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G08「ガイドがいる」R02

「もちろん英語は教えてあげられるけど〜、訛ってるわよ〜?」


梨沙子先生の向かいの席に座った愛乃先輩が、少し眉を寄せて困り顔をした。


「いーのよ、日本人よりマシでしょ?」


先生もけっこう英語はできるんじゃないのかな?


「1年生ってどのレベルだったか、忘れちゃった〜。教科書見せて〜」


先輩が斜向かいの席から、陶器のように透き通る腕を伸ばした。


「えっと。ちょっと待って下さいね。」


バッグからリスニングの教科書を取り出し、先輩に渡した。


「この辺かしら〜」


私の書き込みがあるページを見つけ、先輩は読み上げた。


"Hi, Emma. Are you ready for our trip next weekend?"

"Almost, Mark. I just need to decide which train to take to Greenhill."

"Well, there are two options. The express train leaves at 8:20 a.m. and takes 50 minutes. The local train leaves at 8:40 a.m., but it takes about 80 minutes."

"Hmm… the express sounds better. But is it more expensive?"

"Yes, it costs 1,800 yen, while the local train is 1,200 yen."


「うわっ、さすが、発音キレイですね!」


感心して口がポカーンと開いてしまい、先輩を凝視してしまった。


「英語っぽく発音したのよ〜」


左手の人差し指を桜色の唇にあててドヤ顔。

イヤミなぐらいキュートなんだよね、先輩。


「ホンモノの外人さんみたいっす!」


まよちゃんなんて、両手合わせて『ありがたやポーズ』してる。


「半分はホンモノだもの〜」


愛乃先輩がウインクを飛ばして、まよちゃんが「はうっ」って撃ち抜かれた。


「ハーフの子でも、外国語ができるとは限らないのよ〜。実際、妹は英語はちょっと苦手よ?」


「そういうものなんですか?」


「学校はフィンランド語と英語、家は日本語なの。頑張らないとどれも中途半端になっちゃう〜」


先輩は小さく肩をすくめて、困ったように笑った。


「なるほど。良いことばかりじゃないですね。」


いろんな言語を使い分けるの、大変だろうな。


「英語とそんなに違うっすか?」


少し首を傾げるまよちゃん。


「フィンランド語は母音をはっきり発音するけど、英語は弱化って言って弱くなるの〜」


先輩は教科書の文章の、"to Greenhill"を指した。


「英語ネイティブだと"to"が小さい『タ』で砂粒みたいに消えちゃうの。私は『トゥー』ってビー玉よね〜。」


先輩の唇の形が、2つの音で確かに違う。

意識しないようにしても、目がそこに吸い寄せられる。

人の口元をじっと見るなんて、普段はないのに。


「あと、フラットになるんじゃなかった? フィンランド語って。」


ティーカップを一度下ろして、先生は考えるように視線を上に向けて言った。


「そう! さすが梨沙ちゃん、詳しい〜」


「そもそも、アクセントが単純なのよね?」


「ぜんぶ最初にくるの〜。まるで階段を1段目でドンと踏む感じ。英語は2段目とか3段目で強く踏むから、リズム感が全然違うのよ〜」


手で涙を拭く泣き真似をする愛乃先輩も、可愛らしい。


「フィンランド訛りでもう一度読んでくれる?」


「え〜、恥ずかしいんだけど〜、梨沙ちゃんが言うなら……。」


先輩は照れ笑いを浮かべ、息を整えてフィンランド訛りで読み上げた。


「け、結構違いますね。さすがに分かります。」


「英語は波がある海だけど、フィンランド語は風が無い日の湖みたいっす。」


英語には抑揚があって、波のように上下するリズムがある。

でもフィンランド訛りの英語は、湖面みたいに静かで揺れがなく、平板に聞こえる。


「これで良かったら、『英語コミュニケーション』を教えてあげられるわよ〜」


「「愛乃先生! よろしくお願いします!」」


"Alright then, let’s get started, shall we?"


先輩はウインクして、完璧な英語を披露したのだった。

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