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G06「車が追いかけてくる」R03

寝不足で、本革のシートに包み込まれて眠らないなんてムリでしょ?


「さあ、着いたわよー」


梨沙子先生の明るい声で、はっと目が覚めた。いつのまにか寝ちゃってた。

時計をちらりと見ると、8時半をちょっと過ぎたくらい。

ゆうべはなかなか寝付けなくて、やっぱり寝不足かな。


隣のまよちゃんは、まだちゃんと起きてない。


「んや……?」


と、小さく声を漏らして寝ぼけ顔。

あ……。慌ててハンカチを取り出す。


「よだれ……」


小声で耳元にささやきながら、そっと口元を拭いてあげる。


「あ、ひゃ、ありあと……」


まよちゃんが、耳まで赤くなって照れてる。

本当に、私の周りはキュートな人が多すぎるな。


車を降りると、愛乃先輩が「ん、ん〜」と気持ちよさそうに身体を伸ばしてた。


「さて。何が写ってると思う? お三方!」


その時、瑞希先輩がニヤニヤしながら、スマホをご老公の印籠のごとく突き出した。


あっ。


「や、やめてください、先輩! それはダメ、ダメなやつです! 恥ずかしくて死んじゃう!」


「可愛かったなー、寝顔。」


「きゃー、ホントにダメ、ホントにダメです!」


「ウソだよ、眺めてただけ。可愛かったのはホントだけどな。」


「も〜、瑞希ちゃん、たまに意地悪よね〜」


愛乃先輩は呆れながらも、にこにこと微笑んでいる。


瑞希先輩をちょっと真似してみよっ。


「愛乃先輩だって、寝顔がむっちゃ天使でしたよ。」


「あら〜、千登世ちゃん、それは事実だけど、ヒミツにしておいてね〜?」


余裕たっぷりなウインクで返されてしまった。

ちゃ、チャーミングすぎて完敗だ。


梨沙子先生が、最後に車を降りてくる。


「はい、みんなの天使の寝顔を、私と瑞希ちゃんで堪能してる間に到着ぅ。」


もー、先生にまで擦られるとは思わなかった。


「はい! 後ろを見て!」


「え?」


振り返ると、目の前の世界には2色しか無かった。

宇宙まで繋がってそうな青空に、鮮やかな黄緑に覆われた山が、くっきりと映えていた。


車が山と反対向きに停まっていて、気付いてなかった。


梨沙子先生が腰に手をあてて、得意げに説明する。


「桜の時期はすごい混雑なのよ。この公園からがやっぱり一番キレイね。」


先生が続ける。


「お椀を伏せたみたいって言われるけど、ドローンで撮影しないとそうは見えないわね。」


お椀と言うには稜線がなだらかすぎるかな?


「抹茶どら焼きっす!」


真宵ちゃんの独特な表現に全員から声が上がる。


「「「「あー」」」」


瑞希先輩が感心したように言う。


「形といい、色合いといい、『抹茶どら焼き』は言い得て妙だな。」


「もう少し遅いと、真緑になってもっとキレイなんだけどね。」


「こしあんのどら焼きと〜、お抹茶をいただきたいわ〜」


「こしあんでも粒あんでも、私は好きですよ?」


朝早かったからお腹が空いてきて、実際、あんの種類はどっちでも良かった。


「はい、それじゃ、リフト乗り場の駐車場に移動するわよ。」


「このまま歩いて登るのかと思ってました。」


お腹が鳴ってるので歩くのは無理です、とは言わなかった。


「昔は徒歩で登れたらしいが、今はリフトだけなんだ。」


「すぐそこだけど、ここに停めっぱなしというわけにもいかないしね。」

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