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G06「車が追いかけてくる」R08

梨沙子先生のように研究すれば、私も世界を高い解像度で見ることが出来るようになるのかな?


先生の『特別解説付きお鉢めぐり』は小一時間だったけど、頭をフル回転させられた。

身近な例を引き合いにしつつ、「なぜ?」というのを徹底的に考えさせられた。


みんながリフトから降りたところで、先生は「よし! 次いくわよ。」と号令して……、ピタッと止まった。


「と、その前に。千登世ちゃん、お腹空いてる?」


「だ、大丈夫だと思います。」


「せんせー、ちとちゃん、お団子3本食べたっす!」


ぎゃー、まよちゃん、報告しないでー。


不意に全員の視線が集まり、恥ずかしさで体が固まった。

みんながこっちを見てた。


「あら〜、いつの間に食べたのかしら〜」


愛乃先輩が首を傾げてる。


「ちょっと何か買っていこうか。」


瑞希先輩が周りの売店を見回し始めた。


「は、はい。栗むしまんじゅう、大好きです……。」


俯きながら、小さく手を挙げて答えるのがせいいっぱいだった。


先輩たちがいくつか軽食になりそうなものを見繕って、私たちは先生の車に戻った。


どうして愛乃先輩は大きめのトートバッグを持ってきたんだろう?

朝の集合場所での疑問は、移動する車内で判明した。


「千登世ちゃん、これはどうかしら?」


「サクサクのパンに桜の風味の砂糖がたまらない美味しさです。」


愛乃先輩がトートバッグから出してくれたラスク。大好き。


「愛乃先輩、ありがとうございます!」


「良かったわ〜、色々持ってきて正解だったわね〜」


「ちとちゃん、ご所望のおまんじゅうっすよ!」


「最高です! 粒あんと甘露煮の大きめの栗の絶妙なバランス。」


これはさっき売店で瑞希先輩が買ってくれたやつ。大好き。


「ちとちゃん、ひょっとして嫌いな食べ物が全然無いっすか?」


「無い、かな?」


「ピーマンも好きっすか?」


「好き。チンジャオロース、大好き。」


「レバーは〜?」


「好きですよ? 甘辛く煮たやつで、ご飯何杯でもイケます。」


「となると、肉はもちろん?」


「だーい好きですよ、瑞希先輩。苦手ですか?」


「脂っこいのがあまり得意じゃなくてな……。」


「さっき食べてたからワサビも平気よね。唐辛子とか激辛はどう?」


「大好きです。キムチとかホットソースも全部オッケーです!」


「あ、サルミアッキはダメだったっすよ。」


「んー、初めてでビックリしただけで、次は平気だと思う。」


「マジっすか⁉」


「うん。私、小さい頃に『美味しいよー』って出されたものを何でも食べる子だったらしいの。だからかなぁ。」


私は頬をかきながら、照れてしまう。


「気持ち良いぐらい何でもよく食べるわね、千登世ちゃん。」


「なのに太ってないんすよ、ズルいんすよ、ちとちゃん。」


「き、気を付けてはいるよ?」


「そうよね〜、千登世ちゃん、スタイル良いわよね〜、胸もけっこうあるし〜」


一同黙り込む。


愛乃先輩はモデルみたいなプロポーションなんだけど、自覚が無いのかな?


「愛乃ちゃん、また大きくなった?」


「そうなの〜、そろそろ止まって欲しいな〜、梨沙ちゃん、止め方知らないの〜?」


「残念ながら理学博士にも分からないことはあるものなのよ?」


「ラブリーなブラが無くなっちゃうの、困る〜」


大きすぎるのも大変なんだなぁ。


「みんな、成長期なんだな……。」


瑞希先輩が助手席でボソッと呟いたのを梨沙子先生は聞き逃さなかった。


「瑞希ちゃん、何歳ごろから成長しだしたか覚えてる?」


「え、言わないとダメですか? ちょっと恥ずかしいです。」


「言わなくて良いから。何年目か頭の中で数えてみて。発育が始まってから大人の形、成人型になるまで6、7年なのよ。」


「えっと……。あ!」


先輩の顔がパッと明るくなった。


「保証はできないけどね。日本人ならそういうデータが出てるわ。愛乃ちゃんは当てはまらないと思う。」


私とまよちゃん、愛乃先輩も指折り数え始めたのは言うまでもない。

いや、まよちゃんも愛乃先輩も、私より大きいのに。

思わず自分の胸を両腕で押さえてしまった。

まだサイズが変わるのかな?と思ったことが、ちょっと恥ずかしかった。


「胸のサイズで悩むのは馬鹿馬鹿しいけどね。下着や服のことを考えると、そうとばかりも言ってられないのよ。ティーンにとっては切実だし。」


先生は続ける。


「好きなものを着れば良いのよ。でも、やっぱり体型に合う合わないはあるの。自分のことを知れば、服が選びやすくなるわよね。」


まよちゃんが口を開いた。


「真宵、両親も小さいから身長は諦めてて。なのに胸は育っちゃって。だから、どうしたら良いのかすごく調べたっす。」


「うん。真宵ちゃんのギャルファッションは大正解だと思うわ。すごく似合ってるもの。」


「やったっす!」


「瑞希ちゃんも千登世ちゃんも、よく分かってるわよね。愛乃ちゃんはもうちょっと勉強が必要かな。素材の良さを生かし切れてないわね。」


「愛乃、日本の『可愛い』がわからないの〜」


あ、なるほど。フィンランドとの行き来があったからか。


「はーい、自分の胸より、窓の外を見てー。」


車の右手の視界が開けて、空にカラフルな半月のようなものが2つ、3つ浮いていた。


「わー! あれ、何ですか?」


「パラグライダーよ。気持ち良いわよー。」


「怖くないっすか?」


「離陸するまではちょっとね。浮いた後は最高よ。」


先生はステキな大人だな。

先輩たちもチャーミングで、誰を目標にしたら良いのか迷うなんて、とても贅沢なこと。

ふわふわと飛ぶパラグライダーを眺めながら、そんなことを考えた。


車の窓から流れ込む風が心地良くて、胸の中に新鮮な空気が入ってくるようだった。

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