G07「ナンバープレートが赤い」R09
「はい佐倉千登世さん、ご苦労様でした。5月の給与です。」
ママが、『給与』と書かれた封筒と給与明細をちとちゃんに手渡したっす。
従業員更衣室は事務室も兼ねてて、ママは経理担当としての仕事中。
「あ、ありがとうございます!」
ちとちゃんの顔が、ぱーっと明るくなったっす。
「次は瀬戸真宵さん、ご苦労様でした。5月の給与と特別手当です。」
「ママ、特別手当って何? 初めてもらう気がするんだけど?」
中学生は正式にはバイトできないから、お小遣いとしてもらってたっす。
高校生になって2回目の給料日だから、手当というのは聞いたことがないっす。
「真宵が千登世さんを連れて来たでしょ?」
「そうだね。」
「研修担当もかって出てくれたでしょ?」
「全部じゃないけど、だいたいはね。」
「メイド服も提案してくれたでしょ?」
「うん。あ。」
マズいっす。ウソがばれるっす。
「あれ? まよちゃんがメイド服を選んだの⁉」
ちとちゃん、気付くよね。
ママがちとちゃんの肩をガシッ!と掴んだっす。
「千登世さん、これはビジネスよ!」
「は、はい?」
「千登世さんと真宵がメイド服で働いた結果、どうなったかという話です。」
「は、はぁ。」
「5月は前年度比、30%増の売上でした。これはすごい数字です。」
ママ、ニッコニコなんすけど。
「そこで当社といたしましては、功労者に特別加算金および特別手当をお出しすることにしました。」
ちとちゃんが、明細を見て目を見張ったっす。
「こ、こんなにいただけるんですか⁉」
真宵も明細を見て、ビビったっす。
「な、なにこの金額⁉」
「千登世さんはまだ研修中だから時給は低いわよ。来月から上げるけどね。」
ママがちょっと真面目な顔になったっす。
「でも短期間で戦力になってくれたので、引き留めの意味もあります。」
「引き留め、ですか?」
「バイトを続けて欲しい、ということです。」
「え、とんでもないです! 続けさせていただけるんですか?」
「もちろんよー、看板娘が2人に増えたんだもの、こちらからお願いするところよ。」
「ありがとうございます!」
「もー、普通に娘を看板にしないでよね。」
「いいじゃない、真宵、可愛いんだから。」
「そうだよ、まよちゃん、可愛いもん。」
「でもさ、ママ。多すぎない? 中間テストの間は休んでたのに。」
「あら、ちゃんと明細見た? 時給に労働時間かけて、特別加算金と手当を足すだけだもの。」
ママが指折って数えてるっす。
「あなたたち、税金とか社会保障費は払わなくて良いし。」
なんか色々あるんすね、大人の世界って。
「千登世さんなんて、あんなに恥ずかしがってたのに、頑張ってくれたし。」
「まだ恥ずかしいですけど……。」
「でも、ちとちゃん!」
「そうなの、まよちゃん!」
「「モニターが買える!」」
「あら、ジオゲ、だっけ? 大きいのが欲しいんでしょ?」
「うん、そうだよ。安くても3万円ぐらいするんだよ。」
「自分で稼いだお金だから好きなように使いなさい。多少失敗しても良いから。そうやって覚えるのよ。」
ママは親指を立てながら、ウインクしたっす。
学校では大きなモニターでプレイしてるけど、家でニャックだと狭いんすよね、やっぱり。
ちとちゃんも先輩たちにマウスのことを聞いてたから、一緒に買いに行くっすね。
明日にでもショッピングモールに行って……、そうだ、ちとちゃんのギャルファッションも探すっす!




