G03「テントが大きい」R01
いるだけでその場が明るくなる人っていません?
いつだって弾けてるオンナノコ、まよちゃんがそれ。
「こんちわーっす!」
元気よくドアを押し開け、パタパタと小走りで部室に飛び込んでいく。
そのまま私も、握っていた手を引っ張られて続いた。
「テルヴェトゥロア〜」
昨日よりさらにふにゃふにゃ度を増した愛乃先輩が、ゆるっとした笑顔で迎え入れてくれた。
まよちゃんはそのまま愛乃先輩の正面、窓際の席に座り、私は瑞希先輩の正面に腰を下ろす。
ふと視線を上げると、光に透けた愛乃先輩の髪が肩の上でふわっと揺れていた。
「……やっぱりきれいな金髪。どうしてこんなに違うんだろう。」
「あら、千登世ちゃんの長い黒髪もステキよ〜。私には羨ましいのよ?」
しまった、心の声が漏れてた。少し慌てながら聞いてみる。
「黒い髪が珍しいんですか?」
「そうよ〜。フィンランドだと100人に1人か2人かしら。千登世ちゃんの髪はドキドキしちゃう。」
両手で頬を包み、体を少しくねらせながら言う愛乃先輩。
きょ、凶悪にキュート。
「愛乃先輩ってフィンランド出身なんすか?」
「父がフィンランドで、母はじゃぱ〜ん。」
ピースサイン。やっぱり普通の高校生っぽく……、見えないな。美人すぎる。
「お互いに無い物ねだりってことさ、佐倉さん。」
瑞希先輩が、肩をすくめて笑った、そのとき。
「パソコンが増えてるっす!」
まよちゃんが椅子から突然ぴょんと立ち上がって机を指さす。
昨日まで2台だったのに、今日は4台。
さらに腕を伸ばして、パソコンをペタペタ触って叫ぶ。
「まだ温かい、犯人は近くにいるっす!」
まよちゃん、ボケるなー。
「さっき生徒会の書記さんたちが来たのよ〜、犯人かもしれないわ!」
え、寸劇始まった?
小さく手を挙げて、私も乗ってみる。
「あ、あのー、警部。どういうことなんでしょうか?」
ちょっとニヤニヤする愛乃先輩を見て、スベったかもと思った。
「瑞希ちゃんが生徒会長に『新入部員獲得』って言っちゃったらしいわよ〜」
あー、これは良いタイミングかも。
深呼吸ひとつ分の勇気を込めて、口を開いた。
「……実は、来る前にまよちゃんと相談して、えっと、入部しようって、決めてきました。」
ほんの少しだけ、声が揺れた気がする。
まだ心のどこかで「大丈夫かな」って、問い返していた。
「そうっす! 入部届、欲しいっす!」
愛乃先輩がパッと立ち上がって声を弾ませる。
「ホントに⁉ 瑞希ちゃん、やったわー!」
瑞希先輩が、チカラが抜けたように椅子にもたれかかって呟いた。
「……よかった。ありがとう、2人とも。本当に……、ありがとう。」
私は慌てて立ち上がった。
「え、そ、そんな。」
焦って手を振る。
「やめてください!」
先輩たちは、ただ楽しくジオゲをしていたわけじゃなかった。
「部活紹介の内容はね、私たち、散々悩んだの。絶対に2人は部員を確保しないといけなかったから。」
愛乃先輩が、今までで一番真剣な顔をして話し始めた。
「ジオゲを楽しんでる様子を、そのまま見てもらうのが一番よね、って。でもね、ジオゲって難しいでしょ? 面白さが伝わるか、始まるまで自信がなかったのよ。」
先輩の声が徐々に震え始めるのが分かった。
「だからね、私も瑞希ちゃんも、すごい緊張してたのよ……。」
先輩の青みがかったグレーの瞳が、涙でうるうるしてる。波に洗われる宝石みたいにキレイだった。
声に詰まった愛乃先輩に代わって、瑞希先輩が言葉を継ぐ。
「卒業した先輩たちは時代だから仕方ないと言ってくれてたけれど、私たちの代で廃部になるのも悔しくてな。」
責任感の強さも、部への思いの深さも、その一言で伝わってくる。
私は胸が少し熱くなりながら、でも直接「思いは伝わりました」なんて言うのは、ちょっと照れくさい。
だから、選んだ言葉はこうだった。
「すごかったです。全然緊張してるようには見えなかったし、あの、私はすごく楽しかったです」
「ちとちゃん、『先輩たち超美人だったの♡』って真っ赤になってたっす!」
両手で頬を包みながら、まよちゃんがフォロー?した。
まよちゃん⁉ 私、そんなポーズしてないよ⁉
「じゃあ、熱烈なファンの気が変わらないうちに入部届ね〜。逃がさないわよ〜。」
まだ少し潤んだ瞳のまま、愛乃先輩が両手をゾンビみたいに前に出す。
最高に可愛くて美しくて、絶対にその手から逃れられない怪物が生まれてた。
「瑞希ちゃん、入部届どこ〜?」
「資料棚の上段にファイルが、って、愛乃、ぐちゃぐちゃになるから勝手に探すな!」
「え〜? 私が渡したいのに〜」
こういうのを見ると、この二人がただ仲が良いだけじゃないって分かる。
私とまよちゃんも、いつかこんなふうになれたらイイな。
悩みも喜びも、ため息も笑顔も、その場で分け合って背中を押し合える、そんな相棒に。
良いコンビになるために特別なことなんて要らないのかも。
先輩たちを見てて、私にも分かっちゃった。




