10話 封印より目覚めし者
捕まっていた若と騎士団連中は、元気いっぱいに解き放たれた。
だけど、ちっとも嬉しくないのは何故だ。、
「賊どもめ! よくも誇り高きホロラドル伯爵騎士団をこのような目にあわせてくれたな!」
「解き放れた今こそ、このカリを返してくれる。覚悟するがいい!」
あーあ。元気なことだ。
こうもやる気と殺意にあふれた連中ってのは止まらないんだよな。俺の経験上。
そして、猫又とウサ耳もまたどこから出したのか剣と小剣を出して戦闘準備。
「やれやれ、もう戦う理由なんてないんだけど。死にたがりが多いみたいだし、相手しようか」
「マリ姉を守らなきゃならないウサ。当たった先から確実に仕留めるウサよ」
ハァ。こちらも殺る気満々だ。
そしてあいつらの強さを知る身としては、それが口先だけでないことも承知している。
このままでは騎士団は虐殺まつり。アクロイア聖碑は死体がゴロゴロ転がる地獄谷に早変わりだ。
隣のアンダースンは意を決したように言った。
「ルバル。しかたない、無理を承知で説得するか」
「ですね。ここで全滅なんてされたら、領主様は怒るでしょうしね」
そしてクエスト料も大幅に減額だ。ここまで命をかけてたどり着いたのに、そんなオチがついたら切なくってしょうがねぇ。
俺たちは騎士団の先頭に立って勇ましく鼓舞している若の元へと行った。
「若、ご帰還おめでとうございます」
「おおっ、ノエルか。それに冒険者のルバル。そなたらが我らを縛っていたいましめを解いたか? でかした。さぁ、そなたらも助力せい。あの賊どもを打ち倒すのだ!」
次期領主である若は、文字通り若くてしっかり鍛え上げられた体のイケメンだ。
しかし若さの勢いだけで、相手の強さを見切る力も、強敵に対する慎重さも持ち合わせていない。領民としては危うくってしょうがねぇ。
「残念ですが、それは出来ません。ヤゴーエフ伯爵閣下は彼女らとの交渉で事態を収拾する道を選びました」
「なにィ!!? バカな! わが領にこれほどの被害を与えた相手に、交渉で終わらせると言っているのか、父上は!」
「あー若。これほどの被害を与えた相手だからですよ。このまま通常の討伐を続けたら被害は拡大。その処理には十数年からかかります。領主様は和解ですませた方が実害が少ないと判断なされたんですよ」
「納得できるかぁ! 今こそ勝機! あの女魔導士は倒れておるのだぞ。我らの武勇。そして我の剣聖スキルをもってすれば、たった二人の賊など敵ではない。父上には勝利をもって、私が命にそむいた罪を謝罪する」
いや、魔導士以前にその二人にさんざんやられたじゃん。
アンタの剣聖スキルは相手にならないと言ってたし、勝利なんて無理だよ。無駄死にするだけならまだしも、クエスト料が大幅に減額されるのだけは許せねぇ。
「それが上手くいったとしても、俺ら冒険者にクエスト料は入りませんからね。依頼内容のない事に命はかけられません」
「ええい、ならばルバルには期待せん! ノエル、貴様は助力するだろう」
「若、どうかここは耐えてください。ヤゴーエフ伯爵閣下の命は、奴らとの交渉で若を取り戻し奴らをアクロイア聖碑から退去させることです。私の身分で、その命に逆らうことなど出来ません」
「もう、よい! お前ら二人には何の期待もせん。我と騎士団が、あの二人の賊を退治してくれる。なぁ皆!」
ウオオオオオオッ
「やってやる、やってやるゾ!」
「我ら騎士団、地獄の底までお供いたします!」
「賊を殺せ殺せぇ!」
ああ、やっぱ止められないか。
あの若造を見てると、領主様の老獪さが頼もしく思える。
ウチの領の将来、大丈夫なんだろうな?
「…………しかたないか。おい、ステラ」
俺は後ろで小さくなっているステラを呼びつけると、そそくさと俺の側に来た。
「俺が若たちを足止めする。その間に、お前は連中に逃げろと言え。お前の言うことなら聞くだろう」
「大丈夫なの、兄ちゃん? 若さまと騎士団のみなさん、スゴく殺気だっているけど」
「しょうがないだろう。俺の頭じゃ、こうするしか若の自滅突撃を止められん。頼んだぞ」
ステラは俺が言った通りのことを猫又とウサ耳に伝えると、二人は不満をもらす。
「逃げる、ねぇ。ここで全滅させた方が後腐れないのに」
「ダメだよ。うちの若さまだから」
「じゃあ、後でひとつだけお願い聞いてくれる? それなら、いう通りにするけど」
「やるやる! なんでもするから!」
「よし、契約成立だ。おーいルバルくん。連中がボクらに追いつかない限り反撃はしない。せいぜい足止めをがんばって」
よしっ、向こうとの話はついたみたいだな。簡単すぎて羨ましい。
こちらは「やっぱり」というか激昂しまくり。ありとあらゆる暴言が飛び交っている。
「くぅおの裏切り者があああッ!! 賊を逃がすだと? よくも我ら騎士団を前に、痴れたことを言えたな!」
「ちっと領主様に気に入られてるからって、チョーシのりすぎなんじゃね? ブッ殺されルート入ったゾ、テメー!」
「かまうことぁねぇ! 賊に加担する者は賊! 先に血祭にあげてしまえい!」
領主家の若と騎士団とあろう者がガラの悪いことだ。
ま、猫又を相手にするよりは、こいつら相手に時間稼ぎする方が楽だ。
これがクエスト最後の山場。金のために命かけるとするか。
さて、連中はちゃんと逃げるかとチラリ見てみると、ちょうどマリンを扱っているところだった。
「それじゃウササがマリ姉を背負うウサ。よいしょっと……あれ、このボタンは何ウサ?」
ハッ! しまった、封印解除の魔導器具がマリンの側にあるんだった!
「おい、ウサ耳! そのボタンはぜったいに押すなよ!」
「ボタンは押すものウサ。もう押しちゃったウサ」
「なにいィィ!!!? この大バカ者ぉーー!」
ピシイッ
魔方陣の描かれている大岩に大きな亀裂が入った。
亀裂は全体に広がってゆき、やがて大岩が崩れてゆく。
「くそっ、なんだ? 本当に岩の中になにかが居る!」
気配を感じる。
とてつもない大物のナニかがそこに居る。そしてそれは目覚めた。
ガバッ
ふいにマリンが突然に目を覚ました。
「マリ姉、起きたウサ? あれを見るウサ。この気配って、もしかして……」
「ええ、わかっているわ。アレの気配で目をさましたもの。どうやら領主さまの言い伝えは半分だけ本当だったみたい」
それは聞き捨てならない。あいつらはあれが何かを知っているのか。
騎士団は崩れるアクロイア聖碑に気をとられているし、マリンに聞いてみるか。
「おい、マリン。領主家の言い伝えが半分本当ってのは、どういうことだ。知っているのか、アレを」
「封印されているのが大魔族ってのは嘘。だけど『中にいる者が世界を滅ぼす』って部分は本当かもね」
「同じことじゃねぇか。とにかく知っていることを全部話せ。あれはなんだ」
「…………そうね。こうなった以上、約束を破って真実を話すわ。先代領主さまが真竜を倒したって話はウソっぱちなのよ」
「はぁ? さっきは先代領主様の真竜退治は本当とか言ってただろう」
「そういうことにするって約束だったのよ。本当に真竜を倒したのはアイツ。最強の冒険者【キリュウ】よ」
冒険者……だと?
その程度の奴がなぜ物々しく封印なんかされているんだ。
それにマリンたちが何故、数十年前のその真実を知っているんだ?




