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G05「電柱が四角い」R04

着いた先は地学準備室、つまりじおげ部の部室。


中には、すでに瑞希先輩と愛乃先輩がいた。


「待ってたよ。千登世さん、真宵さん。」


「わ〜い、梨沙ちゃ〜ん!」


愛乃先輩が白峰先生に抱きつく勢いで駆け寄る、いや、実際に抱きついた。


「えっ?」

「はえっ⁉」


私たちの反応は、数日前と全く同じだった。


先生は屈託のない笑顔を浮かべて、「愛乃ちゃん、『梨沙ちゃん』はここだけにしてね」と軽く頭を撫でる。


「え〜、じゃあ梨沙ちゃん先生?」


「いいわよ、部室の外で言わなければね。」


「梨沙ちゃん、やさし〜。」


先生に頭をなでられて目を細めてる愛乃先輩、完全にネコみたい。


いや、それよりも。

この状況、何なの⁉


「ちょ、ちょっと待って下さい! 私たち、完全に置いてけぼりなんですけど⁉」


「そうっす、真宵、わけ分からないっす!」


瑞希先輩が笑いながら説明する。


「ごめんごめん。白峰先生は、じおげ部の顧問で」

瑞希先輩が一拍置き、いたずらっぽく笑った。

「先輩でもあるんだ。」


空気が一瞬止まった。


耳に入った"先輩"の2文字が、胸の奥でじわりと広がる。

まばたきを忘れたまま、私は白峰先生を見つめた。


「せ、先輩?」


声がわずかに上ずった。

部室の隅で湯気を立てるポットの音まで、やけに大きく聞こえる。


先生はそんな私の視線を受け止め、少し照れくさそうに微笑んだ。


「そうなの。もう10年ちょっと前になるけど、私もここで地図やら何やら追いかけてたのよ。当時の顧問の先生が素敵な方でね。私が大学で地球科学を学ぶきっかけをくれた恩師なの。」


大学で地球科学、だから地理はサイエンスだと言い切ったんだ、納得。


「だから、あなたたちが入ってくれて本当に嬉しいのよ。瑞希ちゃんと愛乃ちゃんだけじゃなく、また賑やかになるもの。」


「あ。私たちの入部を、先輩が先生に話してあったんですか?」


「梨沙ちゃん、顧問だもの〜」


「それで、『あなた"が"瀬戸さんね?』って言ったんですね?」


"Air Quote"をしながら聞いてみた。


「梨沙子先輩、今のお聞きになりましたか? 千登世さんの観察力、すごいんですよ。ちょっと驚かされます。」


「私はそこまで意識してなかったけど、よく気付くわねー。」


「真宵、全然気付いてなかったっすよ! ちとちゃん、ヤバくないっすか?」


「いえ、なんか『知ってる』感じに聞こえたんですよね。」


「まあまあ。立ち話も何だし、座って話しましょ?」


机の上にはお湯の入ったポットとティーカップが5つ。


それを見た先生が小さく笑う。


「私の分も用意してくれたのね。」


「先生のものだったんですね。3つあるから、誰のかな?って。」


実は部室に初めて来たとき、先輩たちのが2つ、あと1つは誰のだろう?って思ってた。


愛乃先輩が嬉しそうに頷く。


「は〜い、部室の備品ですよ〜。梨沙ちゃんのもちゃんとありま〜す!」


「ありがと、愛乃ちゃん。うれしいわ。」


「梨沙ちゃんと会うの久しぶりで、愛乃も嬉し〜。」


な、なんでこんなに愛乃先輩がベタベタなの?


先輩が自分のことを「愛乃」って言うのも、初めて聞くんですけど⁉

2人のやり取りを眺めていた瑞希先輩が口を開いた。


「千登世さんと真宵さんのティーカップも、愛乃が持ってきたよ。」


確かに! いつの間にかカップが2つ増えてる!

仲間に加えてもらえたみたいで、とても嬉しくなってしまう。


「やったっすよ、ちとちゃん! 正式に入部っす!」


あれ? ティーカップって部員のあかしなの?


「あ、ありがとうございます! 嬉しいです!」


「よろしくお願いしますっす!」


私たちは大慌てでぺこぺこと頭を下げた。


先生は紅茶を一口飲んで、心底嬉しそうに微笑んだ。


私の胸がじんと熱くなる。


昨日入部したばかりなのに、こんな風に歓迎してもらえるなんて。

じおげ部に入って良かった、と心から思えた。

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