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G08「ガイドがいる」R01

「ちとちゃーん、地理何点だったっすか?」


「満点だった!」


私は少し得意げにピースをする。


「まよちゃーん、地理何点だったの?」


「満点っすよ! 真宵、天才っす!」


まよちゃんも同じポーズ。


「ちとまよも好きねー。そろそろ飽きたでしょ?」


普段は瑞希先輩が座る窓際の席で、紅茶のカップを優雅に持った梨沙子先生が、ため息まじりに笑った。


実は、このやりとりをもう3回は繰り返していた。

満点の答案を手にした喜びは、簡単には薄れない。


「だって、嬉しいじゃないですか、満点って!」


思わず、両こぶしを握って、隣に座る先生に主張してしまう。


「そうっすよ!」


私の向かいに座っていたまよちゃんがぴょんっと立ち上がって、同じポーズをした。


先生は「気持ちは分かるわよ」と笑い、私もまたその笑顔に頷いた。


放課後の部室には、私とまよちゃん、そして先生だけ。

机の上には答案用紙が2枚、湯気をのぼらせるカップが3つ。

窓の外は、5月下旬の日射しでまだまぶしかった。


4限で答案が返ってくるまで、点数のことが気になっていた。


「よく頑張りましたね、佐倉さん。」


そのひと言と笑顔で努力が報われた気がして、胸につっかえていたものが無くなった。


「ありがとうございます!」


答案の返却は五十音順で、私の次はまよちゃん。


「はい、瀬戸さんも。よく頑張りました。」


「わーい、やったっすっ!」


2人そろって満点――高校最初の中間テストは、まずまずの滑り出しだ。


喜ぶ理由は2つあった。

1つは、梨沙子先生の期待に応えたいという思い。

もう1つは、じおげ部に入りバイトも始めた以上、両親に余計な心配をかけたくないということ。

どちらも、今の私を強く動かす動機になっていた。


「ちとちゃん、学年順位は?」


「えっと、英語のコミュニケーションがちょっと……。」


読み書きは得意だけど、喋るのは苦手意識が強い。


「それは真宵も一緒っす! 順位は?」


「きゅ、9位……。」


「はえっ⁉」


「あら、すごいじゃない。」


「すごい、ですかね?」


本心としては、ベスト8には食い込みたかった。


「ま、真宵、言えなくなったっす……。」


まよちゃんが下を向き、小さく丸まる。

膝を抱えて縮こまった姿は、まるで巣の中のハムスター。


「何位だったの?」


「に、29位っす……。」


「あら、全然悪くないじゃない。何が苦手なの?」


先生は紅茶をカップにつぎ足しながら聞く。

香りがふわりと漂った。


「古文と数学っす。」


「まよちゃん、次回、一緒に勉強しようよ。」


「良いっすか⁉」


「古文と数学、どっちも満点だよ、私。」


得意げにドヤ顔を決める。


「千登世先生! よろしくお願いしますっす!」


「うむ。くるしゅうない。」


「なにがくるしゅうないの〜?」


開きっぱなしのドアの影から、愛乃先輩がひょいと顔を出した。

気付いていなかった私とまよちゃんは、思わず肩を揃えてびくっとする。


「て、テスト勉強を、あの、一緒にやろうっていう話をですね。」


「仲良いわね〜、千登世ちゃんと真宵ちゃん。」


「愛乃ちゃん、テストの順位はどうだったの?」


「10位でした〜。真宵ちゃんと一緒で、古文が苦手なの〜。」


「ちょ、先輩、いつから聞いてたっすか?」


「『満点っすよ! 真宵、天才っす!』あたりからよ〜」


「あら、2人とも気付いてなかったの?」


「い、言ってくださいよ、先生!」


「言わない方が面白いじゃない、現にこうして。」


指を1本立てた先生は楽しそうに言った。


「愛乃ちゃんは、英語でコミュニケーションできるわよ?」

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