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G04「市外局番が難しい」R02

席順に、利き手と運動部が関係していることは意外と知られていない。

何度か部室に通っているうちに、自然とみんな座る場所が決まってきた。


まず、愛乃先輩は左利き。

だから人の隣に座るときは、左側にいないと腕がぶつかっちゃう。

これが席順の第1条件。


そして第2条件は、私とまよちゃんが中学で運動部だったこと。


「どうして運動部だと入口側なの?」


運動部経験のない愛乃先輩は首をかしげる。


「先輩より先にパッと動く癖がついちゃってるっす。」


まよちゃんが、反復横跳びのようにシュッ、シュッと体を揺らして見せる。


「だからって入口側になる必要は無いだろう?」


瑞希先輩もいまいちピンときてない。


私は苦笑しながら説明する。


「誰かが来たとか、冷蔵庫を開けるとか、そういうときに、つい体が勝手に動いちゃうんです。」


愛乃先輩が少し眉根に力を入れて、でも優しい声で言う。


「大した手間じゃないから、気にしなくていいのよ〜」


「たぶん、これは"習い性"というやつです。」


"Air Quote"をしたら、先輩たちも納得してくれた。

結果的に、左奥の窓際に愛乃先輩。その向かいに瑞希先輩。

愛乃先輩の隣にまよちゃん。瑞希先輩の隣に私、この並びがいつの間にか定番になった。


私が席に腰を下ろしてデスクトップの電源を入れる。

起動を待っている間に右隣の瑞希先輩がふっとこっちを見た。


「2人とも、英語は得意かな?」


「この学校に来てるなら、苦手な子は珍しいんじゃな〜い?」


斜向かいの愛乃先輩がふにゃっと微笑む。

きっちりと三つ編みされたプラチナブロンドが、先輩のやわらかい雰囲気を増している。


進学校なので、英語が出来ない生徒は少ないだろうっていう先輩の言い分はもっともだ。


「でも、愛乃先輩を基準にすると、私もまよちゃんも得意とは言えないかもです。」


少し困った顔をしてしまったかもしれない。


「カイツブリよ〜、英語の読み書きはあまり得意じゃないのよ?」


ん?


「愛乃、『買い被り』な。『カイツブリ』は鳥だ。好きか嫌いか、を聞くべきだったね。」


瑞希先輩、容赦ないな。


私は机の端を指でなぞりながら、小さく答えた。


「そうですね、好きなほうだと思います。」


「真宵も好きっす!」


明るい茶色のショートヘアの先が、元気よくぴょこんと跳ねた。


「よかった〜。じゃあ、ジオゲの言語設定、英語にするわね〜」


愛乃先輩はまよちゃんの背後にふわりと回り込み、肩越しに手を伸ばしてパソコンを操作する。

まよちゃんは思わず肩をすくめ、目を細めてうっとりと息を吸い込む。

あ、また「くんくんモード」だ。

愛乃先輩は近くに来るとほんのり甘い香りがするから、つい私も。


疑問が浮かんだままじゃ落ち着かないので、私は瑞希先輩に尋ねた。


「でも、どうして英語にするんですか?」


指先で机をトントンと軽く叩きながら、瑞希先輩は静かに答えてくれる。


「日本語設定だと、地図上の地名は日本語になる。でも、ジオゲで映る標識や看板は?」


「当然、その国や地域の言葉ですよね?」


「そうなんだ。まあ、日本語が書かれてる標識は、日本以外では見ないね。残念ながら。」


甘い香りの罠から戻ってきたまよちゃんが、ハッと目を開いて口を挟んだ。


「あー、つまり、看板の文字と地図の文字を比べられなくなるってことっすか?」


「そうなの。現地そのままの言語で表示してくれないと、同じ地名かどうか判断できないのよ〜」


穏やかな声で付け加えた愛乃先輩は、私の背後にもふわりと回り込んできた。

ごめん、まよちゃん。今度は私が「くんくんモード」だよ。


部室が一瞬静かになったところで、瑞希先輩がまよちゃんに問いかけた。


「真宵さん、イギリスという国は知ってるよね?」


「もちろん知ってるっすよ!」


胸を張って即答するまよちゃん。


「では、その英語名は?」

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