G06「車が追いかけてくる」R01
小学校の遠足って、なんで眠れないほどワクワクしたのかな?
何を着ていくか考えるだけで楽しくてしょうがない!
結局、シャツとカーディガンにベージュのキュロット、小さな黒のミニリュックにしたけど、胸がドキドキして全然寝付けなかった。
でも、朝起きた瞬間、『フィールドワーク』って言葉が胸の内で花火みたいにパーンってなって、一気に目が覚めた。
「7時ちょうどに迎えに行くわね」って梨沙子先生は言ってた。
家から駅の南口まで、歩いて25分、車なら10分ぐらい。
だから、待ち合わせの40分前に出ればちょうどいいと思ってた。
けれど母が、「先生にご挨拶しないとね」と車を出してくれて、かなり早く着いてしまった。
土曜朝の駅前は、人もまばらで客待ちのタクシーが数台。静かなロータリーは、かえって落ち着かない。
時計を何度か見直したころ、瑞希先輩と愛乃先輩が並んで歩いてくるのが見えた。
2人が小さく手を振ってくれて――うん、顔がほころんでしまう。
「おはようございます!」
「フオメンタ〜、千登世ちゃ〜ん!」
「えっと、フィンランドの『おはよう』ですか?」
「あったり〜! 千登世ちゃんは勘がイイわよね〜」
「おはよう。さすが千登世さん、一番乗りだな。」
先輩たちの服装は、くっきり対照的だった。
瑞希先輩は大人っぽいコーディネイトで、やっぱり憧れちゃう。
白いカッターシャツに紺色のカーディガン、黒のタイトなパンツにショートブーツ。
黒髪のショートボブも相まって全身がきりりと引き締まり、大学生でも通用しそうでカッコイイ!
一方、愛乃先輩は――視線のやり場にちょっと困る。
水色のシュシュでまとめたプラチナブロンド、前髪はさらりとサイドに流してピンで留めてる。
今日のメガネは黒の細いハーフリム。
少しきつそうな白ティーにデニムのジャンパースカート、ボリュームのある胸元がドバーンっと……。
肩から提げた大きめのトートも、便利そうだけど。
あれ〜? ファッションはあまり気にしないのかな?
愛乃先輩は私に向かって大きく両手を開いた。
「わー、キュロットでキレイめコーデ〜! お姉ちゃんとデートしよっ?」
ん? キレイめは分かってるっぽい。
「こら愛乃、手を繋いで歩き出すな、もう集合時間だぞ。」
手を取られた瞬間、疑問はどうでも良くなった。
そのまま会話していると、ロータリーに車が1台。
停まった後部ドアから、まよちゃんが飛び出してきた。
「おはよーございますっす!」
ぎゃ、ギャルだー! 私には絶対ムリな格好だー!
小麦色の肌とおへそがのぞく白いタンクトップ、その上に黒ジャケット。
グレーのデニムキャップからのぞく二つのお団子、ホットパンツから伸びる脚は黒の厚底ブーツでさらに強調されている。
まよちゃんは小柄だけどスタイル良いから、めっちゃ決まってる!
「ぎゃー、かわい〜! 真宵ちゃんもお姉ちゃんとお出かけしよ?」
あれ〜? 愛乃先輩にバッチリ刺さってる。
「わっ、ちとちゃん、私服もキレイめっすね!」
片手を愛乃先輩に繋がれたまま、まよちゃんの目はキラキラ。
「うん。こういうのしか持ってないから……。」
「えー、今度、一緒に買いに行くっす! ちとちゃんもギャルにするっす!」
「に、似合わないと思うな……。」
「だいじょぶっす! 真宵、コーデの天才っす!」
4人でキャイキャイ盛り上がっていたら、梨沙子先生が歩いてきた。
「みんな揃ってるみたいね。あら、真宵ちゃん、ギャルじゃない! かわいいわねー。」
あれ〜? 先生にもガッツリ刺さってるんですけど。
そんな先生はというと、意外にもスポーティ。
白いワッフル地のタンクトップに黒いパーカー、ライン入り黒スパッツにハイテクスニーカーを合わせてる。
髪を高めのポニーテールにした姿は、普段の落ち着いた雰囲気とは違って新鮮。
「梨沙子先生! かっこいいっす!」
「ありがと。フィールドワークは動きやすいのが一番よ! とはいっても、今日はそんなに動き回らないけどね。」
「先生、車はあっちですか?」
私はロータリーの奥にある駐車場のほうを指さした。
「ええ。みんな忘れ物はないわよね?」
「「「「はーい」」」」
「じゃあ、出発しましょ!」
私の母とまよちゃんのお母さんがお互いに挨拶をした後、先生とちょっと話してるのを横目で見る。
気持ち良く送り出してくれて、両親には感謝しかなかった。
いよいよフィールドワークが始まる!
期待で胸を弾ませながら、みんなと一緒に先生の車へと向かった。




