G08「ガイドがいる」R07
デュエル第1ゲーム・"Move"、"Kadoo"さんの速さがキツい!
最初のラウンド4つは、タイ、ポーランド、オマーン、セネガル。
タイ語、ポーランド電柱、カメラカーのアンテナ、空の裂け目で何とか凌ぐ。
けれど、15秒制限で寄せられない。
差を少しつけられたけど、まだ全然大丈夫なはず。
次のラウンドから、ダメージ倍率が1.5、2.0と上がっていく。
私にもチャンスはあるはず。
第5ラウンドは、外すと怖い大国・ブラジル。
サバンナのような植生、中西部かな?
メタを見つけられないまま、また時間制限。
画面に顔を近づけすぎて、鼻先がモニターにぶつかりそうになる。
肩が強張って、背中が熱くなった。
んー、キッツい!
"Kadoo"さんは私より南に置いて、また差を広げられた。
結局、ずるずると逆転できずに、第8ラウンドで負けてしまった。
"Move"ではそれほど大きな実力差を感じなかったけど、寄せが私より上手い気がする。
続く第2ゲーム・"No Move"。
勝ちたい時はどうしてたっけ?
道場で正座するイメージ。
数秒間、目を瞑って、首を回す。
第1ラウンド、ズームで何度かアンテナを見て、ロシアは確定。
天気が曇りなのは、シベリア東の道路だったはず。
今度は私が先に"Guess"!
置いた場所は、正解まで100キロ。
"Kadoo"さんはチェリャビンスク。
"GG"が送られてきた。
1500ぐらいのダメージを入れられた。
「やったにゃ。」
次はアイスランド。
差は開かない。
第3ラウンド、ぱっと見で国が分からない。
植生が薄い。
1つ前のアイスランドみたいにも見えるけど、黄色センターライン。
「ノルウェー?」
看板がいくつか写っていて、ズームを繰り返す。
アイスランド語でも、ノルウェー語でも無い。
愛乃先輩が言ってた……。
「サーミ語かにゃ?」
ノルウェーの一番北、"Max North"に攻める。
祈りながら15秒を待つ。
当たりだった。
500ダメージ入ったのに、"Kadoo"さんは"GG"してくれる。
ちゃんとした人だ。
第4ラウンド、インド。
タミール語を見つけて、また500ダメージを入れられた。
ヘルスの差は2500。
第5ラウンド、また国が分からない。
赤茶というより黄土色の土。
左側通行でセンターラインは黄色?
ボラードも電柱も無い。
「ユーカリが無いにゃー」
うーん、ラリアか南アか。
30秒ほど悩み、オーストラリア南部に置く。
マウスのボタンを押した瞬間、胸の中にざらついた不安が広がる。
やってしまった。
体の奥で「ドクン」と心臓が強く跳ね、全身を走る血が一斉に赤く灯った気がした。
正解は南ア――。
1.5倍で、ダメージは4000。
ヘルスがスーッと減り、頭の中が真っ白になっていく。
逆転された事実が、ゆっくりと、でも確実に体を締めつけた。
第6ラウンド、チリ。
南北に長いのに、"Kadoo"さんはちゃんと寄せてきた。
あっけなく第2ゲームも取られて、私はデビュー戦を勝利で飾れなかった。
"Bye Bye"のジェスチャー。
肩をすとんと落として、マウスを軽く放り出す。
空いた手で、額の前髪をかき上げた。
「ふー」
深く息を吐いた。
思ったより、がっかりはしなかった。
今、出来ることはやれた気がする。
愛乃先輩は眉を寄せて、でも、いつものふわっとした声をかけてくれた。
「千登世ちゃん、今のは仕方ないわね〜、次よ次!」
「はい! 楽しかったです。」
「え〜と、なんか、"にゃーにゃー"言ってたわよ、千登世ちゃん。」
あ。まよちゃんに伝染された癖だ。
思わず両手で頬を覆った。耳まで熱くなっているのが自分でも分かる。
そうだ、まよちゃんの試合はどうなってるんだろ⁉
「スラウェシっす。」
まよちゃんは、第3ゲームの"Move"を取って、勝利を決めたところだった。
「まよちゃん、すごーい!」
「ちとちゃん、惜しかったっすね。ユーカリ生えてないラリアもあるっすもんね。」
「き、聞こえちゃってた?」
「"ユーカリが無いにゃー"って言ってたっす。」
「次の試合は気を付けるもん。」
「あら〜、ふくれてる千登世ちゃんも、キュートだわ〜」
「千登世ちゃんの次の相手は、隣の敗者の"KatakanaSignMeta"さんね。」
"Lower Bracket"に"Chito"が移動してた。
「真宵は隣の勝者だから、"Tawashi"さんっすね。」
"Mayo"は、そのまま"Upper Bracket"に表示されてる。
「千登世ちゃん、だいじょうぶよ〜、いつも通りやれば良いのよ〜」
「はい! 愛乃先輩の言語メタも梨沙子先生の植生も使えました。次は勝ちます!」
拳を握りしめて胸の前に突き上げた。
まだ震える手だけど、心の奥に小さな炎が灯っているのを感じた。




