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G08「ガイドがいる」R05

愛乃先輩の言語、瑞希先輩のカーメタ、梨沙子先生の植生――座学は十分すぎるほど濃かった。


でも、新人戦はデュエルとチームデュエル、つまり相手との戦いだ。

移動や15秒の制限は、実戦で慣れるしかない。だから私たちは夜ごとオンライン対戦に挑んでいる。


いつもの待ち合わせ場所で、まよちゃんに「後でね」とだけ言って別れる。

バイトがなくても時間が足りず、夕焼けの道を急ぐように自転車を漕ぐ。


帰宅して夕食と入浴を手早く済ませる。

パジャマ代わりの白Tシャツと水色のショートパンツに着替えたら、準備完了。


机の上には、バイト代で買ったばかりのモニターとマウス。

休日のショッピングモールで、まよちゃんと一緒に選んだ。

まよちゃんは小さめの黒いマウスを、私は薄い紫を。

代金を支払ったあと、まよちゃんのいつもの笑顔がまぶしかった。


少し物思いにふけっていると、ドアをノックする音がした。


「千登世ー、コーヒー要る?」


母は返事を待たずに入ってきてカップを置き、香ばしい湯気が部屋を満たした。

ふっと鼻に抜ける香りに、肩の力がほどける。


「千登世、あぐらはやめなさい。」


「ちゃんと正座するもん。」


「夜更かしはお肌の敵よ。」


軽口を交わしながら出て行く母に、声をかける。


「コーヒー、ありがと。」


なんだかんだ言いつつ両親は優しくて、剣道がジオゲに変わっても、応援してくれるのは変わらない。


コーヒーをひとくち。


「……さて、やるぞ。」


ジオゲを起動して"Duels"を選ぶ。

私のアバターはセーラー服の金髪で、まよちゃんは当然ギャル。


画面右上には"GOLD II"、2人で"BRONZE"から駆け上がってきた証だ。


"PLAY"を押そうとした瞬間、スマホの着信音が鳴る。

まよちゃんからだ。

メッセージアプリを立ち上げると、元気な声が響いた。


「ちとちゃーん、始めるっすか?」


「うん、ちょうど始めるところ。」


「じゃあ、お互い頑張るっす!」


「4時間は無理かな?」


「真宵、8時間寝ないとダメだから、3時間っすね。」


最初の対戦相手はタイの人。レーティングは私より少し上。


ウルグアイ、ベルギー、ニュージーランドと、お互いに大きくは外さない。


クリック音だけが、夜の静けさに響く。


4問目は、また左側通行、ボラードはオーストラリア。


私は西と読んで外し、差を広げられる。


「ラリア、ムズいよー。」


「ちょっと赤土の色合いが違うにゃー。明日、見ながら説明するっす。」


「まよちゃーん、ありがとー。助かるにゃー。」


ここ数日、まよちゃんと話しながらプレイしてて、猫語を伝染された。


続く5問目。


乾燥したベージュ色の地面、電柱はチリ。道路番号が取れない、マズい。


相手が"Guess"ボタンを押して、私の画面の枠が赤く点滅し始める。


えっと、植生が薄い。岩が目立つ山が見える。


「北部かな?」


正解は中部。また差を広げられた。


勝ったり負けたりを繰り返ししているうちに、時間はどんどん流れていく。


「ちとちゃーん、真宵、寝るっす。」


「うん、お休みー。もうちょっとやったら、私も寝るね。また明日。」


「にゃーん。」


まよちゃん、寝ちゃった。


通話が途切れたあと、私は1人で「にゃあにゃあ」言いながらプレイを続けた。


画面の向こうにいる相手の名前も、だんだんと見覚えが増える。

この人には勝った、この人には負けた……そういう記憶が積み重なる。


ベッドに潜り込むと、洗い立ての柔らかな香りがシーツから広がる。

脚に触れるひんやりしたシーツが、次の瞬間には体温でゆっくり温まっていく。

色とりどりの景色やメタが、まだ頭に浮かんでは消えていく。

胸の中がぽかぽかして、幸せだった。

遠くで小さな車の音。

世界がゆっくり眠りに包まれる。


「寝る、にゃ……。」

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