G01「草が長い」R04
中庭は思いのほか居心地が良さそうだ。
私たちの教室があるA棟と専門教室があるB棟の間は中庭になっている。
B棟の前にはサクラやハナミズキが植えられ、木陰にはベンチもあり、ちょっとした公園のようだ。
そのベンチの1つに並んで腰かけ、さっそくお弁当を広げた。
「うわ、ちっちゃ!」
「うわ、でかっ!」
同時にお互いのお弁当を見て叫んでしまった。
「まよちゃん、そのサイズで夕方までもつの⁉」
「このサイズっすから。」
まよちゃんは自分の頭のてっぺんに手を当ててドヤ顔を決め、そのままの表情で反対の手を私のお弁当に向けた。
「ちとちゃん、そんなに食べるのに細いのズルい!」
「このサイズだから。」
私もまよちゃんの真似をして自分の頭をポンポンと叩いた。
叩いた手のひらがじんわり熱くて、笑いながらも少しだけ照れくさい。
顔を見合わせた瞬間、2人で笑い崩れてしまった。
私がこんなしっかりお弁当を食べるのには、ちゃんと理由がある。
「私、ハラペコがダメで。」
「真宵も同じだよ?」
「んー、ちょっと違うんだよね……。」
ようやく箸をつけたところで、私はあることに気付いた。
「まよちゃんのお弁当、量は控えめだけど、キレイで美味しそう。」
お弁当には、小ぶりなハンバーグに薄切りマッシュルームが添えられ、ナポリタン、レタスで仕切られたポテサラ、プチトマト、定番のおかずが彩りよく詰められている。
「あー、うち、レストランなんだー、洋食屋?」
「へー、じゃあ、プロの料理ってことだよね?」
まよちゃんは箸を動かす手を止めて、指折り数え始めた。
「パパとママと、あとは調理専門のスタッフさんと、今はバイトが2人くらいかな?」
「まよちゃん、いつも美味しいもの食べてそう。」
「自慢じゃないけど、うち、うまいっすよ!」
「いーなー」
気付けば私は箸の動きがゆっくりになっていて、まよちゃんの話に耳を傾けながら、レタスの端を何度もつまんでいた。
「ちとちゃん、食べるの好きそ〜。今度遊びにくるっすよ。ごちそうするっす!」
腰に手を当てて胸を反らすまよちゃん。ボリュームあるな……。
「行きます! 行かせてください!」
と言いつつ、私はつい視線をまよちゃんの胸元に向けてしまった。
一瞬だけ目をそらそうとしたけど、遅かった。
それに気付いたまよちゃんは、胸をさらにぐいっと張って強調してみせた。
「背は伸びなかったけどー、こっちはどーんと、ほら。」
「うわ、でかっ!」
「さっきの真宵の真似っすね?」
「おいしいもの食べてると育つの?」
「ちとちゃんだって、けっこうあるっす!」
まよちゃんが両手をワキワキして、2人でゲラゲラ笑ってしまった。
さっきまで名前も知らなかったのに、まよちゃんと一緒にいると不思議と安心できる。
お箸を置いた指先が、ベンチの木目をそっとなぞっていた。
でも、本当に「友だち」って呼んでいいのかな。
ちょっとだけ不安もあるけど、それでも――声をかけてくれて、ありがとう。まよちゃん。
午前中に見たあの先輩たちの地図。
その鮮やかな線の端に、自分たちの場所を描き加えよう――まだ白紙の地図の片隅に、2人で初めての印を付けに行こう。




