G06「車が追いかけてくる」R04
ソフトクリームにワサビを入れた人は天才だと、私は思います。
梨沙子先生が言うとおり、1、2分で私たちは車を降りた。
先生の後に着いて、駐車場の隅の大きな看板の前まで移動する。
そこには説明と地形が描かれていて、『ジオパーク』というロゴが付いていた。
先生は振り返ったかと思うとちょっと大きな声で言った。
「さあ、今から地理で遊ぶわよ!」
地理で「遊ぶ」? どういうことなのか、いまいち分からない。
瑞希先輩が私とまよちゃんに耳打ちしてくれる。
「ここからが梨沙子先輩の本領発揮だよ。"地理の天才"による特別授業の始まりだ。」
心なしか、先輩の顔は興奮してるように見える。
大袈裟に言う人ではないけど、その言葉はピンとこなかった。
先生が看板を指さしながら、私とまよちゃんに質問する。
「2人とも、プレートテクトニクスは知ってる?」
「ヴェーゲナーって人が言い出したやつっす。」
「ちゃんと覚えててえらいわ、真宵ちゃん!」
「彼は大陸移動説を唱えたけど、動く理由が説明できなかったのよ。ちなみに彼の義理のお父さんは、気候区分で有名なケッペンよ。」
「マジっすか⁉」
まよちゃんが超ビックリして、目を見開く。
「マジよ、マジ。でね。今では大陸移動説は常識だけど、当時は誰も信じなかったわけ。このあたりは地動説と同じよね。」
「常識になったのは、大陸を動かす力が分かったということですか?」
そうでないと、プレートテクトニクスが古い常識を押し退けて主流になれないはずだ。
お腹空いたな……。
「千登世ちゃん、その通りよ!」と、先生がビシッと私を指さした。
「地球の中はドロドロに溶けて対流してる。その流れに地球の表面が乗ってる証拠が見つかったの。ヴェーゲナーは大陸だけが動くと考えたけど、実際は海底も動いてるわ。」
先生は左手の下に右手を滑り込ませる動きをしながら、続ける。
「現在、主なプレートは15個ぐらいと考えられてるわ。日本の周りでアムール、オホーツク、太平洋、フィリピン海という4つのプレートが衝突してるの。ほら!」
先生が指さした先は、看板の左上、『南から来た火山の贈りもの』と書かれているところだった。
日本列島の大部分はオホーツクとアムール、2つのプレートに乗ってることが図から分かる。
「私たちが住んでいるこの半島だけは、フィリピン海プレートに乗ってて、今も本州に衝突し続けてるのよ。生きてるの。」
「半島が生きてる」という表現はかなり衝撃的だった。
「先生が言ってた『聖地』って、そういう意味っすか。」
「ええ。ここには、地理と地学の最良の教材が全てあるの。今見えてる山も単成火山といって、とても珍しいのよ。」
「富士山が何度も噴火してて怖いっすよ。そのうちまた噴火するって。」
「火山灰や溶岩が層になってるのが成層火山で、富士山は典型例ね。単成火山は一度しか噴火しないの。面白いでしょ?」
「花火みたいっす! ね、ちと……ちとちゃん、それ……、いつの間に買ったんすか?」
「千登世、ハラペコはダメ。おいしいよ? ワサビソフト。」
「ち、千登世さん? 大丈夫なのか⁉」
「ピリッとするし、あまいし、サイコーです。」
「みんな! ちょっと休憩にするわよ!」




