G04「市外局番が難しい」R03
「United Kingdom of Great Britain and Northern Irelandっす!」
腰に手を当て、やや上を向いて得意満面。
「真宵、"United Kingdom"の天才っす!」
「ふんす」と鼻息までつける勢い。
「「「おー」」」
先輩たちと私の3人でそろって拍手した。
瑞希先輩が、ちょっと楽しそうに続ける。
「"English"はオランダ語で『エングレスフ』で、江戸時代の人には『エゲレス』って聞こえたらしい。これが『イギリス』の語源だよ。」
あ、そっか、鎖国してたからオランダ経由なんだ。
その間に、愛乃先輩が設定を終えて「英語にしたから、ジオゲの地図を拡大してみて〜」と促す。
まよちゃんがモニターを覗き込み、「ほんとだ、“United Kingdom”としか書かれてない」と感心してる。
次の瞬間、愛乃先輩が私の両肩に手を置き、ひょこっと顔を覗かせてきた。
耳元でやわらかく問いかけられる。
「次は千登世ちゃんね〜、スペインは?」
はうっ、み、耳がなんかこしょばい。
「す、"Spain"ですよね。でも、正式には、えっと、イスパニア? 自信ないですけど。」
「そうなの。"Reino de España"(レイノ・デ・エスパーニャ)、スペイン王国なのよ。」
「は、はい。」
先輩の顔が近すぎて、うなずくのが精いっぱいだった。
気を取り直して、他の国はどうなってるんだろう?と地図を眺める。
スペインから東へ、イタリア、ギリシャ、そこで見慣れない文字を見つけた。
「英語で国名が出てるけど、これ、なんでしょう?」
私の声にまよちゃんも身を寄せ、瑞希先輩も立ち上がってモニターを覗き込む。
4人の肩がぶつかりそうなくらい近づいて、心臓がやたらうるさい。
「"Athens"って、ギリシャの首都のアテネですよね。でもこの下の文字、数学でしか見たことがない気が。」
私の目線の先を、瑞希先輩がスッと人差し指でなぞった。
「シータだね。ギリシャは世界で唯一、ギリシャ文字を使う。だから、この文字が見つかれば、そこはギリシャだとわかる。」
「えっ、ギリシャ語も覚えなきゃダメなんすか⁉」
まよちゃんが大げさに机に突っ伏した。
「ワールドカップを目指す人なら、主な言語は読めるわよ〜。でも普通は、何語か分かれば十分じゃないかしら。」
愛乃先輩が珍しく真面目な表情で言った。
――え、今さらっと「ワールドカップ」って言った?




