11話 マリンの告白。真竜退治の真実
少しアタシの過去について話すわ。
アタシは庶民の魔導士の家に生まれて親から魔術を習った、正規の魔導士でない、いわゆる野良魔導士。
小さいころから冒険者として活動して、やがて自分のパーティーを立ち上げ、地元のそこそこの冒険者リーダーになったわ。
ただお金の使い方が荒くってね。いつも借金まみれで、危険なクエストを引き受けなきゃならない時も多かったわ。
領主様自らが依頼主になった真竜退治もそのひとつ。
真竜なんて人間ごときに倒せるわけのない、いわば死にに行くようなクエストにも参加しなきゃならなかったのよ。
「いやちょっと待て。それって先代が成し遂げたそれか? ってことは、お前、いったいいくつなんだ?」
十七歳。あの日からずっとそう。
年のことなんか置いといて、とにかく全部聞きなさい。
真竜退治に行く冒険者パーティーの中にキリュウのパーティーもあったわ。
『キリュウは最強で狂っている』それが当時の評判だった。
とにかくハイレベルモンスターを倒すことに生きがいを持つような奴だったのよ。危険なモンスターが居ると聞けば、どれだけ危険であろうと倒しに行った。
パーティー仲間が傷つこうと死のうと、犠牲を厭わずクエストを達成し続けたわ。
結果、ほぼ最高位の冒険者級ミスリルにまでなったものの、あいつの元でメンバーになりたがる奴はいなかった。
だからアイツは奴隷を購入して使い捨てのメンバーにしていたわ。会うたびに違った奴隷を引き連れていた。そう、戦闘力にすぐれた獣人の奴隷をね。
「そうだったウサね。キリュウは尊敬してたけど、あのままあの人の元にいたら、ウササもおやつも、いつか死んでいたウサねぇ」
「お前らまで年齢不詳か。いったい何があって、その時代に生きてたお前らがこうしている」
それも話の中にあるから、おとなしく聞きなさい。
真竜退治の話に入るわ。
真竜は本当に怪物の中の怪物だった。すさまじいパワーと不死身の肉体。
作戦にあたった騎士団も冒険者もことごとく殺され喰われていったわ。
五十名をこえる犠牲を出しながらも、どうにかアタシたちは領主様の作戦通りに真竜を狩り場におびき寄せることに成功した。
あとは領主様の必殺の剣聖スキル【大切斬】で、倒すだけだった。
さすが名高い剣聖。もっとも弱いと思われる首のつけ根部分にそれを放ち、見事に当てた。
だけど倒せなかった。ウロコを数枚切り裂いただけに終わったわ。
あとで知ったんだけど、真竜っていうのは神の因子を持った最上位の竜。
人間の最高レベルの剣聖スキルも、その肉体を傷つけることなんて出来なかったのよ。
「はぁ? じゃあ誰がどうやってそれを倒したっていうんだ。真竜退治は、そのウロコや骨で作られたアイテムも出回っている、歴史的事実だぞ」
だからキリュウよ。いまその話をするから待ってなさい。
真竜討伐の作戦は完全に失敗。領主様は撤退を決断したものの、怒れる真竜の蹂躙は止まらず、誰かが殿になって足止めしなければ逃げられない状況だった。
で、その役を引き受けたのがキリュウとそのパーティーのおやつとウササ。それにアタシ。あと数名いたと思うけど、さすがに忘れたわ。
「アンタもか。そんなことをするタイプに見えないがな」
金は命より重いのよ。思えば領主様の執事がアタシの借金を引き受けてくれたのも、こういう場合に備えてのことだったのかしらね。
選ばれた誰しもがそこでの死を覚悟した中で、キリュウは言ったわ。
『足止めだけでなく倒してしまっても良いのだろう? 領主様を差し置いて悪いがな』
皮肉だと思った。誰もがそう思ったでしょうね。
でも、アイツは本当に倒してしまった。
真竜退治をほぼ一人で成し遂げてしまったのよ。
「どうやって? 剣聖の大技スキルは人間が出せる最大破壊の極致と聞く。それを上回るスキルでも持っていたのかよ」
アイツの力は物理的なものじゃないの。破壊したのは精神。キリュウは真竜に体が切断されるイメージを植え付けて、その心を殺したわ。
さて真竜を倒したものの、肉体はまだ生きている。そのまま放っておけば、やがて立ち直り再びの脅威になっていたでしょうね。
それまでの戦いで消耗し逃げる体力のないアタシ達は、どうしてもトドメを刺さなきゃならなかった。
だけど超硬度のウロコで覆われてるうえに、強力な再生能力を持ったブ厚い筋肉の壁を持つその肉体を破壊するすべは無かったわ。
「それでどうしたんだ。倒したことが事実である以上、どうにかしたんだろう」
外側からはどうしようもないなら、内側からやるしかない。体内ならウロコは無いし、筋肉の壁もずっと薄いから、やりようはあったわ。
「内側って………まさか口の中に入ったのか?」
ええ。他にどうしようもないでしょ。
「無茶なことを。大型モンスターの胃酸は強力だ。まる呑みした獲物が暴れる前に消化するためにな。よく無事でいられたものだ」
胃には近づかなかったからね。
体内に入ったのはアタシとキリュウとおやつとウササ。ここがアタシ達の最大の運命の分岐点になったわ。
当時のアタシのショボイ結界で、どうにか唾液の酸を防ぎつつ、長い首の食道から心臓に接近。キリュウの豪剣で心臓を破って倒したわ。
「いや待て。心臓を破った時に噴出する血は凄まじいイキオイのはずだ。ましてや竜の巨体から噴出するそれは、ちょっとした洪水だろう。どうやって無事だったんだ」
あー、無事じゃなかったわ。恥ずかしい話、アタシ達みんなそれを全然計算してなくってね。なすすべなく津波みたいな血液に呑まれてしまったわ。おぼれ死んだかも。
「死んでんじゃねぇか! まさか今までの話、壮大な大嘘なのか?」
この状況でそんなヒマなことするわけないでしょ。
アタシ達は全員竜の死体と血液の中から目を覚ましたわ。その時は奇跡的に生きてたって思っただけだったけどね。
でもそれは、アタシ達に宿った奇跡のほんの一端だったのよ。
真竜の心臓には神秘の力が宿っていた。それが神の因子。
それを切り裂きその血をあびたアタシたちは、その力の恩恵を受けることになったわ。
魔力、身体能力、生命力。すべてが人間を超えたものになっていた。
もっともハッキリそう感じたのは、それから二十年くらいたっても十七歳で通用しちゃって、さすがにおかしいと思ってからだけどね。
「もっと早く思え。十七歳で押し通さなきゃならないどんな必要があったんだ。それでキリュウってやつは、どうして封印なんか受けるハメになっていたんだ。それからおまえらはどうした?」
真竜は領主様が倒したってことにするって契約をして報酬をもらったら、アタシ達は即、領を出たわ。貴族様の秘密なんか知ったら、いつ消されるか知れないからね。
だけどキリュウだけは領主様に引き留められて残った。
真竜を倒したアイツに、もう一つの因子が宿ったのが原因でしょうね。
「それがあの姿か」
通常の人間よりひとまわり大きい体。
その全身にウロコがあり、頭には竜の角。そして竜の尻尾を生やしたその姿。
あの日以来、キリュウは竜人となった。




