表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/60

G08「ガイドがいる」R03

「あら、成績優秀な先輩が来たわよ?」


梨沙子先生の声と同時に、ドアがガラッと開いた。

夕焼けにはまだ早い時間、黒髪を揺らしながら瑞希先輩が部室に入ってくる。

肩から下げたバッグを机に置き、室内を一望して軽く会釈した。


「何の話ですか?」


先輩は怪訝そうに眉をひそめた。


「真宵とちとちゃんは地理満点だったっす!」


答案用紙をこれ見よがしに掲げるまよちゃん。

"100点"の赤インクが、車のテールライトみたいに視界を流れた。


「で、学年順位の話をしてたのよ。」


「あー、そういうことですか。」


瑞希先輩は腕を組んで、少し照れくさそうに笑った。


「瑞希ちゃんは何位だったの〜?」


「えーと、3位です。」


「「「すごーい!」」」


3人の声が重なり、思わず先輩は片手を振って制した。


「さすがねー。キープしてるじゃない。」


「いえ、上2人にずっと勝てなくて。」


声色に少しだけ悔しさが混じってる。

眉根に力が入り机に軽く手を置く姿は、やっぱりカッコイイ。


「入試本番まで維持すれば、行きたいところに行けるわよ。」


「だと良いですけど。みんなも頑張り始めてるから、気は抜けないですよ。」


「今日は何で遅かったんですか?」


「おっと、そうだった。教室で調べ物をしてたんだ。パソコンでみんなで見てみようか。」


先輩はシャツの袖を軽くまくりながら、いつもの声色に戻った。


私の席にみんなで集まり、先輩が言ったキーワードでネットを検索する。

見つかったのは、『ジオゲ Beginners Party』というウェブサイト。

青がメインのメカニカルな背景に、立体的なイベントロゴが銀色に浮いている。


「パーティーと銘打ってはいるけど、初心者限定の対戦イベントなんだ。」


「えっと、出場条件は『今年始めたプレイヤー』って書いてありますね。」


思わず、まよちゃんと顔を見合わせる。


「2人にぴったりね〜」


愛乃先輩は手の平でパチンと音を立て、ニコニコしてる。


「開催日は……、再来週の日曜っすよ?」


まよちゃんは画面を覗き込み、少し不安そうに指先で机の端をつついた。


「つまり14日後ですね。準備期間が短い気もしますけど……。」


はやる気持ちと不安が、胸の中でせめぎ合う。


「いつもと同じようにプレイすれば良いだけだよ。デュエルとチームデュエルがあるね。」


「あら。メンバーが2人なら、ちとまゆデビューじゃない?」


コンビの名付け親の先生が、ティーカップをくるりと回しながら、なぜか嬉しそうに言った。


「日曜の午後よね? みんなで部室に集まったら楽しいわよ〜」


「参加してみなさいよ、結果はどうあれ、何事も経験よ!」


先生が親指を立てた。


「ちとちゃん、やろう! 負けても勉強になるっすよ。勝ったら……もっとスゴいことになるっす!」


勢いよく椅子から立ち上がり、拳を突き上げるまよちゃん。

まよちゃんのやる気に満ちた目に、少し気圧される。


「……わかりました。出ます!」


言葉にした瞬間、その重さが肩に乗った感覚が生まれた。

でも、重さと同時に、心の中に濃い朱色の炎が灯った気がした。


愛乃先輩が、嬉しそうに両手を合わせて小さな拍手をする。


「やった〜! じゃあ今、エントリーしちゃいましょ。」


瑞希先輩が姿勢を正し、マウスをクリックして申込ページを開いた。


デュエルには"Chito"と"Mayo"で、チームデュエルは"ちとまよ"で各項目を記入する。


最終確認のボタンにマウスカーソルが置かれ、私は思わず息を呑んだ。


「千登世さん、クリックは君の役目だ。」


視線をまっすぐ向けてくる瑞希先輩。

指先が少し震える。でも、その震えごと、ボタンを押し込んだ。


「エントリー完了です。」


赤い背景に、『登録完了! 一緒に楽しみましょう!』という金色の文字が躍った。

その小さなメッセージが、これから始まる戦いの合図に思えた。


「よーし、新人戦に向けて猛特訓っすよ!」


まよちゃんがぴょんぴょんと跳ね回り、空気が一気に明るくなる。


――私たちの初めての公式戦は、新人戦に決まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ