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G08「ガイドがいる」R04

「まず、2人の"現在地"を確認しないとね〜」


"Air Quote"をしながら、愛乃先輩がふにゃっと笑った。


今日の部室は、私とまよちゃん、愛乃先輩の3人だけ。

蛍光灯の白い光が机に落ちて、ホワイトボードには黒と青の文字がまだらに輝いていた。


瑞希先輩は、新人戦の数日後の模試の準備で、毎日は来られないらしい。


梨沙子先生はというと、「地理寄りになったらね」と、別の日にまとめて教えてくれることになった。


「ストリークなら、2人ともそこそこイケるわよね〜?」


「まだ、似てる場所を外しますね、南アとラリアとか。」


ジオゲ民が言う"ラリア"はオーストラリアだというのは、愛乃先輩が教えてくれた。


「真宵が知らない絵が出てくるっす。アルゼンチンとか。」


まよちゃんは、ぱっと見の印象だけでもかなり国を当てられる。

それでも、道路や標識などのインフラが無いと、特定できないことも多い。


「メタを書き出してチェックするのが良いかな〜」


先輩がホワイトボードに、国を特定する情報、"メタ"を書き出していく。

黒と青の文字が白に浮かび、赤マーカーも混じって信号機みたいに見えた。


道路標識、車のナンバープレート、道路のペイント、電柱、交通ルールがまず最初の5つ。

それから、先輩はさらに4つを書き足した。

言語、カメラカー、地形と植生、建築スタイルだった。


入部からひと月半、私たちはメタ学習専用のマップを繰り返しプレイしてきた。

専用マップは、"Guess"ボタンをクリックすると、写っていたメタを教えてくれる。

「八角形の電柱は主にメキシコ。グアテマラなどにもあるので注意」といった具合だ。


最初の5つのメタはほぼ頭に入り、国の特定ができるようになった。


それでも、2人でプレイしている時にこんなことが。


「このボラード、チェコとスロバキアだよね?」


「同じなんすよね。山が多いから、スロバキアっすかね?」


つまり、言語や地形といった他のメタを組み合わせる必要も多い。


小さく手を挙げて、愛乃先輩を見ながら"告白"する。


「言語はまだちょっとで、他はまだまだです。」


「真宵は、言語とカメラカーが苦手っす。」


まよちゃんは、一度見た景色は覚えてしまうので、植生や建築には強い。


「ふんふーん♪」と鼻歌を歌いながら、当ててしまうスタイルだ。


私は頭の中で見つけたメタを言葉にするタイプ。

自然と独り言が多くなる。


「"Rue"とボラードはフランス、市外局番あるけど、覚えてないなー。」


となる。


「じゃあ、2人とも言語は共通の弱点ね〜。任せて、私の得意なメタよ。」


愛乃先輩が、「キラッ」と音がしそうなウインクをしてピースサイン。

かわいいなー、もー。


「覚えることで勝率が上がる文字よね〜」


先輩がボードに書いたリストを、慌ててジオゲ用のノートに写す。


――――

即ゲス!

・日本語

・ハングル → 韓国

・中国語 → 簡単=香港、難=台湾/シンガ

・東南アジア いまいち分かんない → ※特訓

・ヘブライ □□みたいな文字 → イスラエル

・トルコ これも分かんない → ※特訓

・ギリシャ 数学のΣとかΘ出てくる。あればラク♪


この辺って分かる文字♡

・キリル Ж、Щ... → ロシア、ウクライナ(この2つ、ムズい)、ブルガリア、モンゴル、カザフ、タジク(気候が違う)

・アラビア → ヨルダン、オマーン、UAE、カタール(むしろカーメタ?)


ややこしい……

・バルト/フィンランド → 記号が付く、ü ö ä(あとでまとめて覚える♪)

・東ヨーロッパ → 記号が付く、čとかęとか

・インド → ヒンディー(上が繋がってる)、タミール...、多すぎ(/_;)

――――


「日本語と中国語の判別は簡単でしょ? 中国の2種類の漢字で大陸かどうか分かるわよね?」


「簡体字と繁体字ですよね。」


「そう、それ〜。難しい漢字は私は苦手なのよ〜」


先輩は両手のひらを上に向けて肩をすくめ、困った顔をした。


「タイ、カンボジア、ラオスは似てるけど、コツがあるのよ〜。画面でマップを拡大してみて?」


私たちがパソコンを操作する間に、先輩はボードに書き足す。


「私のイメージだけどね〜」


――――

タイ - 釣り針と渦巻き

カンボジア - ゴマ付きヘビ

ラオス - ふくらんだ小石

――――


「カンボジア、にょろにょろしてるっす!」


まよちゃんが体をくねらせる。


「そうなの。タイとはけっこう違うのよね〜。イメージを言葉にすると、分かりやすくなるの〜」


「インドも同じですか?」


「そうね〜、オディアはガイコツとか、シンハラは丸いで見分けられるわ〜」


「キリル文字が難しいっす。」


眉に力が入ってるまよちゃん、珍しいかも。


「あら〜、1日あれば読めるようになるわよ〜」


「マジっすか⁈」


「CがSとか、Xに縦棒が入ったのがZとか、置き換えるだけよ〜」


そう言いながら、ボードにスラスラと文字を書く先輩。


「愛乃先輩、すごいです!」


「1年以上やってるもの〜」


背中越しで表情は見えないけど、きっといつものふんわり笑顔。

先輩は簡単に言うけど、こういう努力を続けてきたことがはっきり分かる。

これが、今の私たちと先輩との実力の差。


続く1時間、ひたすら文字ごとの特徴を叩き込んでもらった。

私たちの"地図"の余白が、カラフルな"メタ"でどんどん埋まっていく。


「ちとちゃん、頭から湯気出てるっすよ。」


「……覚えることが多すぎます……。」


でも、不思議と嫌な疲れじゃない。


「文字をマスターすれば、国はもちろんリージョンゲスができるようになるわよ〜。」


――新人戦まで、あと2週間。

剣道は体が辛かったけど、ジオゲは脳みそが汗をダラダラかいてるような感覚。

合間に愛乃先輩の"お菓子ベストセレクション"があるとはいえ、キッツい!


こうして、私たちの本気の特訓が始まった。

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