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G02「家がカラフル」R02

「ごめん、いきなり『テルヴェトゥロア』って完全に謎だよな。」


黒髪の先輩は苦笑しながら私たちを迎え入れてくれた。


「スカンジナビア半島にある国の言葉で『ようこそ』なんだ。どこだと思う?」


聞き慣れない響きが、耳の奥で小さく跳ねた。

あいの先輩は私たちをニコニコしながら眺めてる。


「スウェーデンですか?」


「ざんね〜ん、残り2ヶ国のどっちかよ〜」


「フィンランドっすか?」


「せいか〜い! 英語のウェルカムなの〜」


あいの先輩が親指を立てた。


黒髪の先輩は「ようこそ、地理研究部へ。」に続けて言った。

「部長の那須 瑞希(みずき)だよ。3年生。で、こっちが副部長の……」


「は〜い、愛乃で〜す。2年生で〜す。」


「ま、立ち話もなんだし、座って話そうか?」


入って左側の席に先輩たちが、向かいに私とまよちゃんが座った。


ニコニコしてる愛乃先輩は超がつく可愛さなんだけど、瑞希先輩は超がつくかっこよさ!


窓際の瑞希先輩のショートボブが春の日差しを受けて、ふわっと淡く金色に縁取られる。

切れ長の目に少し薄い唇、シルバーのピアスが控え目にキラッと光る。

何とか歌劇団の男役のイメージがピッタリはまる。

クールな印象だけど、もし見つめられたら、きっと抗えない。


隣のまよちゃんは、きょろきょろと部屋を観察中。

まるで初めての場所で安全確認するハムスター。ちょっと微笑ましい。

一通り見終わったらしく、小さく足をぷらぷらさせてる。


地学準備室は普通の教室の半分くらい。


入って右側には大きなホワイトボード。カラフルな気候区分図が貼られていて、その横に小型の冷蔵庫。上には電子レンジと電気ポット。

冷蔵庫の隣のワゴンには、ちょっとお高そうなティーカップが3セット、きれいに並んでいた。3人で放課後ティータイムでもするのかな?


東西の壁際には天井まで届く棚がぎっしり。地球儀や古い地図、ファイルや小物が雑多に詰め込まれていて、見ているだけで時間が過ぎそう。


窓際には長机が4台、その中央にデスクトップパソコンが2台。椅子には手作りっぽいパッチワークのクッション。

南向きの大きな窓からは、私たちの教室があるA棟がよく見えた。


初めて来たのに、不思議と落ち着く空間。


「名前を教えてもらっても良いかな?」


瑞希先輩の声でハッとなって、慌てて口を開いた。


「えっと、佐倉千登世です。こちらが……」


私が腰を浮かせるより先に、左隣のまよちゃんがぴょこんと立ち上がった。


「瀬戸真宵っす!」


元気よくホワイトボードに駆け寄り、2人分の名前をササっと書き込んでくれる。


「ちとちゃんの名前、合ってるっすよね?」


「ありがと、まよちゃん。」


満足げに席に戻ると、軽く肩をぶつけてくる。

それを見た愛乃先輩が手のひらを組み、目をキラキラさせる。


「ふたりは仲が良いのね〜。まだ入学2日目よね?」


「はい。私、人見知りなんですけど、まよちゃんが声をかけてくれて。」


「すごいカワイイ子がいるから、ナンパしないとヤバいと思ったっす!」


何を言い出すの⁉ 私、ナンパされたの⁉


「そうよね〜、真宵ちゃん、ナイス判断!」


「真宵、判断の天才っす!」


「ちょ、ちょっと待って、それ私のこと⁉」


「もちろんよ! 千登世ちゃん、照れるとさらにラブリー。」


うわ、そんなこと言われたら余計照れる。頬が熱くなっていくのが自分でも分かる。


瑞希先輩も笑顔で尋ねてきた。


「千登世さん、イタリアを当ててたよな?」


「あ、はい、何となくでしたけど。」


「部活紹介は、どうだったかな?」


ちょっと思い出しながら答える。


「最初は何がなんだか分からなかったんですけど、ケニアのシュノーケルの辺りから面白くなって。」


「で、真宵が一緒に体験会に行こうって誘ったっす!」


「じゃあ、興味はあるってことだよね。早速だけど、ジオゲをプレイしてみようか?」


まよちゃんと顔を見合わせ、大きく頷く。


「やってみたいです!」


「真宵もっす!」


「決まりね~」


愛乃先輩がパチンと手を叩く。


ジオゲに飛び込む。そのワクワクが炭酸の泡のように、胸の奥で弾ける。

「私だけの地図」作りが始まる。


でも、その道のりが長く複雑なことを、まだ私は知らなかった。

最初の1問目からうまくいくほど、甘くはなかったのだった。

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