、そんなに大魔族を復活させたかったの? ボクとマリ姉につき合ってただけかと思っていた」
「つき合っただけウサ。ウササは別に大魔族の復活なんて大してこだわってないウサ」
…………はあアアアッ!!!?
「しかぁし! おやつよ。どんなショボイ男であろうと、イチャイチャしてウササとマリ姉を見下そうとする君のその根性。それは絶対ぜーったい許せない裏切りウサ!」
どうしてコイツらは、女友達のノリで世界滅亡の危機を起こそうとするんだ。
「しょうがないな、やっぱり腕づくか。おっと、こんなモノを使ってちゃあの子には追いつけない」
猫又は背中に背負っていた大剣を外して地面に置くと、もう然と階段を駆け上がる。
それに合わせ、空中からウサ耳が襲い掛かる。
猫又はそれに向かってジャンプし、空中で拳と拳、足技と足技が交差し、凄まじいバトルが始まった。
ドガァッ バギィ ダダダダダッ ズビシュウッ
「すごいな。なんなんだ、あの達人同士のバトルは」
「すごいすごい! おやつって、あんなに強かったんだ!」
「二人とも、このまま猫又とウサ耳の対決を見ててもしょうがない。今のうちに先に進むぞ」
「む? では行くのか」
「ああ。ウサ耳は大魔族復活にこだわりはないようだし、猫又と遊んでいる間は俺たちなどどうでもいいだろ。奥のマリ姉とやらに話をつけに行こう」
「しかし話を聞いてくれるか? 猫耳のいない私たちだけで」
「ステラがなんとかしてくれますよ。さっきからアンダースン様が体をさわりまくっている、そいつがね」
ったく、立場を利用してまさぐりまくりやがって。
この騎士、いったん理性がとんだら変態一直線だな。
ともかく俺たちは階段を上り、奥のアクロイア聖碑へと突き進むのであった。




