表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/60

G06「車が追いかけてくる」R09

言葉は知っていても、断層を直に見たことがある人は少ないんじゃないかな?


2つ目の目的地、断層が見られる公園には1時間ほどで着いた。


梨沙子先生は、駐車場の隅にある大きな看板の前に私たちを連れて行く。


「はい! 今からナマ断層を見るわよ!」


「ナマズかと思ったっす!」


腕をヘビのようにニュルニュル動かすまよちゃん。


「まよちゃん、ナマだよ、ナマズじゃないよ。」


「真宵ちゃんが今ナマズを連想したのは、昔の人が地震の原因だと思っていた話?」


「迷信っすよね?」


「それがね、あながち間違いじゃないのよ。」


まさか最新の科学で地下に巨大なナマズが発見される、ことはありえない。


「どういうことですか?」


小首を傾げてしまった。


「この断層は100年前に2メートル動いて、大地震を起こしたの。」


「看板に書かれてますね。マグニチュード7.3って。」


「そう。ところがね、地震の原因は断層だけじゃないのよ。火山活動でも引き起こされるし、スロースリップという現象も分かってきたの。」


「ゆっくり滑るってことですか?」


「ええ。数日から数ヶ月かけて、プレートがゆっくり滑るの。」


先生は、ゆっくりと両手の平を摺り合わせるように動かした。


「滑るときには、水やガスみたいな流体が関係してるの。『ニュルニュル』してる感じね。真宵ちゃんの腕のイメージ、実はけっこう近いかも。」


「真宵、イメージの天才っす!」


「人間の直感はバカに出来ないの。科学だから、ちゃんと証拠を集める必要はあるけどね。さて、証拠の例を見ましょうか。」


駐車場から石段を数歩上がった先に、それは突然現れた。


「赤い矢印が3組あるわよね? 結んだ線が断層の境界面。こっちの看板を見ながらだと分かりやすいわよ。」


先生が案内してくれた看板の図を見て、思わず私たちは声を上げた。


「ズレてる(っす)!」


まず、石を積み上げて作られた水路が、引き摺られたように曲がっている。


そして、もう1つ。

元は円だった石の列が真ん中で断ち切られ、向かい合う半円になってしまっている。


「誰が見ても明らかよね。このズレで最大震度6の地震が起きたの。震度は推測だけどね。」


「そんなに揺れたんですか⁉」


「40秒ほど強い揺れが続いたらしいの。想像してみて? そのズレの上にいたら、立っていられるかしら?」


ムリだ、と思った。

日本に住んでいれば、毎日のようにどこかで地震が起き、そのたびに「震源は……」という速報を聞く。


でも、その震源を実際に目の当たりにしたのは初めての経験で、胸がドキドキした。


「じゃあ、地下観察室も見てみましょう。」


看板の数メートル先に地下への階段があった。

そこに降りると、断層の断面といくつもの解説看板があった。


「時間はあるからじっくり見て良いわよ。」


先生はそう言って、私たちをおいて先に階段を上がっていった。


「ちとちゃん、真宵、怖いっす。今にも壁が動き出しそう……。」


まよちゃんの感想はもっともだった。

切り取られた断面には亀裂があって、その左右で土の色合いが全く異なっている。

これが動くのかと思うと、背筋がぞわっとした。


瑞希先輩がいつにも増して真剣な顔で口を開く。


「これは梨沙子先輩の受け売りなんだが……。」

「恐怖は知ること、理解することでしか乗り越えられない。その上で、正しく恐れなさい、と教えてくれたよ。」


愛乃先輩もいつもの笑顔ではなかった。


「梨沙ちゃん、さっき説明してたでしょ〜? 南海トラフのスロースリップが梨沙ちゃんの博士論文なの。」

「それを明らかにして、地震を予知するとか、被害を小さくするのが目標なんだって〜」


瑞希先輩が言葉を継ぐ。


「先輩は高校3年生をやってないんだ。」


「どういうことですか?」


「スキップしたのよ。2年次に大学に進学したの。」


そんなことが可能なの⁉


「さらにスゴイのはここからなんだ。大学も4年次をスキップして、特例で大学院に進学してるんだ、あの先輩は。」


「て、天才っすか?」


「ああ。天才って言葉はあの人のためにあるね。」


「博士号って普通は最短でも27歳。でも梨沙ちゃんは25歳で取ってるのよ。」


「『若気の至り』って言ってただろ? 高校の青春より学問を取った人だ。地震を憎み、地理を愛する人だよ。」


すごい……。

ジオゲの超人たちも驚異的だったけど、瑞希先輩をして「学歴バケモノ」と言わしめるのは納得だった。


「えーと。愛乃先輩が梨沙子先生にベタベタなのは、それが理由なんですか?」


「ん? 違うわよ〜?」


「え、違うんですか? なんか教祖みたいに崇め奉ってるのかと。」


まよちゃんが両手を合わせて拝むポーズをしている。


瑞希先輩がおでこに手を当てながら、大きなため息をついた。


「愛乃は、単に梨沙子先輩の顔が好きなだけだ。」


「「はぁぁぁあ⁉」」


まよちゃんと同時にくそでか、失礼しました、大声が出た。


「え? 百合っすか?」


愛乃先輩はまったく悪びれない。


「違うわよ〜。瑞希ちゃんも好きだけど、梨沙ちゃんはもっと好き〜」


そんなこと、ニコニコしながら言われましてもー。


「ちょっと待って下さい! 私、すごい感動してたのに! 返してください、私の純粋な心!」


ムダだと思いつつ、愛乃先輩に抗議してみる。


「はー、捗るっす。1ヶ月は補給無しで生きていけるっす……。」


まよちゃんはブツブツ言ってるし。


ニコニコしてる愛乃先輩と疲れた瑞希先輩。ヘラヘラしてるまよちゃんと、呆然としている私が車に戻った。


「どうしたの、あなたたち……。何かあったの?」


梨沙子先生は怪訝そうな顔を隠さなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ