G06「車が追いかけてくる」R06
「お鉢めぐり行くわよー。」
梨沙子先生が売店の先で「おいでおいで」をしている。
先生の背後に澄んだ空が広がり、春の風が頬を撫でて、少しひんやりする。
私たちが集まると、先生は話し始めた。
「右手に見えてるのが噴火口。4千年前の溶岩湖の跡よ。」
「わー、見事にすり鉢っすね。」
私たちはその縁に立っていて、覗き込む格好だ。
底は平らで、今はアーチェリー場として利用されている。
水はどこに行っちゃったのかな?
「昔は湖だったことがどうして分かるんですか?」
「千登世ちゃん、その疑問がサイエンスよ。ちょっとこっちに来て。」
石段を少し登ると、一気に視界が開けた。
まず目に付くのは左手の富士山。今日も山頂の雪が白く輝いていて、見慣れた姿だ。
正面に目を移すと、大きな丘が見えた。
「あれも1万5千年前の噴火で出来た丘なの。その少し左を見て。湖があるでしょう? あれは10万年前の火口湖なの。半島の東部は火山でぼっこぼこなのよ。」
水のない場所なのに、昔は湖だったと分かるなんて不思議だ。
何か確かな証拠があるんだろうか?
「千登世ちゃん、納得してない顔ね。イイわね。それよ!」
そんなに顔に出てた? よく自信なさげって言われるけど。
「どういうことですか?」
「愛乃ちゃん、お願い。」
「は〜い。千登世ちゃん、真宵ちゃん。生き物が生きていくのに必要なのは?」
「水っす!」
あ、そっか。
「生物の痕跡があるってことですね。」
「そうなの〜、微生物の死体?が有機物として残るのよ〜。」
瑞希先輩が補足してくれる。
「死体というか遺骸かな。あとは珪藻の細胞壁は二酸化ケイ素。つまりガラスだ。これも残る。」
「はい、瑞希ちゃんもありがと。衛星や飛行機で見つけることもできるわ。堆積物で隠れちゃった、過去の地形とかね。」
先生が空を指さした。
手で光を遮っても、目を細めてしまう快晴。
「長い年月で森に覆われちゃうこともあるでしょ? そこから隕石の衝突跡を探すことさえ、今は出来るのよ。」
まよちゃんがキラキラのおめめになってる。
「先生、むっちゃ詳しいっすね!」
先生がピースサインをしながら答える。
「だって、この辺りの研究でドクターになったんだもの。」
「え⁉ 先生、博士なんですか⁉」
「そうよ? 博士って言うとカッコイイけど、要は地球オタクよ。」
先生はケラケラ笑ってる。
私とまよちゃんは呆気にとられて、言葉が出ない。
瑞希先輩がこそっと耳打ちしてくれる。
「梨沙子先輩、美人だけど学歴バケモノだからな。油断するなよ。」
先生が先輩をビシッと指さす。
「こら、そこ! バケモノって言ったな? 美人は許すけど。」
「先生、バケモノなんすか?」
「最年少で博士になってニュースになったのよ〜。梨沙ちゃん、スゴイんだから〜」
「若気の至りってやつよ。ランチの時に話してあげるわよ。ほら、南側に行くわよ。」




