G05「電柱が四角い」R01
魔法をかけられた女の子はちゃんと魔法使いになれるかな?
……それとも、ただの夢で終わっちゃうのかな。
ジオゲのワールドカップ映像は、現実感がまるでなかった。
私もまよちゃんも夢見心地で、坂道をゆっくり下っていく。
どっちもほとんど口を開かない。気持ちが沈んでるわけじゃない。
ただ、胸の中がいっぱいすぎて、うまく言葉にできないだけ。
待ち合わせ場所に決めた交差点に着いたとき、空は真っ赤に染まっていた。
「また明日ね。」
「またっす。」
もっと話したかった。でも、喉の奥で言葉がゆれて、形にならなかった。
家に帰ってからも、あの映像がぐるぐる頭の中を回っていた。
家族といつもの他愛ない会話をして、ご飯を食べて、お風呂に入って、髪を乾かして……、それでも心は完全に上の空。
スマホをぼんやりいじっていたら、いつの間にか眠ってしまった。
夢の中でも、あの決勝戦が何度も何度も繰り返される。
知らない国の白い壁の街並み、見たこともない植物の緑、真っ赤な土。
数秒でピタリと場所を当てる、超能力みたいな技。
でもあれは、魔法でも奇跡でもなくて。同じ地球の誰かが、本当にやっていること。
眠っているのに、なんだかお腹がジンジン熱かった。
翌朝はアラームより先に目が覚めた。
カーテンのすき間から、朝日がキラキラ差し込んでくる。顔を洗って髪をまとめ、鏡をのぞく。いつもより少しだけシャキッとして見えた。
朝ご飯を食べて「行ってきます!」と家を飛び出す。
ペダルをこぐ足に、まだ昨日のドキドキが残ってるみたい。
春の風が頬をくすぐった。
待ち合わせの交差点には、まよちゃんがもう着いていた。
「ちとちゃーん!」
元気いっぱいに手を振るまよちゃん。
胸の内の高ぶりを抑えきれず、私は自転車のままスーッと近づいた。
「すごかったよね!」
「すごかったっす!」
声がぴったり重なって、2人で吹き出してしまった。
「私ね、うまく説明できないけど、昨日からずーっと、胸の中で『すごい!』が大暴れしてるの!」
「ちょー分かるっす! 真宵も朝起きるまで『すごい!』以外覚えてないっす!」
「早く学校いこ! 先輩たちとジオゲしよ!」
「やりたいやりたいやりたいっすー!」
まよちゃんは手足をバタバタさせて猛アピール。
きっと、私たちは美しい2人の先輩に魔法をかけられたんだ。
講堂で、部室で、甘い言葉と香りとお菓子という形をした魔法を。
そして次は。私たちが誰かに魔法をかける番かもしれない。
そんな予感に包まれて、春の空を見上げた。




